「居た、キングゴブリンだ」

 岩の影に隠れながらウォリーが言った。背後のダーシャとリリが頷く。
 彼らの目的はキングゴブリンの討伐。今まさにその標的を見つけた所だが、すぐに飛び込んで行く訳にはいかない。
 キングゴブリンの周囲には武器を持った手下のゴブリンが大勢配置されている。正面から行ったらすぐに囲まれてしまうだろう。

「結構数が多いですね」
「うん、でも1体の強さはそれ程じゃないと思う。リリ、僕にバリアスーツをかけてくれる?」

 リリは頷き、ウォリーにスキルを使った。

「僕がまず先に斬り込むよ。ダーシャは黒炎を飛ばして援護をお願い」
「わかった、気をつけるんだぞ」
「うん、それから弓を持ってるゴブリンが何体か居る。リリの防壁で防いで欲しい」
「分かりました」

 ウォリーの肩にはコウモリがちょこんと乗っていた。丁度このダンジョンで見つけ、調教マンで手懐けたコウモリだ。
 彼はコウモリに指示を出す。すると、コウモリはキングゴブリンの頭上に向かって飛んで行った。
 ゴブリン達の視線が一斉にコウモリに集中する。その隙に、ウォリーは剣を手にゴブリン達の中へ飛び込んでいった。
 まずは1番近くに居たゴブリンを2体素早く斬り伏せる。同時にウォリーの背後から火球が飛び、周囲のゴブリン達を次々と焼いていった。
 大勢いたゴブリン達はあっという間に倒され、キングゴブリンへの道が拓ける。
 キングゴブリンは他のゴブリンよりも身体が大きく、戦闘能力も高い。手下を始末してもまだ安心は出来なかった。
 ウォリーは覚悟を決めて敵の親玉に向かっていく。相手も巨大な剣を手に取り応戦しようと構えた。
 その時、キングゴブリンの視界が真っ暗になった。
 先程飛んでいったコウモリが翼を広げて目の前に覆い被さったのだ。
 キングゴブリンが手で払い除けようとするが、その手がコウモリに届く前にウォリーの剣が腹を貫いた。
 コウモリがその場から飛び立つと同時に、キングゴブリンは腹を押さえて膝をついた。
 直後、無防備になった相手の首にウォリーは剣を振り下ろした。

「これにて依頼達成だな」

 ダーシャがウォリーと、続いてリリとハイタッチをする。
 数日前、ミリアとの件で落ち込んでいたウォリーだったが、今は戦闘を十分にこなせている。
 だが、ダーシャとリリはそれでも引っかかるものがあった。
 ウォリーの顔が常に暗い。明らかに以前のウォリーとは違っていた。
 依頼を達成した今も、その顔に笑顔が浮かぶ事は殆どない。まるでただ感情もなくひたすら仕事をこなすだけの人形を見ているかのようだった。

「ウォリー…」

 キングゴブリンの首をせっせと袋に詰めているウォリーの背中に、ダーシャが声をかけた。

「ん、なに?」

 ダーシャは一呼吸置いてから、ウォリーに言った。

「まだ、ミリアの事で落ち込んでいるのか?」

 袋の口を縛ろうとしていたウォリーの手が止まった。彼の視線が下に落ちる。

「そう見えるかな」
「君の戦闘中の動きはとても良いと思う。だが、何となくかつての活き活きとした感じが無いというか……」
「うん。そうかもしれない」

 ウォリーはあっさりと認め、俯いた。

「何ていうか、冒険者を続ける意味がわからなくなっちゃって……」

 そう言われ、ダーシャは悲しそうな表情を浮かべた。リリも心配そうにそれを見ている。

「僕は、幼い頃は特別冒険者に憧れていたわけじゃなかったんだ。周りからは素質があるとは言われていたけど、僕自身は絶対に冒険者になりたいという思いは無かった。だけどそんな僕が今冒険者をやれているのは、ミリアのお陰だったんだ」

 ウォリーは何かを思い出すように遠くを見た。

「ミリアは当時冒険者になる為に一生懸命に剣の練習をしていた。僕も何度か手合わせした事があったけど、彼女には全く歯が立たなかったよ。そんな彼女がかっこいいって思えて、僕も冒険者になりたいって思ったんだ。レビヤタンを抜けた後も、今も何処かでミリアが頑張っているって。そう思う事が僕のやる気に繋がっていたんだ。ミリアがSランクに上がる為に頑張っているから、僕も同じ場所に行けるように頑張ろうって、そう思っていたのに……」

 ウォリーはダーシャ達に顔を向けた。彼の目からは、涙の跡が一筋出来ていた。

「僕は彼女にとって、邪魔だったみたい」

 そう言うウォリーの口元は笑っていた。笑っていたがそれが喜びによる笑いではない事は明らかだった。
 ダーシャは思わずウォリーを抱きしめた。

「もういい、悪かった。嫌な事を思い出させてしまったな。これから私達と冒険者を続けていくうちにきっと立ち直れるさ」

 そう言うダーシャの腕の中で、ウォリーが小さく呟いた。

「続け、られるかな……」






「ウォリーさん、何とか元気になって欲しいです」

 ダーシャとリリは帰宅した後、2人きりでテーブルを挟んで座っていた。
 ウォリーは既に夕食を済まし自室に入っている。

「そうだな。どうやら私達が思っていた以上にウォリーの中でミリアの存在は大きかったようだ」
「むぅ……やはりあのミリアという人は許せないです。彼女を何とか出来ないでしょうか」

 リリがギュッと拳を握った。
 そんな彼女に、ダーシャが首を横に振る。

「ミリアをどうにかした所で、ウォリーは立ち直れないだろう。例え復讐したとしてもウォリーは喜ばないと思う」
「それはそうかもしれませんけど……」
「ウォリーは今、冒険者としての心の支えを失っているんだ……」

 ダーシャは自分の手を見つめた。

「私はウォリーには何度も助けられた。彼が困っているなら、今度は私が彼を助けたい。そう思っているのは私だけでは無いはずだ」