ウォリー達ポセイドンのメンバーは揃ってギルドを訪れていた。
昨日Aランク昇格試験の事を受付で知らされ、彼らは自宅に帰ったあと話し合いを行った。
クラーケンドラゴンの強さはメンバーの全員が思い知らされている。すんなり受けようという風にはならないだろうとウォリーは思っていた。
しかし、彼の予想に反して話し合いは簡単にまとまってしまった。
昇格試験を受ける。その方向で意見は一致していた。
ダーシャも、リリも、メンバーの互いの強さを信頼しているようだった。
クラーケンドラゴンは確かに強い。しかし正直な所、ウォリーもこのメンバーならば勝算があると思っていた。
仲間達を過大評価しているつもりはない。純粋に彼女達の強さを信頼していた。
「お願いします」
ウォリーは受付に立ち、書類をテーブルに置いた。
ポセイドンのメンバー全員の署名が入ったAランク昇格試験の受験申請書だ。
「受験申請ですね。少々お待ちください」
そう言って申請書を受け取ったのはペリーだった。かつてウォリー達に散々牙を剥いてきたこの男が、今では生まれ変わったかのように大人しく受付業務を行なっている。
一体何があればここまで人間が変わるのか、ウォリーはベルティーナが彼にどのような教育を行なったのか想像するだけで寒気がした。
「お待たせしました。こちらが試験の詳細な日時や場所の資料でございます」
ペリーが丁寧にウォリー達に資料を手渡した。
「くれぐれも返り討ちに合わないようにお気を付けください」
ペリーがそう言って不気味な笑みを浮かべた。ウォリーはペリーが完全に心を入れ替えたのかと思っていたが、それは間違いだった。
態度こそ丁寧な受付係だが、彼の心の芯の部分には邪悪な感情が残っている。
彼の不敵な表情がそれを物語っていた。
ウォリー達の身を案じるような言葉を吐く裏で、内心彼はウォリー達が試験に失敗する事を望んでいるのだ。
ペリーがそれを期待するのも無理はない。それ程に今回の試験は難易度が高い。
ウォリーは渡された資料に目を通しながらギルドを出て行った。
資料にはクラーケンドラゴンが潜んでいるダンジョンの位置や、試験の期日が記されていた。
クラーケンドラゴンは今回はダンジョンの外には出ていない。ウォリー達の方から敵の巣穴に飛び込んでいく事になる。
試験の達成条件は期日までにクラーケンドラゴンの首をギルドに提出する事。
その期日までにはまだ6日程ある。
ウォリー達は試験までは万全な状態を保つため、他の依頼を受ける事はしないと決めていた。
しばらくは武器のメンテナンスを行なったり、買い出しに行って戦闘に必要な道具を揃えたりする事になるだろう。
ただ、ウォリーにはそれ以外にもやっておきたい事があった。
「ハナ、ちょっとお願いがあるんだ」
ギルドからの帰り道を歩きながらウォリーは言った。
「何?」
「試験までにはまだ時間がある。その前にハナの妹に会っておきたいんだ」
ハナは驚いてウォリーを見つめた。
「何でよ、マロンの事はあなたには関係ないでしょ」
「でも、心配なんだよ。病気なんだよね?」
「別にあなたが心配するような事じゃないわよ。私の家族の問題なんだから!」
ハナは少し苛立った様子を見せた。これは彼女にとってもデリケートな問題だ。ウォリーもそれは理解していた。
「僕に何か出来る事があれば……」
「簡単に言わないでよ! そんな事があればとっくに妹は治っているわ! 今までどこの医者に頼んでも治せなかったんだから!」
ウォリーは回復魔法が使える。しかし、回復魔法が効力を発揮するのは戦闘で受けた新しい傷などに対してのみだ。長期間に渡って身体を蝕んでいく病気には効力は無い。
もし回復魔法で治癒できるのなら、ハナはウォリーが治癒師だった頃にとっくに頼み込んでいた事だろう。
「今更あなたに何が出来るっていうのよ」
「……わからない」
ウォリーの返答に、ハナは呆れたように溜息を吐いた。
「でも、僕のスキルなら助けてくれると思うんだ。スキルの事は前にも説明したよね?」
それを聞いてハナははっとして顔を上げた。
「お助けマンのおかげで、今まで何度もピンチを切り抜けて来れた……お助けマンはその時々に応じて必要なスキルを与えてくれるんだ」
「本当に……出来るの?」
先程までの怒りの篭っていたものとは違う、期待が生まれ始めたような声でハナは言った。
「お助けマンは特に、僕が誰かを助けたいと願った時に力を貸してくれる」
ウォリーは瞳に力を込めてハナを見つめた。
「僕は、マロンさんを助けたい」
場に少しの沈黙が落ちた後、ハナはゆっくりと頷いた。
「わかったわ……」
「よし! 決まりだな!」
ハナが答えた瞬間、ポンと彼女の肩が叩かれた。
今まで黙って聞いていたダーシャだった。
「妹の好物は何だ? せっかくだし作って持って行ってやるぞ」
「マロンさんは犬は大丈夫ですか? ブレイブも連れて行っていいですかね……?」
笑顔でそう言うダーシャとリリを見て、ハナが慌て出す。
「ちょ、あんた達も来るの!?」
「当たり前だろ。確かにお前は嫌味な奴だが、それでも同じパーティの仲間だ」
「ハナさんの妹さんがどんな人なのか興味もありますしね」
2人に言われて恥ずかしそうにしているハナを見て、ウォリーは微笑んだ。
昨日Aランク昇格試験の事を受付で知らされ、彼らは自宅に帰ったあと話し合いを行った。
クラーケンドラゴンの強さはメンバーの全員が思い知らされている。すんなり受けようという風にはならないだろうとウォリーは思っていた。
しかし、彼の予想に反して話し合いは簡単にまとまってしまった。
昇格試験を受ける。その方向で意見は一致していた。
ダーシャも、リリも、メンバーの互いの強さを信頼しているようだった。
クラーケンドラゴンは確かに強い。しかし正直な所、ウォリーもこのメンバーならば勝算があると思っていた。
仲間達を過大評価しているつもりはない。純粋に彼女達の強さを信頼していた。
「お願いします」
ウォリーは受付に立ち、書類をテーブルに置いた。
ポセイドンのメンバー全員の署名が入ったAランク昇格試験の受験申請書だ。
「受験申請ですね。少々お待ちください」
そう言って申請書を受け取ったのはペリーだった。かつてウォリー達に散々牙を剥いてきたこの男が、今では生まれ変わったかのように大人しく受付業務を行なっている。
一体何があればここまで人間が変わるのか、ウォリーはベルティーナが彼にどのような教育を行なったのか想像するだけで寒気がした。
「お待たせしました。こちらが試験の詳細な日時や場所の資料でございます」
ペリーが丁寧にウォリー達に資料を手渡した。
「くれぐれも返り討ちに合わないようにお気を付けください」
ペリーがそう言って不気味な笑みを浮かべた。ウォリーはペリーが完全に心を入れ替えたのかと思っていたが、それは間違いだった。
態度こそ丁寧な受付係だが、彼の心の芯の部分には邪悪な感情が残っている。
彼の不敵な表情がそれを物語っていた。
ウォリー達の身を案じるような言葉を吐く裏で、内心彼はウォリー達が試験に失敗する事を望んでいるのだ。
ペリーがそれを期待するのも無理はない。それ程に今回の試験は難易度が高い。
ウォリーは渡された資料に目を通しながらギルドを出て行った。
資料にはクラーケンドラゴンが潜んでいるダンジョンの位置や、試験の期日が記されていた。
クラーケンドラゴンは今回はダンジョンの外には出ていない。ウォリー達の方から敵の巣穴に飛び込んでいく事になる。
試験の達成条件は期日までにクラーケンドラゴンの首をギルドに提出する事。
その期日までにはまだ6日程ある。
ウォリー達は試験までは万全な状態を保つため、他の依頼を受ける事はしないと決めていた。
しばらくは武器のメンテナンスを行なったり、買い出しに行って戦闘に必要な道具を揃えたりする事になるだろう。
ただ、ウォリーにはそれ以外にもやっておきたい事があった。
「ハナ、ちょっとお願いがあるんだ」
ギルドからの帰り道を歩きながらウォリーは言った。
「何?」
「試験までにはまだ時間がある。その前にハナの妹に会っておきたいんだ」
ハナは驚いてウォリーを見つめた。
「何でよ、マロンの事はあなたには関係ないでしょ」
「でも、心配なんだよ。病気なんだよね?」
「別にあなたが心配するような事じゃないわよ。私の家族の問題なんだから!」
ハナは少し苛立った様子を見せた。これは彼女にとってもデリケートな問題だ。ウォリーもそれは理解していた。
「僕に何か出来る事があれば……」
「簡単に言わないでよ! そんな事があればとっくに妹は治っているわ! 今までどこの医者に頼んでも治せなかったんだから!」
ウォリーは回復魔法が使える。しかし、回復魔法が効力を発揮するのは戦闘で受けた新しい傷などに対してのみだ。長期間に渡って身体を蝕んでいく病気には効力は無い。
もし回復魔法で治癒できるのなら、ハナはウォリーが治癒師だった頃にとっくに頼み込んでいた事だろう。
「今更あなたに何が出来るっていうのよ」
「……わからない」
ウォリーの返答に、ハナは呆れたように溜息を吐いた。
「でも、僕のスキルなら助けてくれると思うんだ。スキルの事は前にも説明したよね?」
それを聞いてハナははっとして顔を上げた。
「お助けマンのおかげで、今まで何度もピンチを切り抜けて来れた……お助けマンはその時々に応じて必要なスキルを与えてくれるんだ」
「本当に……出来るの?」
先程までの怒りの篭っていたものとは違う、期待が生まれ始めたような声でハナは言った。
「お助けマンは特に、僕が誰かを助けたいと願った時に力を貸してくれる」
ウォリーは瞳に力を込めてハナを見つめた。
「僕は、マロンさんを助けたい」
場に少しの沈黙が落ちた後、ハナはゆっくりと頷いた。
「わかったわ……」
「よし! 決まりだな!」
ハナが答えた瞬間、ポンと彼女の肩が叩かれた。
今まで黙って聞いていたダーシャだった。
「妹の好物は何だ? せっかくだし作って持って行ってやるぞ」
「マロンさんは犬は大丈夫ですか? ブレイブも連れて行っていいですかね……?」
笑顔でそう言うダーシャとリリを見て、ハナが慌て出す。
「ちょ、あんた達も来るの!?」
「当たり前だろ。確かにお前は嫌味な奴だが、それでも同じパーティの仲間だ」
「ハナさんの妹さんがどんな人なのか興味もありますしね」
2人に言われて恥ずかしそうにしているハナを見て、ウォリーは微笑んだ。