「うわぁ…ひでえなあの女」
「やっぱ魔人族は野蛮だ」
「兄ちゃんも災難だなぁ。何を血迷ったか魔人族に列譲るなんて。まぁこれでわかったろ?あいつらは最低の種族だ」

 今さっき魔人族の女性に平手をくらい、呆然としているウォリーの周りで冒険者達が口々に言う。
 ウォリーは何か気に触る事をしてしまっただろうかと思いを巡らしながらギルドを後にした。



 ギルドを出て、彼はステータスアップをもう一度試してみる事にした。何故かはわからないが3万ポイントが急に飛び込んで来たので今度は足りるはずだ。
 彼はステータスアップを頭の中で起動させると、アップしたい項目を選択した。

 選択したのは攻撃力アップと防御力アップ。ステータスで特に低い部分をカバーしようという考えだった。全部使い切るのはもったいないと思い、残ポイントを約1万程残して攻撃力アップを8回、防御力アップを9回行った。

 ステータスアップを終え、ウォリーはもう一度鑑定師の店に寄ってみる。アップしたと言ってもどれぐらい強くなったのかまだ本人には実感が無かった。



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◽︎ウォリー
◾︎スキル:お助けマン
◾︎体力:1280
◾︎魔力:3470
◾︎攻撃力:103
◾︎防御力:89
◾︎魔法攻撃力:115
◾︎魔法防御力:82
◾︎素早さ:32

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「おお!本当に上がってる。攻撃力は100超えたよ」

 一瞬でステータスがここまで上昇する事は普段無いので、彼もつい上機嫌になった。
 しかし『レビヤタン』メンバーと比較すればまだまだだった。特に幼馴染のミリアは攻防ともに200は超えている。
 加えてステータスが高くなればなるほど支払うポイント量も増えていく様だったので、今後はさらに伸びにくくなると考えられる。

(でも、これだけあれば僕でも近接戦闘が出来るんじゃないか…?)

 そんな事を考えウォリーは剣を振る素振りをしてみながら、宿屋へ向かって歩いて行った。






「満室!?他の宿も全部そうだったぞ!今日は祭りでもあるのか!?」

 ウォリーが宿屋に戻ると聞き憶えのある声が耳に飛び込んで来る。
 見れば受付で先程の魔人族の女性が何やら揉めている様だった。

「他に部屋は無いのか?この際倉庫でも構わない!」
「いや〜悪いけど余裕ないね」

 受付の中年男は面倒くさそうに応えている。
 どうやら彼女は部屋を取ろうとしたが、満室で断られている様だった。
 だがウォリーにはこの受付が嘘を言っている事がすぐにわかった。彼はこの宿屋をよく利用する常連だから知っているが、ここの部屋が満室になる事なんて滅多にない。
 恐らく、嘘をつく理由は彼女が魔人族だからだろう。周囲から差別を受けている彼女に部屋を貸すのは宿にとって不利益だと宿側は考えている。
 あの様子だと、あちこちの宿屋から断られたらい回しでここに来たといった感じだった。

「すいません。ここの部屋取ってるウォリーですけど…」
「おや、これはウォリー様。お帰りなさいませ」

 ウォリーが受付に話しかけた途端、受付の男は態度をコロッと変えた。

「実は連れと一緒に部屋を使いたいんです。今泊まってる部屋に1人追加してもらって良いですか?」
「そうなりますと、追加料金が発生しますがよろしいですか?」
「はい。料金は前払いでお願いします」

 ウォリーは料金を支払い鍵を受け取ると、魔人族の女性を指差して、言った。

「じゃああそこにいる彼女が僕の連れなんで、よろしくお願いしますね」
「え、ちょっ」

 予想外の事に受付の男が慌て始める。指を刺された彼女もウォリーの行動に気付き困惑している様子だった。

「部屋が空いてさえすれば泊まれすよね?お金も払いましたし」

 そうニッコリと語るウォリーに、受付の男は力なく頷いた。男が何も言い返せなかったのは彼がAランクパーティの出身者でここの常連だという事も大きかったのかもしれない。
 受付で了承を貰うとウォリーは魔人族の女に鍵を差し出した。

「これ、部屋の鍵だから使ってください。あ、僕は出ていって他の宿を探すから安心してください。流石に男女で同じ部屋は不安でしょう。あとお金は前払いしてあるんで…」
「貴様!ちょっと来い!」

 彼女は睨みを効かせてウォリーを怒鳴ると、腕を引っ張ってウォリーが取った部屋まで連れ込んで行った。
 扉が閉められると同時に彼女は物凄い形相で再びウォリーを怒鳴りつける。

「貴様!さっきからどういうつもりだ!いちいち私にお節介を焼きおって!さては私を詐欺にでも嵌めるつもりか!?」
「いや、別にそんなつもりは…あ、この荷物だけ持って僕は出ますんで、使ってくださいねこの部屋」

 そう言ってウォリーは部屋の荷物を急いでまとめて部屋を出ようとしたが、彼女がはウォリーの腕を掴んでぐいっと部屋の中へ連れ戻した。

「使えるか!見ず知らずの人から施しを受けるわけにはいかん!」
「いや…自己満足でやった事ですから気にしないでください。僕、困ってる人を見るとつい助けちゃう性格で…」
「ふざけるな!お前私を誰だと思ってる!魔人族だぞ!この国で私がどんな扱いを受けているか知っているはずだ!」

 それについてはウォリーも理解しているつもりだった。差別を受けている彼女を助けるという事は自分も巻き込まれて差別を受ける危険性があるという事だ。その危険を犯してまで助けようとしてくる彼の行動が、彼女には理解出来なかったのだろう。

「でももうやっちゃった事ですから今さら遅いでしょう。お金も支払っちゃいましたし。ここを出てもあなたは行く当て無いんでしょう?」

 ウォリーの言葉は彼女を困らせた様で、眉をひそめて何か言いたそうにもじもじとしている。その隙に彼は部屋を出ようとするが、またしても腕を掴まれてしまった。

「まて!分かった!泊まればいいんだろう泊まれば!だが私の為にお前を部屋から追い出すのは私自身納得がいかん!お前も一緒に泊まれ!」