その山、ブルアトル山には夜中になると葉が青白く光る不思議な樹木が生えている。その為、夜に山の方角を眺めるとその山だけが青い光を放ち、とても美しい景色を見ることが出来る。
しかし、遠くから眺めている分には楽しむ事が出来るが、いざその山に近づくとなるとそうはいかない。
山の中は強力かつ凶暴なモンスター達が生息する危険地帯。戦闘力が未熟な者が足を踏み入れればすぐに餌にされてしまうだろう。
今、ポセイドンのメンバー4人と、喫茶店の店員コピはその山に来ている。
目的はこの山に生えているコフィアフォレという木だ。
「みんな! 敵だ!」
ウォリーが叫ぶ。
5人の真上から巨大な虫型のモンスターが飛びかかってきた。
「フレイムカッター!」
ハナがそう唱えると、三日月のような形をした炎の刃がモンスターに向かって飛んで行った。
刃がモンスターの身体を通過する。次の瞬間、モンスターの中心に縦線が浮かび上がったかと思うと、真っ二つに身体が切断された。
「わあ! 凄い!」
コピがハナに拍手を送った。
「どうって事ないわ。虫型モンスターは火属性が弱点。常識よ」
「流石、凄腕の魔法使いと言われるだけはあるな……」
ダーシャも感心した様子でそう言った。
通常、魔法使いが扱える魔法の属性は3種類、多くても4種類というのが一般的だ。しかしハナのスキル『マジックマスター』は全種類の属性の魔法を全て身に付ける事が出来るという効果がある。それにより、敵に応じて属性を使い分けて弱点を突くといった戦法が可能なのだ。
「いい機会だわ。私の凄さをもうちょっと見せてあげようかしら」
周りから褒められ気を良くしたのか、ハナはそんな事を言い出して自分の髪をサラリとかき上げた。
「ダーシャ、あなたのスキルはたしか黒炎だったわね。ちょっとそれで私を攻撃してみなさい」
「な!? 出来るわけないだろう見方を攻撃するなんて」
「私を誰だと思っているのかしら、いいからやってみなさい」
ハナは指をクイクイと動かしてダーシャに催促した。
「どうなっても知らんぞ!」
ダーシャは戸惑いつつも小さな黒炎の火球を作り出し、ハナに向かって飛ばした。
すると、パチュンッと音がなってハナ目の前で火球が消滅してしまった。
「なんだ!? 私の攻撃が消えた」
ダーシャは驚いてハナを凝視した。
「ふふふ、秘密はこれよ」
ハナが人差し指を立てると、そこからシャボン玉が放出された。
それは普通のシャボン玉ではなく、ピカピカと眩しい光を放っていた。
「ダーシャの黒炎ってのは闇属性と火属性の合わせ技。そしてこのシャボン玉は光属性と水属性魔法で作り出したもの。闇の弱点は光、火の弱点は水。よってあなたの黒炎も打ち消す事が出来る」
「ぐぬぬ……」
ダーシャは凄いと思いつつも相手がハナだという事がどうも気に入らず、複雑な表情を浮かべている。
やれやれといった感じでウォリーは困った顔をした。
ハナはプライドが高いうえに褒められたりするとすぐに調子に乗り出す傾向がある。
「みんな、ここは危険地帯だ。なるべく注意を怠らないようにしよう」
ウォリーはハナとダーシャの強さを十分知ってはいたが、念のため声をかけておいた。
「コピさん、そのコーヒー豆ってのはどこら辺に生えているんですか?」
「はい、もう近くに有ると思います」
コピは鼻をひくひくと動かしている。
「もしかして、豆の臭いで探し当てているんですか?」
「そうです。前にも言った通り、獣人族の嗅覚は人間より優れています。私やルアクなら、この広い山の中でも正確に豆の位置を見つけられます」
「なんだ、そんな事ならブレイブも連れて来れば良かったな」
ダーシャが言うと、リリがブンブンと腕を振り回した。
「もうダーシャさん! ブレイブをこんな危険な場所に連れ込むなんて反対ですから!」
「過保護だなぁリリは、元々ダンジョンに居た犬じゃないか」
「あ!」
突然、コピが前方を指差して声をあげた。
「見つけました! あれです!あの木です!」
彼女が示した先には青い実が沢山ついた木が有った。
コピは木に駆け寄ると、せっせとその実を採って袋に入れ始めた。
「なるほど、これがその木ですか。木の幹が青みがかっていて、なんだか綺麗ですね」
「あ! あっちにも有りますよ! これと同じ木じゃないですか!?」
リリが別方向を指差した。
そこに生えている木も、確かにコフィアフォレと同じもののように見えた。
「あれ?」
その木に近づいていったリリが首を傾げた。
「おかしいですね。こっちの木には実がありません」
そう言われてウォリーもその木を見ていた。近くでみると確かにコフィアフォレと同じ木に見えるが、実はひとつも付いていない。
「見て、所々に痕が残ってる。多分僕達以外の誰かが既に採集して行ったんだよ」
「ウォリーさん、こっちの採集は終わりました。次の木を探しましょう!」
コピがそう言って袋を掲げた。
リリとウォリーはコピの元に戻り、再び豆探しを始めた。
それから日が暮れるまで探し回り、山を降りた頃にはコピが持ってきた袋はパンパンに膨れ上がっていた。
「これだけあればお祭りにコーヒーを出せそうです! 皆さん、どうもありがとうございました……うわあっ!」
コピは大きな袋を抱えてお辞儀をしたせいでバランスを崩し、転けそうになる。それをウォリーが慌てて受け止めた。
「おっと、気をつけて……ははは」
コピと始めて会った時もこんな感じだったと思い出し、ウォリーは小さく笑った。
それから数日経った日の夜。
ウォリー達は自宅のリビングに集まっていた。
皆どこか落ち着かない様子だった。
明日はちょうど商店街のお祭りの開催日。
コピとルアクは成功できるだろうかと心配していた。
もう夜遅いが2人はもう寝たのだろうか。それとも明日の為に今も準備をしているのだろうか。ウォリーはそんな事を考えながら2人の事を思っていた。
その時、ウォリーの中にある不安が走った。
「ねえ、ちょっと今からトライキャッツに行ってみない?」
そう言ったウォリーに、他の3人は怪訝そうな顔を向けた。
「今何時だと思っているんだ? とっくに店は閉まっているだろう」
「うん、ただ少し心配なんだ。コピ達のお店は2回も泥棒に入られている。また泥棒が来るという可能性は有ると思うんだ。明日はお祭りだし、何かあったら大変だ。1回様子を見に行った方が良いと思って」
「そうね。私はウォリーに賛成だわ」
そう言ったのはハナだった。
「私達はあの店に出資したんですもの、不安要素は排除しておかないと」
ハナに続き、ダーシャとリリも頷いた。
4人は夜の街に出て、喫茶店を目指して歩き出した。
(どうか無事でありますように)と祈りながら。
しかし、その祈りは叶わなかった。
ウォリー達が店に着くと、閉まっているはずの店の入り口が開いていた。
中に入ると店内は滅茶苦茶に荒らされていた。
ここは2階建てで、1階は喫茶店。2階はコピとルアクの住居がある。
しかし建物のどこを探し回っても、2人の姿は見当たらなかった。
「くそ! もっと早くに来ておけば……」
「とにかく2人を探しましょう!」
焦りながら4人が店を出ようとすると、そこに1人の人物が立っていた。
ウォリー達はその人物に見覚えが有った。
トライキャッツの客の1人、帽子を被り、サングラスをかけた女だった。
しかし、遠くから眺めている分には楽しむ事が出来るが、いざその山に近づくとなるとそうはいかない。
山の中は強力かつ凶暴なモンスター達が生息する危険地帯。戦闘力が未熟な者が足を踏み入れればすぐに餌にされてしまうだろう。
今、ポセイドンのメンバー4人と、喫茶店の店員コピはその山に来ている。
目的はこの山に生えているコフィアフォレという木だ。
「みんな! 敵だ!」
ウォリーが叫ぶ。
5人の真上から巨大な虫型のモンスターが飛びかかってきた。
「フレイムカッター!」
ハナがそう唱えると、三日月のような形をした炎の刃がモンスターに向かって飛んで行った。
刃がモンスターの身体を通過する。次の瞬間、モンスターの中心に縦線が浮かび上がったかと思うと、真っ二つに身体が切断された。
「わあ! 凄い!」
コピがハナに拍手を送った。
「どうって事ないわ。虫型モンスターは火属性が弱点。常識よ」
「流石、凄腕の魔法使いと言われるだけはあるな……」
ダーシャも感心した様子でそう言った。
通常、魔法使いが扱える魔法の属性は3種類、多くても4種類というのが一般的だ。しかしハナのスキル『マジックマスター』は全種類の属性の魔法を全て身に付ける事が出来るという効果がある。それにより、敵に応じて属性を使い分けて弱点を突くといった戦法が可能なのだ。
「いい機会だわ。私の凄さをもうちょっと見せてあげようかしら」
周りから褒められ気を良くしたのか、ハナはそんな事を言い出して自分の髪をサラリとかき上げた。
「ダーシャ、あなたのスキルはたしか黒炎だったわね。ちょっとそれで私を攻撃してみなさい」
「な!? 出来るわけないだろう見方を攻撃するなんて」
「私を誰だと思っているのかしら、いいからやってみなさい」
ハナは指をクイクイと動かしてダーシャに催促した。
「どうなっても知らんぞ!」
ダーシャは戸惑いつつも小さな黒炎の火球を作り出し、ハナに向かって飛ばした。
すると、パチュンッと音がなってハナ目の前で火球が消滅してしまった。
「なんだ!? 私の攻撃が消えた」
ダーシャは驚いてハナを凝視した。
「ふふふ、秘密はこれよ」
ハナが人差し指を立てると、そこからシャボン玉が放出された。
それは普通のシャボン玉ではなく、ピカピカと眩しい光を放っていた。
「ダーシャの黒炎ってのは闇属性と火属性の合わせ技。そしてこのシャボン玉は光属性と水属性魔法で作り出したもの。闇の弱点は光、火の弱点は水。よってあなたの黒炎も打ち消す事が出来る」
「ぐぬぬ……」
ダーシャは凄いと思いつつも相手がハナだという事がどうも気に入らず、複雑な表情を浮かべている。
やれやれといった感じでウォリーは困った顔をした。
ハナはプライドが高いうえに褒められたりするとすぐに調子に乗り出す傾向がある。
「みんな、ここは危険地帯だ。なるべく注意を怠らないようにしよう」
ウォリーはハナとダーシャの強さを十分知ってはいたが、念のため声をかけておいた。
「コピさん、そのコーヒー豆ってのはどこら辺に生えているんですか?」
「はい、もう近くに有ると思います」
コピは鼻をひくひくと動かしている。
「もしかして、豆の臭いで探し当てているんですか?」
「そうです。前にも言った通り、獣人族の嗅覚は人間より優れています。私やルアクなら、この広い山の中でも正確に豆の位置を見つけられます」
「なんだ、そんな事ならブレイブも連れて来れば良かったな」
ダーシャが言うと、リリがブンブンと腕を振り回した。
「もうダーシャさん! ブレイブをこんな危険な場所に連れ込むなんて反対ですから!」
「過保護だなぁリリは、元々ダンジョンに居た犬じゃないか」
「あ!」
突然、コピが前方を指差して声をあげた。
「見つけました! あれです!あの木です!」
彼女が示した先には青い実が沢山ついた木が有った。
コピは木に駆け寄ると、せっせとその実を採って袋に入れ始めた。
「なるほど、これがその木ですか。木の幹が青みがかっていて、なんだか綺麗ですね」
「あ! あっちにも有りますよ! これと同じ木じゃないですか!?」
リリが別方向を指差した。
そこに生えている木も、確かにコフィアフォレと同じもののように見えた。
「あれ?」
その木に近づいていったリリが首を傾げた。
「おかしいですね。こっちの木には実がありません」
そう言われてウォリーもその木を見ていた。近くでみると確かにコフィアフォレと同じ木に見えるが、実はひとつも付いていない。
「見て、所々に痕が残ってる。多分僕達以外の誰かが既に採集して行ったんだよ」
「ウォリーさん、こっちの採集は終わりました。次の木を探しましょう!」
コピがそう言って袋を掲げた。
リリとウォリーはコピの元に戻り、再び豆探しを始めた。
それから日が暮れるまで探し回り、山を降りた頃にはコピが持ってきた袋はパンパンに膨れ上がっていた。
「これだけあればお祭りにコーヒーを出せそうです! 皆さん、どうもありがとうございました……うわあっ!」
コピは大きな袋を抱えてお辞儀をしたせいでバランスを崩し、転けそうになる。それをウォリーが慌てて受け止めた。
「おっと、気をつけて……ははは」
コピと始めて会った時もこんな感じだったと思い出し、ウォリーは小さく笑った。
それから数日経った日の夜。
ウォリー達は自宅のリビングに集まっていた。
皆どこか落ち着かない様子だった。
明日はちょうど商店街のお祭りの開催日。
コピとルアクは成功できるだろうかと心配していた。
もう夜遅いが2人はもう寝たのだろうか。それとも明日の為に今も準備をしているのだろうか。ウォリーはそんな事を考えながら2人の事を思っていた。
その時、ウォリーの中にある不安が走った。
「ねえ、ちょっと今からトライキャッツに行ってみない?」
そう言ったウォリーに、他の3人は怪訝そうな顔を向けた。
「今何時だと思っているんだ? とっくに店は閉まっているだろう」
「うん、ただ少し心配なんだ。コピ達のお店は2回も泥棒に入られている。また泥棒が来るという可能性は有ると思うんだ。明日はお祭りだし、何かあったら大変だ。1回様子を見に行った方が良いと思って」
「そうね。私はウォリーに賛成だわ」
そう言ったのはハナだった。
「私達はあの店に出資したんですもの、不安要素は排除しておかないと」
ハナに続き、ダーシャとリリも頷いた。
4人は夜の街に出て、喫茶店を目指して歩き出した。
(どうか無事でありますように)と祈りながら。
しかし、その祈りは叶わなかった。
ウォリー達が店に着くと、閉まっているはずの店の入り口が開いていた。
中に入ると店内は滅茶苦茶に荒らされていた。
ここは2階建てで、1階は喫茶店。2階はコピとルアクの住居がある。
しかし建物のどこを探し回っても、2人の姿は見当たらなかった。
「くそ! もっと早くに来ておけば……」
「とにかく2人を探しましょう!」
焦りながら4人が店を出ようとすると、そこに1人の人物が立っていた。
ウォリー達はその人物に見覚えが有った。
トライキャッツの客の1人、帽子を被り、サングラスをかけた女だった。