「真魔国。当然知っているね? 魔国出身のダーシャ君にとっては特に耳に入れたく無い名前だろうが……」
そう言ってギルド長は紙に書かれた紋章をじっと見た。
この紋章は真魔国という組織のシンボルだった。
現在、魔国の王である魔王は人間の国との友好関係を築く事を目指している。そんな現魔王に反発し、人間に敵対して過激な活動を行なっているのがこの組織だ。自分たちこそが真の魔国であるという意味を込めて、彼らは真魔国と名乗っている。
ウォリー達の住む国、ヴァルタシア王国と魔国は共に真魔国の壊滅のために尽力しているが、未だに水面下で彼らは拡大し続けている様だった。
これまでも真魔国によって人間が拉致される事件や、王族の暗殺未遂事件が起こったりしており、国民も彼らの存在に大きな不安を抱いている。
人間が魔人族に良いイメージを持たないのは歴史的背景だけではなく、この真魔国の存在も大きく影響している。
人間と魔人族の和解を望むダーシャにとっても、真魔国は許しがたい存在だった。
「君達が捕まえたアロンツォだが、調べたところ彼は真魔国と繋がっていた。奴隷商で稼いだ金の一部は真魔国に流れ、奴らの活動資金の一部になっていたようだ」
ギルド長は深刻な顔で続ける。
「アロンツォには真魔国のメンバーの協力者がいる筈だ。君達が目撃したもう1人の黒服の男がそうである可能性は十分に考えられる」
「うちのギルドは真魔国との問題にも首を突っ込んでいるんですか?」
「これは国からギルドに対しての依頼だ。ただし、表立って冒険者達に依頼する事は出来ない問題でもある」
ギルド長は腕を組み、眉に皺を寄せた。
「奴らは魔人族の中から生まれた組織だが、その構成員には人間も混じっているという話だ。魔人族と人間は外見が大きく違う。我々の国に潜入して活動するのには、人間の構成員を使った方が都合がいいのだろう。金を渡したのか脅したのかはわからないが、とにかく奴らの中には人間の協力者が居る」
「このギルド内にもね〜」
ギルド長の横でベルティーナが口を開いた。
「冒険者の中に真魔国の者が潜んでいるらしいんだケド、ウチの調査能力をもってしても未だに見つかんないの」
ベルティーナに同意するようにギルド長は頷いた。
「そういう事だ。冒険者の中に奴らの手下が潜んでいる以上、ギルドから真魔国に関する依頼を公表するわけにはいかない。表に出せば、同時に真魔国にその情報が流れる事になる」
「いいのか……?」
ダーシャが不安そうにギルド長を見つめた。
「私は魔人族だ。私がその潜入者かもしれんだろう。こんな事を私達に話してもいいのか?」
「君達はアロンツォを捕まえた。真魔国の資金源の1つを断ったのだ。君達が奴らの協力者ならそんな事はしないだろう。私は君達は真魔国ではないと判断し、こうして呼び出したんだ」
「しかしすいません。アロンツォと一緒にいた男は一瞬で逃げ去ってしまったので、僕達が提供できる情報は何も……」
「そうか、わかった」
ウォリーは違和感を覚えた。ギルド長が随分とあっさり引き下がったからだ。彼がじっとギルド長を見つめていると、ギルド長はフッと小さく笑った。
「気にするな。私はアロンツォの協力者について大した情報が入るとは最初から期待していなかった」
「どういう事です?」
「実は彼が拉致しようとしたコピ君とルアク君。彼女達にもすでに聴き取り調査を行っていたんだ」
「コピさん達に……」
「今日君達を呼び出したのはこれが本題ではない」
ギルド長は手元から新たな書類を1枚取り出すと、ウォリーに渡した。
「これは、依頼書ですか」
いつも冒険者がギルドから依頼を受ける際に渡される依頼書。ギルド長が渡してきたのはそれだった。
「これはギルドから……いや、国からの依頼だ。是非君達に受けて欲しい」
ウォリーが依頼書に目を通す。その依頼内容を見て、彼は目を見開いた。
「達成条件は真魔国構成員の……捕獲!?」
「実は我々が調査した結果、近々奴らがこの国で取引を行うという情報を入手した。まぁこれは、ベルティーナくんの手柄なんだがね……」
「ウチの実力なら簡単な事だけどね〜」
ギルド長が来てから大人しくなっていたベルティーナだったが、彼の言葉を聞き彼女はここぞとばかりに胸を張った。
「これは誰にでも頼める依頼ではない。先程も言った通り君達は真魔国とは繋がってないと判断し、私はこれを依頼する事にした。受けてくれるか?」
ウォリーは仲間達に順に視線を注いだ。
相手が真魔国となればかなり危険な依頼となる。即答で受けると言うわけにはいかなかった。
「私は受けたいと思う」
真っ先にダーシャが答えた。
「魔国出身者として、真魔国の存在には責任を感じている。少しでも奴らの討伐に貢献出来るのなら、私はこの依頼を受けたい」
「だが」とダーシャは続けた。
「これは私の私情でもある。危険な依頼である以上、他の皆の意見も聞いておきたい」
「私もダーシャさんと同じく受けたいと思います」
ダーシャに続いて、リリが声をあげた。
「確かに危険な依頼ですが、ウォリーさんやダーシャさんの強さは十分知っています。私達ならやれるはずです」
リリの言葉を聞き、ウォリーはハナに視線を向けた。
「私は……」
ハナは返答に困った様子を見せた。
それを見てウォリー達はハナが危険な真魔国を相手にするのに躊躇しているのかと思ったが、実際は違っていた。
ハナが悩んでいるのは裏で彼女とミリアが繋がっているからだった。
ミリアにはウォリー達がAランクに行くのを阻止するように言われている。しかし、ギルド長直々のこの依頼をもしウォリー達が達成すれば、彼らのAランク昇格はぐっと近づく事になるだろう。
彼女としては、依頼を断る事の方が望ましかった。
「私は……受けてもいいと思うわ」
悩んだ末、ハナはそう答えた。
依頼を受けるのには気が進まなかったが、ダーシャとリリが受けたいと言っているところで足並みを乱すのは危険だと判断しての事だった。
ハナが嫌だと言ってもウォリーが受けると言えば3対1だ。であればここで流れに逆らうよりウォリー達の信頼を得る方が良いとハナは考えた。
「わかった。みんな、ありがとう」
ウォリーはそう言って頷くと、再びギルド長の方を見つめた。
「ギルド長、この依頼、受けさせて頂きます」
そう言ってギルド長は紙に書かれた紋章をじっと見た。
この紋章は真魔国という組織のシンボルだった。
現在、魔国の王である魔王は人間の国との友好関係を築く事を目指している。そんな現魔王に反発し、人間に敵対して過激な活動を行なっているのがこの組織だ。自分たちこそが真の魔国であるという意味を込めて、彼らは真魔国と名乗っている。
ウォリー達の住む国、ヴァルタシア王国と魔国は共に真魔国の壊滅のために尽力しているが、未だに水面下で彼らは拡大し続けている様だった。
これまでも真魔国によって人間が拉致される事件や、王族の暗殺未遂事件が起こったりしており、国民も彼らの存在に大きな不安を抱いている。
人間が魔人族に良いイメージを持たないのは歴史的背景だけではなく、この真魔国の存在も大きく影響している。
人間と魔人族の和解を望むダーシャにとっても、真魔国は許しがたい存在だった。
「君達が捕まえたアロンツォだが、調べたところ彼は真魔国と繋がっていた。奴隷商で稼いだ金の一部は真魔国に流れ、奴らの活動資金の一部になっていたようだ」
ギルド長は深刻な顔で続ける。
「アロンツォには真魔国のメンバーの協力者がいる筈だ。君達が目撃したもう1人の黒服の男がそうである可能性は十分に考えられる」
「うちのギルドは真魔国との問題にも首を突っ込んでいるんですか?」
「これは国からギルドに対しての依頼だ。ただし、表立って冒険者達に依頼する事は出来ない問題でもある」
ギルド長は腕を組み、眉に皺を寄せた。
「奴らは魔人族の中から生まれた組織だが、その構成員には人間も混じっているという話だ。魔人族と人間は外見が大きく違う。我々の国に潜入して活動するのには、人間の構成員を使った方が都合がいいのだろう。金を渡したのか脅したのかはわからないが、とにかく奴らの中には人間の協力者が居る」
「このギルド内にもね〜」
ギルド長の横でベルティーナが口を開いた。
「冒険者の中に真魔国の者が潜んでいるらしいんだケド、ウチの調査能力をもってしても未だに見つかんないの」
ベルティーナに同意するようにギルド長は頷いた。
「そういう事だ。冒険者の中に奴らの手下が潜んでいる以上、ギルドから真魔国に関する依頼を公表するわけにはいかない。表に出せば、同時に真魔国にその情報が流れる事になる」
「いいのか……?」
ダーシャが不安そうにギルド長を見つめた。
「私は魔人族だ。私がその潜入者かもしれんだろう。こんな事を私達に話してもいいのか?」
「君達はアロンツォを捕まえた。真魔国の資金源の1つを断ったのだ。君達が奴らの協力者ならそんな事はしないだろう。私は君達は真魔国ではないと判断し、こうして呼び出したんだ」
「しかしすいません。アロンツォと一緒にいた男は一瞬で逃げ去ってしまったので、僕達が提供できる情報は何も……」
「そうか、わかった」
ウォリーは違和感を覚えた。ギルド長が随分とあっさり引き下がったからだ。彼がじっとギルド長を見つめていると、ギルド長はフッと小さく笑った。
「気にするな。私はアロンツォの協力者について大した情報が入るとは最初から期待していなかった」
「どういう事です?」
「実は彼が拉致しようとしたコピ君とルアク君。彼女達にもすでに聴き取り調査を行っていたんだ」
「コピさん達に……」
「今日君達を呼び出したのはこれが本題ではない」
ギルド長は手元から新たな書類を1枚取り出すと、ウォリーに渡した。
「これは、依頼書ですか」
いつも冒険者がギルドから依頼を受ける際に渡される依頼書。ギルド長が渡してきたのはそれだった。
「これはギルドから……いや、国からの依頼だ。是非君達に受けて欲しい」
ウォリーが依頼書に目を通す。その依頼内容を見て、彼は目を見開いた。
「達成条件は真魔国構成員の……捕獲!?」
「実は我々が調査した結果、近々奴らがこの国で取引を行うという情報を入手した。まぁこれは、ベルティーナくんの手柄なんだがね……」
「ウチの実力なら簡単な事だけどね〜」
ギルド長が来てから大人しくなっていたベルティーナだったが、彼の言葉を聞き彼女はここぞとばかりに胸を張った。
「これは誰にでも頼める依頼ではない。先程も言った通り君達は真魔国とは繋がってないと判断し、私はこれを依頼する事にした。受けてくれるか?」
ウォリーは仲間達に順に視線を注いだ。
相手が真魔国となればかなり危険な依頼となる。即答で受けると言うわけにはいかなかった。
「私は受けたいと思う」
真っ先にダーシャが答えた。
「魔国出身者として、真魔国の存在には責任を感じている。少しでも奴らの討伐に貢献出来るのなら、私はこの依頼を受けたい」
「だが」とダーシャは続けた。
「これは私の私情でもある。危険な依頼である以上、他の皆の意見も聞いておきたい」
「私もダーシャさんと同じく受けたいと思います」
ダーシャに続いて、リリが声をあげた。
「確かに危険な依頼ですが、ウォリーさんやダーシャさんの強さは十分知っています。私達ならやれるはずです」
リリの言葉を聞き、ウォリーはハナに視線を向けた。
「私は……」
ハナは返答に困った様子を見せた。
それを見てウォリー達はハナが危険な真魔国を相手にするのに躊躇しているのかと思ったが、実際は違っていた。
ハナが悩んでいるのは裏で彼女とミリアが繋がっているからだった。
ミリアにはウォリー達がAランクに行くのを阻止するように言われている。しかし、ギルド長直々のこの依頼をもしウォリー達が達成すれば、彼らのAランク昇格はぐっと近づく事になるだろう。
彼女としては、依頼を断る事の方が望ましかった。
「私は……受けてもいいと思うわ」
悩んだ末、ハナはそう答えた。
依頼を受けるのには気が進まなかったが、ダーシャとリリが受けたいと言っているところで足並みを乱すのは危険だと判断しての事だった。
ハナが嫌だと言ってもウォリーが受けると言えば3対1だ。であればここで流れに逆らうよりウォリー達の信頼を得る方が良いとハナは考えた。
「わかった。みんな、ありがとう」
ウォリーはそう言って頷くと、再びギルド長の方を見つめた。
「ギルド長、この依頼、受けさせて頂きます」