Aランク試験が終わった翌日。ギルド近くにあるレストランはいつも以上に賑わっていた。
「おぉ~来たぞ! 主役のお出ましだ!」
 ウォリー達が店に入るなり、歓声が起こる。
 今日この店は冒険者達の貸し切りで、ポセイドンのAランク昇格を祝して宴会が開かれる事になっていた。ウォリー達の昇格は他の冒険者達にとっても嬉しいことだ。Aランクのパーティはそう多くない為、今回の昇格はギルドの知名度にも大きく影響する。
 強いギルドに所属できる事も、冒険者にとっては名誉な事なのだ。
「さぁ座ってくれよAランクの皆さんっ」
 ウォリー達は促されながら着席する。テーブルには大量の食事が並べられていた。
「うわぁ、すごい」
 リリが目を輝かせながらテーブルを見渡す。
「皆さん……ありがとうございます!」
 ウォリーはそう言って周囲に頭を下げた。
「いいっていいって、お前達のおかげでまたうちのギルドの株が上がるってもんだ。今までレビヤタンが活躍してくれていたが、ジャックもミリアもあんな事になっちまったからなぁ……これからはお前達がギルドを盛り上げていってくれよ!」
 冒険者の1人がそう言ってウォリーの背中を軽く叩いた。
「ま、俺達だって負けるつもりはねぇけどな!」
 彼の言葉に、店中に笑いが起こった。
「さぁて、さっそく飯といきたいところだが、その前にせっかくだ、今日の主役に挨拶をいただきたい」
 店内の視線が一斉にウォリーに集まった。ポセイドンのリーダーはウォリーだ。皆彼の言葉に期待していた。
しかしウォリーはそれに応える代わりにダーシャを見た。
「じゃあダーシャ、お願い」
「えっ⁉ な、何でだ! ここはウォリーの役目だろう!」
「こんな機会滅多にないんだ、たまにはいいんじゃないかな」
「う、うぅ……しかしいきなりこんな」
 ダーシャは魔人族。彼女はこのギルドに来た時差別を受けている身だった。しかし今冒険者達は彼女を祝ってくれている。今この場で彼女に発言させる事は、この国と魔人族との関係に大きな影響があるとウォリーは思ったのだ。
「んっ、んんっ!」
ダーシャは咳払いをしながらその場に立ち上がった。
 魔人族を差別する国でダーシャが発言する。その事に異議を唱える者は居なかった。むしろ皆静まって彼女の言葉を待っている様子だった。
「見ての通り、私は魔人族だ」
冒険者達を見渡しながら、彼女は語り始めた。
「私はこの国と魔国の友好関係がもっと進展する事を願い、ここへ来た。冒険者になったのは、自分の強さを見せつけるためだ。このギルドで功績を上げて私の実力を示せば、皆が私を尊敬し、魔人族を認めてくれると……そう思っていたが、彼と出会って考えが変わった」
 彼女は少し黙ってから、ウォリーの方を見た。
「初めて会った時、こいつはバカだと思った。余計なお節介をしてくるし、自分が危険なのにも関わらず私を助けようとしてくる。危なっかしい奴だ」
 そう言われてウォリーは恥ずかしそうに顔を歪める。
「ホントよ……」
隣でハナが呟いた。
「しかし彼が人を助けるたびに仲間が増えていった。ここに居るリリは前パーティの虐待からウォリーに助けられ、仲間になった。ハナの妹は病気だったが、彼がそれを助けた事で最終的にハナはミリアより我々に味方してくれた。今私達がここに居るのは、強さだけではない。人助けによる繋がりがあったからだ」
 はじめこそここで発言するのを躊躇していたダーシャだったが、今は胸を張って周囲の冒険者たちに語っている。彼女は握りこぶしを作り、自身の胸に当てながら言った。
「ウォリーと共にして、冒険者はただ強さを求めるだけでは駄目なのだと学んだ。大切なのは人を助けたいと思う心だ! 冒険者は誰かを助けるために存在する! だからこれからも我々は、このギルドで多くの人の助けになりたい!」
 その言葉に、周囲から拍手が起こり、ダーシャは驚いて目を丸くする。魔人族である自分の言葉に対して、このような反応が返ってくるのは彼女も予想外だった。しかし今彼女の周りには軽蔑の目を向けるものは居ない。皆笑顔で彼女に拍手を送っている。
「さて、それじゃあポセイドンのA昇格を祝して……」
「乾杯‼」
皆が声を揃えて叫ぶと、賑やかなパーティが始まった。

飲み、食べ、歌い、楽しいひと時が過ぎていき、宴会がひと段落ついた頃だった。
ハナがウォリーに小さく囁きかけた。
「ねぇ、ちょっと外出ない?」
「え?」
「あんたに話しておきたい事があるの。2人きりがいいわ」
 皆が談笑をしている中で、ウォリーとハナはこっそりと店の外へ出ていった。