「お待たせしました」
テーブルに追加で頼んだ料理や酒が運ばれてくる。
「いや〜さっきは悪かったね。はいこれ迷惑料」
ミリアは料理を運んできた店員に金を握らせた。
「流石にAランクパーティともなると周りから妬まれる事も多くてね〜。いちゃもんをつけてくる奴がたまに居るんだよ」
ミリアから金を受け取った店員は機嫌良さそうに笑顔を浮かべて厨房に戻っていった。
数分前にダーシャ達との揉め事で一時的には静まりかえっていた酒場だが、今はそんな事があったとは感じさせないほどに店の中は賑やかで、あちこちで客が酒を片手に笑い声を飛ばしている。
「ミリア、どういう事?」
ハナはミリアの方に身体を寄せて囁きかけるように言った。
「さっきあいつらが言ってた、ジャックを見殺しにしたって本当なの?」
ミリアは数秒きょとんとした顔で固まった後、軽く笑った。
「そんなのあの2人のでまかせに決まってるでしょ」
「でも彼女達の怒り方は普通じゃなかった。本気で言ってるようにしか……」
ミリアが溜息をつく。
「あのね〜、私はハナちゃんにクラーケンドラゴンの誘導をさせてジャックから引き離したじゃない。それこそ、ジャックを助けようと思っての行為でしょ。私が彼の元に駆けつけた時には既に息を引き取っていたんだよ」
「じゃあウォリーが嘘をついてるって事? 一体何のために」
「さあね〜、彼も何を考えてんだか」
ハナは未だに納得できないといった表情でミリアを見つめる。
「私はウォリーの事が嫌いだった。あの気持ち悪いほどお人好しな性格は鬱陶しくて仕方がなかったわ。ただ、ミリアには1番心を開いていたって事はわかる。そんなあいつがミリアを貶めるような嘘をつくとは思えないんだけど」
一瞬、ミリアの顔から笑顔が消えた。舌打ちをしたような気もするが、周囲の騒音のせいではっきりと聞こえた訳ではなかった。
「なんだよ君は、さんざんウォリーを馬鹿にしてた癖に今さらあっちに味方するつもり?」
「そういうわけじゃない。ただ、違和感を感じているだけで……」
「そんな事より、ジャックがいなくなったんだから次のリーダーを決めましょ。今日は今後のパーティの方針を決めるために集まったんだ」
ミリアは椅子の背もたれに寄りかかって笑みを浮かべた。
「次のリーダーは、私がやる事に決めた」
「え!? 勝手に何決めてるのよ!」
ハナが思わず身を乗り出した。
レビヤタンを立ち上げたのはジャックで、その後にハナ、そして次にウォリーとミリアが同時に加入していた。つまりレビヤタンとしての経歴はハナの方が長いという事になる。
「こういう事はよく話し合ってから……」
「決定事項だよ」
反論しようとするハナの言葉を遮るようにミリアは言い放った。
「元はと言えばジャックが勝手な行動をするからだ。あいつはすぐ調子に乗るからねぇ〜。私の指示通り動いていれば死ぬ事は無かったし、Sランクに近づけていたんだ。的確な指示を出す事に関しては私の方が長けている。もっと早いうちから私をリーダーにするべきだったんだよ」
「ちょっと、犠牲になった仲間にそんな言い方……ねえ、ゲリーはどう思うの?」
ハナは、先程から我関せずといった感じで料理を口にしていたゲリーに顔を向ける。
「俺はミリアがリーダーになるべきだと思うぜ」
彼は間を置かずに即答した。
「なっ……!?」
直後、ミリアの高笑いが聞こえる。
「ああ、ゲリーをレビヤタンに誘ったのは実は私なんだよね。私がジャックに紹介したの。つまり彼は最初から私側の人間なんだよ」
「すまんなハナ、ミリアのお陰で俺はこの有名なレビヤタンの肩書きを手に入れられたんでな」
「これで2対1だ。もう決まったも同然だと思うけどねぇ〜?」
ハナは驚いた。ミリアとゲリーが知り合いだったなんて今まで一度も聞かされなかった。ウォリーを追放したあの日、ジャックは縁があったとしか言わなかったが、その縁を作っていたのはミリアだったのだ。
ハナは先程のダーシャの言葉を思い出す。彼女はミリアがウォリーを追放したと言っていた。あれは本当だったのだ。だとすると、ジャックを見殺しにしたという話も嘘だと決めつける訳にはいかない。ミリアに対する疑念はさらに深まった。
「私は認めないわ。そう簡単にあなたがリーダーだなんて……」
「ハナちゃぁ〜ん」
ミリアはハナの肩に腕をまわし、耳元で小声で囁き始めた。
「ここは私に従っておきなさいよ、マロンちゃんの為にも」
マロン。その名前を聞いてハナは血の気が引いた。こめかみから汗がぽつぽつと噴き出してくる。
「なんで、マロンの事を……」
「随分重い病気だそうじゃない? もう先は長くないとか。いいお姉ちゃんだね〜泣けてきちゃうよ」
マロンとはハナの妹だ。重い病にかかり、医者からは余命1年も無いと言われている。それでもハナは彼女を助けるため有効な治療法を探していた。延命のため、有名な医者を訪ねては最高級の治療を妹に施していた。
「今レビヤタンを追放されたらまずい事になるでしょ? 君、妹の延命のためにかなりの金額を医療費に注ぎ込んでいるみたいだね〜。レビヤタンは国から支援金を貰ってるから、それで今までは何とかなってるんだろうけど、パーティを抜けたら支援金も貰えなくなっちゃう。マロンちゃんの治療費も質を下げなくちゃいけなくなるね。あ〜可哀想なマロンちゃん」
「お、脅すつもり?」
「そんなそんな。ただ、このパーティじゃ君は少数派だ。意見が合わないならあなたを追放するって事もありえる訳でね。私も出来る限りそんな事はしたくないのよ、マロンちゃんの為にねぇ〜」
ハナの視界の端でニヤリと歪むミリアの口元が見える。
目を固く閉じ、歯を食いしばりながらハナは顔を伏せた。
テーブルに追加で頼んだ料理や酒が運ばれてくる。
「いや〜さっきは悪かったね。はいこれ迷惑料」
ミリアは料理を運んできた店員に金を握らせた。
「流石にAランクパーティともなると周りから妬まれる事も多くてね〜。いちゃもんをつけてくる奴がたまに居るんだよ」
ミリアから金を受け取った店員は機嫌良さそうに笑顔を浮かべて厨房に戻っていった。
数分前にダーシャ達との揉め事で一時的には静まりかえっていた酒場だが、今はそんな事があったとは感じさせないほどに店の中は賑やかで、あちこちで客が酒を片手に笑い声を飛ばしている。
「ミリア、どういう事?」
ハナはミリアの方に身体を寄せて囁きかけるように言った。
「さっきあいつらが言ってた、ジャックを見殺しにしたって本当なの?」
ミリアは数秒きょとんとした顔で固まった後、軽く笑った。
「そんなのあの2人のでまかせに決まってるでしょ」
「でも彼女達の怒り方は普通じゃなかった。本気で言ってるようにしか……」
ミリアが溜息をつく。
「あのね〜、私はハナちゃんにクラーケンドラゴンの誘導をさせてジャックから引き離したじゃない。それこそ、ジャックを助けようと思っての行為でしょ。私が彼の元に駆けつけた時には既に息を引き取っていたんだよ」
「じゃあウォリーが嘘をついてるって事? 一体何のために」
「さあね〜、彼も何を考えてんだか」
ハナは未だに納得できないといった表情でミリアを見つめる。
「私はウォリーの事が嫌いだった。あの気持ち悪いほどお人好しな性格は鬱陶しくて仕方がなかったわ。ただ、ミリアには1番心を開いていたって事はわかる。そんなあいつがミリアを貶めるような嘘をつくとは思えないんだけど」
一瞬、ミリアの顔から笑顔が消えた。舌打ちをしたような気もするが、周囲の騒音のせいではっきりと聞こえた訳ではなかった。
「なんだよ君は、さんざんウォリーを馬鹿にしてた癖に今さらあっちに味方するつもり?」
「そういうわけじゃない。ただ、違和感を感じているだけで……」
「そんな事より、ジャックがいなくなったんだから次のリーダーを決めましょ。今日は今後のパーティの方針を決めるために集まったんだ」
ミリアは椅子の背もたれに寄りかかって笑みを浮かべた。
「次のリーダーは、私がやる事に決めた」
「え!? 勝手に何決めてるのよ!」
ハナが思わず身を乗り出した。
レビヤタンを立ち上げたのはジャックで、その後にハナ、そして次にウォリーとミリアが同時に加入していた。つまりレビヤタンとしての経歴はハナの方が長いという事になる。
「こういう事はよく話し合ってから……」
「決定事項だよ」
反論しようとするハナの言葉を遮るようにミリアは言い放った。
「元はと言えばジャックが勝手な行動をするからだ。あいつはすぐ調子に乗るからねぇ〜。私の指示通り動いていれば死ぬ事は無かったし、Sランクに近づけていたんだ。的確な指示を出す事に関しては私の方が長けている。もっと早いうちから私をリーダーにするべきだったんだよ」
「ちょっと、犠牲になった仲間にそんな言い方……ねえ、ゲリーはどう思うの?」
ハナは、先程から我関せずといった感じで料理を口にしていたゲリーに顔を向ける。
「俺はミリアがリーダーになるべきだと思うぜ」
彼は間を置かずに即答した。
「なっ……!?」
直後、ミリアの高笑いが聞こえる。
「ああ、ゲリーをレビヤタンに誘ったのは実は私なんだよね。私がジャックに紹介したの。つまり彼は最初から私側の人間なんだよ」
「すまんなハナ、ミリアのお陰で俺はこの有名なレビヤタンの肩書きを手に入れられたんでな」
「これで2対1だ。もう決まったも同然だと思うけどねぇ〜?」
ハナは驚いた。ミリアとゲリーが知り合いだったなんて今まで一度も聞かされなかった。ウォリーを追放したあの日、ジャックは縁があったとしか言わなかったが、その縁を作っていたのはミリアだったのだ。
ハナは先程のダーシャの言葉を思い出す。彼女はミリアがウォリーを追放したと言っていた。あれは本当だったのだ。だとすると、ジャックを見殺しにしたという話も嘘だと決めつける訳にはいかない。ミリアに対する疑念はさらに深まった。
「私は認めないわ。そう簡単にあなたがリーダーだなんて……」
「ハナちゃぁ〜ん」
ミリアはハナの肩に腕をまわし、耳元で小声で囁き始めた。
「ここは私に従っておきなさいよ、マロンちゃんの為にも」
マロン。その名前を聞いてハナは血の気が引いた。こめかみから汗がぽつぽつと噴き出してくる。
「なんで、マロンの事を……」
「随分重い病気だそうじゃない? もう先は長くないとか。いいお姉ちゃんだね〜泣けてきちゃうよ」
マロンとはハナの妹だ。重い病にかかり、医者からは余命1年も無いと言われている。それでもハナは彼女を助けるため有効な治療法を探していた。延命のため、有名な医者を訪ねては最高級の治療を妹に施していた。
「今レビヤタンを追放されたらまずい事になるでしょ? 君、妹の延命のためにかなりの金額を医療費に注ぎ込んでいるみたいだね〜。レビヤタンは国から支援金を貰ってるから、それで今までは何とかなってるんだろうけど、パーティを抜けたら支援金も貰えなくなっちゃう。マロンちゃんの治療費も質を下げなくちゃいけなくなるね。あ〜可哀想なマロンちゃん」
「お、脅すつもり?」
「そんなそんな。ただ、このパーティじゃ君は少数派だ。意見が合わないならあなたを追放するって事もありえる訳でね。私も出来る限りそんな事はしたくないのよ、マロンちゃんの為にねぇ〜」
ハナの視界の端でニヤリと歪むミリアの口元が見える。
目を固く閉じ、歯を食いしばりながらハナは顔を伏せた。