7年前。幼いミリアは頻繁に近所の道場に通っていた。
「おや、ミリアちゃん今日も剣の訓練か?」
 先に道場に来ていた大人に声をかけられ、ミリアはこくりと頷く。
「頑張るのはいい事だが程々にしておけよ? ミリアちゃんには戦いは向いてねぇよ」
 そんな言葉を無視し、彼女は模擬刀を手に取っる。
「幼馴染のウォリー君に近づきたい気持ちはわかるけどなぁ、結局戦闘じゃスキルがものを言うんだよ」
 ウォリーの名を出され一瞬彼女の動きが止まったが、すぐに模擬刀を振い始めた。
 ここの大人達は皆こうだ。ミリアには何も期待していない。
 日々どれだけ剣の修行をしても、チェス名人という戦闘向きでないスキルを持っている事で誰にも認められない。
 才能が無いくせに頑張り続ける哀れな少女だと思われているのだろう。
 そして大人達がいつも口にするのはウォリーの名だ。高い魔力と治癒師という便利なスキル持ちの彼の方に、大人達の期待は集まっている。

 道場からの帰り道。彼女はそのウォリーとばったり出くわした。
「あ、ミリア。今日も道場行ってたんだ」
「うん。そうだウォリー、ちょっと私と手合わせしましょっ」
 彼女はウォリーを誘い、道場へと引き返す。
 そして2人は模擬刀を持って向かい合った。
「さぁ、いつでも来なさい」
 ミリアが言うと、ウォリーは勢いよく彼女の方へ飛び込んで行った。
 彼の剣さばきはあまりにもぎこちなく、ミリアの目には止まって見えた。
 あっさりと攻撃を躱すと、下からウォリーの手元に攻撃を加える。
「うわぁっ」
 ミリアの一撃で、ウォリーの持っていた模擬刀は遠くへと弾き飛ばされてしまう。その勢いに耐えられず、彼は尻餅をついた。
 倒れる彼の喉元に、ミリアが模擬刀を向ける。
「相変わらず弱っちぃねぇ〜、ウォリーは」
 手合わせというのは口実で、実際の彼女の目的は憂さ晴らしだ。
 例え魔力やスキルで負けていても剣では彼女の方が勝る。いつも大人達に褒められているウォリーをこのように圧倒する事で、ミリアはストレスを発散していた。
「はは、やっぱミリアは強いなぁ。僕ももっと頑張らなくちゃ」
 自分が利用されている事も知らず笑顔になるウォリーを見て、彼女は鼻で笑った。

 そんな昔の記憶の映像から、ミリアは目を覚ました。。
「夢か……」
 つい昨日ギルドから追放されたばかりの彼女は、宿の一室で身を起こす。
「こんな時にあの頃の夢を見るなんてね……」
 今の彼女にとってウォリーの顔は1番見たくないものだ。追放で落ち込んでいた彼女の気分は更に暗くなる。
「さて、出発しますか」
 ミリアは大量の荷物を担いで宿を後にした。
 彼女はこれからこの街を出る。
 ギルドを追放され悪い噂が広まった以上、この街に居続けても肩身の狭い思いをするだけだった。
「はぁ」
 歩きながら彼女はため息を吐く。
 追放されても、別の街のギルドで冒険者をする事も出来る。しかし、今の彼女にその気力は無い。
 ウォリーを超えるために戦ってきた彼女の野望は、昨日潰えたのだ。もう冒険者を引退しようとも思っている状態だった。
 ようやく街の出口が見えてきた所で、彼女の足が止まる。
 目の前に、今1番見たくない顔があった。
「やぁ、ミリア」
 ウォリーは彼女の行く手を阻むように立っている。その手には、2本の模擬刀が握られていた。
「今あんたと話す気分じゃない」
 ミリアはそう返すと、そのまま街を出ようと歩き出す。
 そんな彼女に、ウォリーは模擬刀の1本を差し出した。
「手合わせしようよ。久しぶりにさ」