「てやあああ!」

 両手に黒炎の爪を纏い、ダーシャが敵陣へ斬り込んで行く。
 ウォリー達は今、ダンジョンでオークの群れに囲まれている。
 彼らが受けた依頼はオークの討伐。
 オークが増殖し過ぎた事で、ダンジョンからオークが溢れ出て周辺の村や街に被害が出はじめていた。
 モンスターと野生動物の違いはその増え方にある。
 動物が生殖活動によって増殖するのに対して、モンスターはダンジョン内で自然発生する。
 これはダンジョンという場所が持つ魔力によって起こっているとされているが、詳しい事はまだ解明されていない。
 冒険者がダンジョンに潜り討伐を繰り返してもモンスターが出続ける理由はそこにあった。

 ウォリー達を待ち受けていたオークはざっと見ても50体は超えていた。
 オークというモンスターは知能が高い。
 人間のように武器を使ったり、戦略を練って攻撃をしてきたりする。
 稀にスキル持ちのオークも存在するという。

 ギンッと金属音を鳴らしてウォリーはオークと刃を交えた。
 ウォリーは屈強な肉体を持つオークの攻撃を軽々と受け流し、素早くオークの腹を斬り裂いた。
 お助けポイントで強化された今のウォリーならオークとも正面から十分に戦える。
 ウォリーが数体のオークを斬り伏せた時、数本の矢がウォリーに向かって飛んできた。
 オークの武器は剣だけではない。
 離れた場所の岩陰には弓矢を構えたオーク達が潜んでいた。
 その時、ウォリーの周囲に半透明の壁が出現し、飛んでくる矢は全て弾かれた。
 リリの防壁魔法がウォリーを守ったのだ。

「リリ! ありがとう!」

 ウォリーはリリの方を振り向かずに叫んだ。今は戦闘の最中。敵から目を逸らすわけにはいかない。
 ウォリーは目の前に迫って来るオーク達に剣を振るった。


 数十分後、その場には大量のオークの死体が転がっていた。
 ウォリー達のパーティは皆高い実力を持ってはいたが、これだけ敵の数が多いとかなり体力を消費する。
 しかし、彼らは何とかこの場を凌ぎきる事が出来た。
 オーク達を全滅させ、今この場に立っているのはウォリー達4人だけだ。

「みんな、ありがとう。これで依頼は達成だ」
「流石に骨が折れるな。私1人でも20体は倒したぞ」

 ダーシャが息を切らしながら言った。

「あら、私は30体は倒したけど?」

 ハナが涼しい顔をして言う。

「ぐぬっ! そんな筈は無い! 私の方が多かった筈だ!」
「あなたのスキルじゃ効率が悪いのよ。私の魔法なら1度に複数体倒す事だって出来るわ」
「攻撃の威力では私の方が上だ!」
「私を誰だと思ってるの? 魔法で私に勝てる奴なんてそうは居ないわ」
「よし! そこまで言うなら次だ! 次に大量の討伐依頼があった時は絶対にお前より沢山倒してやる!」
「ふん、望むところよ」

 睨み合うダーシャとハナを、ウォリーとリリは呆れた様子で眺めていた。

「依頼達成ですね。おめでとうございます。」

 受付嬢はそう言ってウォリー達に笑顔を向けた。
 オークの討伐を終えてギルドに戻ってきたウォリー達は依頼達成の報告を行なっていた。
 ポセイドンのメンバーが4人になってから、すでに結構な数の依頼を達成していた。
 ダーシャとハナは相変わらず仲が悪いが、それでも依頼中は力を合わせて上手く連携を取れている。

「あ、そうでした。ウォリー様達にお伝えする事があります」

 受付嬢は何かを思い出したようで手をポンと叩いた。

「おめでとうございます。この度ポセイドンの皆様にはAランク昇格試験への挑戦権が与えられる事となりました」

 ウォリー達は目を丸くしてお互いの顔を見合わせた。

「よし!」

 最初に声をあげたのはダーシャだった。

「ついに私達にもAランクへの道が見えてきたぞ!」

 Aランク挑戦権はどのパーティにも与えられるものでは無い。ギルド側が徹底的に審査をし、挑戦する資格ありと判断されたパーティのみに与えられる権利だ。
 つまり、ウォリー達のパーティはギルドから認められたのだ。

「やはり例の真魔国の依頼を達成したのが大きいのでしょうね」

 リリもワクワクした様子で言った。

「そうだね、みんなのお陰だ。僕もこのメンバーでAランクに挑戦できて嬉しいよ」

 ウォリーはそう言って笑うが、不安要素もあった。
 ウォリー達にはAランクへの挑戦権が与えられたというだけで、まだ昇格したわけではない。
 そしてAランク昇格試験はとても危険な内容だと聞く。
 それ故に、挑戦出来るものは限定されているのだ。

「皆さんには昇格試験を受ける事も出来ますし辞退する事も出来ます。Aランク昇格試験は危険を伴いますので冷静な判断をお願い致します」

 受付嬢はそう言って1枚の書類を取り出すと読みあげはじめた。

「もし試験を受ける場合は、1週間後に試験開始となります。試験の内容は……」

 受付嬢はそこで一旦言葉を止め、ウォリーをじっと見つめた。

「クラーケンドラゴンの討伐です」