ウォリー達3人が帰宅したのは日が落ちかかっている時刻だった。
昼はべボーテ村での食事会で食べ過ぎてしまったせいか、夕食時になっても3人ともあまり腹が減らなかった。
いつもより少なめの食事を済ませリビングで休んでいると、玄関の扉が叩かれた。
ウォリーが腰を上げて玄関へ向かう。
この家に訪ねてくる人は滅多に居ない。ギルドからの連絡は殆ど手紙で済まされるし、来訪者に心当たりが無かった。
ウォリーは珍しがりながら玄関の扉に手をかける。
「えっ!?」
彼は思わず声をあげてしまった。扉を開けた先に立っていたのは意外な人物だった。
「ハナ! どうしたの!?」
そこに居たのはレビヤタンのメンバーの1人、ハナだった。しかし、ウォリーが最も驚いたのは彼女の顔だった。ハナの顔は所々腫れ上がっており唇は切れて血が滲んでいる。誰かに殴られたのだと、一目見て分かった。
「ウォリー……助けて……」
そういってハナはウォリーに歩み寄ろうとするが、足に力が入らないのか前に倒れ込むような動きになってしまう。
ウォリーは慌てて彼女の肩を支えた。
「ウォリー! 一体何が……って、そいつは!?」
ウォリーの声を聞いてリリとダーシャが駆けつけて来た。ハナの姿を確認すると、2人も驚きの声を上げる。
「回復マン!」
ウォリーが唱えると、彼女の顔の傷がみるみる癒えていく。
「とりあえず中で話そう」
ウォリーはハナに肩を貸しながら、リビングまで歩いて行った。
「一体何があったの?」
テーブルに腰掛け、ハナと向かい合う形でウォリーは尋ねた。ハナはしばらく俯いたまま黙っていたが、やがて差し出されたお茶を一口飲んでから語り始めた。
「レビヤタンを抜けて来た」
ハナの言葉に3人とも目を丸くして顔を見合わせた。
「ジャックが死んで、新しいリーダーにミリアがなったの。それから彼女に虐待されるようになって……」
「その事をギルドには?」
「報告はしたわ。でも、ミリアがやったって証拠がないって取り合ってくれなくて。それだけじゃない。ミリアは妹の事で私を脅して来たの」
「妹?」
ハナに妹がいる事はウォリーにも初耳だった。ウォリーは前のめりになって彼女の話を注意深く聞いた。
「私の妹、マロンは病気なの。医者からは余命宣告を受けていて、ずっと寝たきりでいる。私は妹を何とか治療しようと、今まで高い薬や有名な医者に頼ってきた。冒険者の仕事で得た収入は殆ど妹の治療費に注ぎ込んだわ。それをあいつ、ミリアは調べ上げてたみたいで」
ハナが肩を震わせながらテーブルの上で拳を握った。
「レビヤタンを抜けたら政府からの支援金が貰えなくなるから、妹の治療費が支払えなくなるって、その弱みに付け込んで私を従わせようとしてきたの。初めは私も彼女の言いなりだったけど、流石に耐え切れなくなって……」
「それで、パーティを抜けたんだね」
ウォリーが言うと、ハナは黙って頷いた。
「しかし、それでどうして私達を訪ねて来たんだ? まさか回復してもらうだけが目的ではあるまい」
「そうです。あなたは随分とウォリーさんを嫌っていたじゃないですか」
ウォリーの横で話を聞いていたダーシャとリリがそれぞれ言った。
ハナはその問いにすぐには答えなかった。気まずそうに3人から目を逸らしていたが、やがて真っ直ぐとウォリーの方を見つめた。
「ウォリー、あなたにお願いがあるの。私を、あなた達のパーティに入れて欲しい」
ハナの言葉に3人は驚きの表情を浮かべた。
彼女はすがるような目でウォリーだけを見つめている。
「どうしてうちに? ハナ程の実力なら他にも入れるパーティはあると思うけど」
「早くAランクに上がりたいの。レビヤタンを抜けて政府からの支援金を受けられなくなった。でも、何とかして妹の治療は続けたい。これから別のパーティに行ってコツコツランク上げしてたら遅いのよ。元レビヤタンの私とウォリーならきっとAランクまで行ける。それが1番の近道だと思ったの」
ハナはそう言って深々と頭を下げた。
「お願いっ、ウォリー……」
そのまま彼女は頭を上げないでいる。ウォリーの返答を待っているようだった。
ウォリーは困った表情でリリとダーシャを交互に見た。
「正直言って嫌だな」
ダーシャが厳しい表情で言った。
「君はウォリーの事を馬鹿にしていただろう。今さらパーティに入れてくれと言ったってもう遅い!」
腕を組んだままそう言い放った後、彼女は大きくため息をついた。
「……と、言いたいところだが、ウォリーはこのままお前を見捨てるのを望まないだろう」
ダーシャは一度ウォリーの方へ視線を向けてから、もう一度ハナを見た。
「さっきのウォリーの反応を見て分かったよ。ウォリーは君を助けてやりたいが、ハナを嫌っている私とリリが納得してくれるか心配だという感じだった。確かに私は君の事が嫌いだが、ウォリーが望むと言うなら私は従おう」
そう言った後ダーシャはリリの方を見た。リリは軽く頷いて口を開いた。
「私も、はっきり言って彼女を入れるのは気が進みません。でも、ウォリーさんだったらきっとここで見捨てたりはしないと思います。それに、彼女に全く同情していない訳でもありません。先程玄関で傷だらけの彼女の顔を見て、私がアンゲロスにいた頃を思い出しました。もしウォリーさんが彼女を助けたいと言うなら、私はそれを受け入れたいです」
ハナは顔を上げ、驚いた様子でダーシャとリリを交互に見た。
「ダーシャ、リリ、ありがとう」
ウォリーはそう言って2人に微笑みかけると、再びハナを見つめた。
「ハナの妹さんの助けになるなら、出来る限り協力はしたい。僕達がAランクにすぐ上がれるという保証は出来ないけど、それでもいいなら僕はハナの頼みを受け入れようと思う」
ハナの顔に笑顔が浮かんだ。
「ありがとうウォリー」
「おっと、喜ぶのはまだ早いぞ」
すかさずダーシャが口を出した。
彼女は厳しい視線をハナに送る。
「君は今までウォリーに酷い事を言って来たんだ。パーティに入ると言うなら、まずは禊を済ませてからだ。この場でウォリーに謝罪して貰おうか」
「僕は気にしてないから」と、ウォリーはつい言いそうになったが、その言葉が出る前に引っ込めた。ダーシャとリリはハナを嫌っているにも関わらず、ウォリーの希望に合わせてくれたのだ。ならばこれ以上口を挟むのはやめようと彼は思った。
ハナはその場にスッと立ち上がった。
深呼吸してからじっとウォリーを見つめ、その後大きく身体を曲げて頭を下げた。
「ウォリー、今まで本当に……ごめんなさいっ」
これにより、ポセイドンに4人目の仲間が加わる事となった。
昼はべボーテ村での食事会で食べ過ぎてしまったせいか、夕食時になっても3人ともあまり腹が減らなかった。
いつもより少なめの食事を済ませリビングで休んでいると、玄関の扉が叩かれた。
ウォリーが腰を上げて玄関へ向かう。
この家に訪ねてくる人は滅多に居ない。ギルドからの連絡は殆ど手紙で済まされるし、来訪者に心当たりが無かった。
ウォリーは珍しがりながら玄関の扉に手をかける。
「えっ!?」
彼は思わず声をあげてしまった。扉を開けた先に立っていたのは意外な人物だった。
「ハナ! どうしたの!?」
そこに居たのはレビヤタンのメンバーの1人、ハナだった。しかし、ウォリーが最も驚いたのは彼女の顔だった。ハナの顔は所々腫れ上がっており唇は切れて血が滲んでいる。誰かに殴られたのだと、一目見て分かった。
「ウォリー……助けて……」
そういってハナはウォリーに歩み寄ろうとするが、足に力が入らないのか前に倒れ込むような動きになってしまう。
ウォリーは慌てて彼女の肩を支えた。
「ウォリー! 一体何が……って、そいつは!?」
ウォリーの声を聞いてリリとダーシャが駆けつけて来た。ハナの姿を確認すると、2人も驚きの声を上げる。
「回復マン!」
ウォリーが唱えると、彼女の顔の傷がみるみる癒えていく。
「とりあえず中で話そう」
ウォリーはハナに肩を貸しながら、リビングまで歩いて行った。
「一体何があったの?」
テーブルに腰掛け、ハナと向かい合う形でウォリーは尋ねた。ハナはしばらく俯いたまま黙っていたが、やがて差し出されたお茶を一口飲んでから語り始めた。
「レビヤタンを抜けて来た」
ハナの言葉に3人とも目を丸くして顔を見合わせた。
「ジャックが死んで、新しいリーダーにミリアがなったの。それから彼女に虐待されるようになって……」
「その事をギルドには?」
「報告はしたわ。でも、ミリアがやったって証拠がないって取り合ってくれなくて。それだけじゃない。ミリアは妹の事で私を脅して来たの」
「妹?」
ハナに妹がいる事はウォリーにも初耳だった。ウォリーは前のめりになって彼女の話を注意深く聞いた。
「私の妹、マロンは病気なの。医者からは余命宣告を受けていて、ずっと寝たきりでいる。私は妹を何とか治療しようと、今まで高い薬や有名な医者に頼ってきた。冒険者の仕事で得た収入は殆ど妹の治療費に注ぎ込んだわ。それをあいつ、ミリアは調べ上げてたみたいで」
ハナが肩を震わせながらテーブルの上で拳を握った。
「レビヤタンを抜けたら政府からの支援金が貰えなくなるから、妹の治療費が支払えなくなるって、その弱みに付け込んで私を従わせようとしてきたの。初めは私も彼女の言いなりだったけど、流石に耐え切れなくなって……」
「それで、パーティを抜けたんだね」
ウォリーが言うと、ハナは黙って頷いた。
「しかし、それでどうして私達を訪ねて来たんだ? まさか回復してもらうだけが目的ではあるまい」
「そうです。あなたは随分とウォリーさんを嫌っていたじゃないですか」
ウォリーの横で話を聞いていたダーシャとリリがそれぞれ言った。
ハナはその問いにすぐには答えなかった。気まずそうに3人から目を逸らしていたが、やがて真っ直ぐとウォリーの方を見つめた。
「ウォリー、あなたにお願いがあるの。私を、あなた達のパーティに入れて欲しい」
ハナの言葉に3人は驚きの表情を浮かべた。
彼女はすがるような目でウォリーだけを見つめている。
「どうしてうちに? ハナ程の実力なら他にも入れるパーティはあると思うけど」
「早くAランクに上がりたいの。レビヤタンを抜けて政府からの支援金を受けられなくなった。でも、何とかして妹の治療は続けたい。これから別のパーティに行ってコツコツランク上げしてたら遅いのよ。元レビヤタンの私とウォリーならきっとAランクまで行ける。それが1番の近道だと思ったの」
ハナはそう言って深々と頭を下げた。
「お願いっ、ウォリー……」
そのまま彼女は頭を上げないでいる。ウォリーの返答を待っているようだった。
ウォリーは困った表情でリリとダーシャを交互に見た。
「正直言って嫌だな」
ダーシャが厳しい表情で言った。
「君はウォリーの事を馬鹿にしていただろう。今さらパーティに入れてくれと言ったってもう遅い!」
腕を組んだままそう言い放った後、彼女は大きくため息をついた。
「……と、言いたいところだが、ウォリーはこのままお前を見捨てるのを望まないだろう」
ダーシャは一度ウォリーの方へ視線を向けてから、もう一度ハナを見た。
「さっきのウォリーの反応を見て分かったよ。ウォリーは君を助けてやりたいが、ハナを嫌っている私とリリが納得してくれるか心配だという感じだった。確かに私は君の事が嫌いだが、ウォリーが望むと言うなら私は従おう」
そう言った後ダーシャはリリの方を見た。リリは軽く頷いて口を開いた。
「私も、はっきり言って彼女を入れるのは気が進みません。でも、ウォリーさんだったらきっとここで見捨てたりはしないと思います。それに、彼女に全く同情していない訳でもありません。先程玄関で傷だらけの彼女の顔を見て、私がアンゲロスにいた頃を思い出しました。もしウォリーさんが彼女を助けたいと言うなら、私はそれを受け入れたいです」
ハナは顔を上げ、驚いた様子でダーシャとリリを交互に見た。
「ダーシャ、リリ、ありがとう」
ウォリーはそう言って2人に微笑みかけると、再びハナを見つめた。
「ハナの妹さんの助けになるなら、出来る限り協力はしたい。僕達がAランクにすぐ上がれるという保証は出来ないけど、それでもいいなら僕はハナの頼みを受け入れようと思う」
ハナの顔に笑顔が浮かんだ。
「ありがとうウォリー」
「おっと、喜ぶのはまだ早いぞ」
すかさずダーシャが口を出した。
彼女は厳しい視線をハナに送る。
「君は今までウォリーに酷い事を言って来たんだ。パーティに入ると言うなら、まずは禊を済ませてからだ。この場でウォリーに謝罪して貰おうか」
「僕は気にしてないから」と、ウォリーはつい言いそうになったが、その言葉が出る前に引っ込めた。ダーシャとリリはハナを嫌っているにも関わらず、ウォリーの希望に合わせてくれたのだ。ならばこれ以上口を挟むのはやめようと彼は思った。
ハナはその場にスッと立ち上がった。
深呼吸してからじっとウォリーを見つめ、その後大きく身体を曲げて頭を下げた。
「ウォリー、今まで本当に……ごめんなさいっ」
これにより、ポセイドンに4人目の仲間が加わる事となった。