日が落ち、窓の外はすっかり暗くなった。
 その日ウォリーは殆ど自分の部屋にこもりっきりだった。
 出てくるのは食事時だけ。その時でさえ彼の口数は少なく、周囲に陰鬱な空気を漂わせていた。

「リ、リリ、本当にやるのか?流石にこれは……」
「怖気付きましたか?でしたら私1人で行きます。これもウォリーさんを元気付ける為です」
「い、いや、私だってウォリーが元気になるなら何だってやるつもりだが、本当にこんな事で効果があるのか?」

 リリとダーシャは気配を殺しながら廊下を歩いている。
 彼女らは浴室の前で立ち止まり中の様子を慎重に窺う。

「行きますよ!」

 リリが扉に手をかけた。

「ああ、もうどうにでもなれだ」

 扉が勢いよく開かれ、2人は室内に飛び込んでいく。
 ちょうど入浴中だったウォリーはギョッと目を見開いて跳び上がった。

「な!何だよ2人ともっ!」

 突然の侵入者にウォリーは背中を向けて叫び声をあげた。
 ダーシャとリリはタオルで身体を覆ってはいるものの、その下は裸だった。

「実はウォリーさんのお背中をお流ししようと思いまして」
「ひ、日頃世話になっているからな、その、お、お礼だ」
「い、いや、いいって!そんな事して貰わなくてもっ」

 ウォリーはなるべく2人の姿を見ないようにしながらブンブンと手を振り回した。

「遠慮しないでください。どうもウォリーさんはお疲れの様子ですから」

 2人はジリジリと接近していく。ウォリーは顔を赤くしながら必死に目を逸らしていた。

「もう!大丈夫だって!」

 とうとう耐え切れなくなったウォリーは2人を押し退けて浴室から走り去って行った。

「……逃げられてしまいました」
「やはりいきなりこういうのは駄目だろう。最初から飛ばしすぎだ」
「いえ、まだ手はあります。次こそ成功させましょう」
「ま、まだやるのか……?」

 ダーシャは苦笑した。

「私だって、助けられてばかりは嫌です。ウォリーさんの為に、少しでも力になりたい」
「しかし、やはり私達には荷が重いような気がするんだ。ミリアとウォリーは長い付き合いなんだろう?私達があれこれした所でそう簡単に気持ちを切り替えられるとは思えないのだが……」

 ウォリーを元気付けるために何かしたい。その思いはリリと一緒だった。だがダーシャは彼女の提案にはあまり乗り気ではない。何か自分が見当違いの方向に走っているような気がしていた。



 数時間後。2人は揃ってウォリーの部屋をノックした。
 ガチャリと扉が開かれる。先程の事もあってか、ウォリーの顔はどこか怯えている様子だった。

「お邪魔します!」
「え?ちょっと……」

 扉が開かれてすぐ2人は室内に入っていった。

「えっと、どうしたのかな?2人とも」
「たまにはウォリーさんと一緒に寝たいと思いまして」
「え?……」

 ウォリーの顔が引きつった。

「いや……今日は1人で寝るよ……」
「遠慮しないでください」
「あ、安心しろウォリー、変な事はしないから」
「う、うわああああ!!」

 ウォリーは逃げ出そうと部屋の出口に向かって走り出した。

「あ!逃げた!」
「バリアジェイル!」

 リリが防壁でウォリーを囲もうとする。が、ギリギリの所で彼はそれを躱した。

「待て!」
「逃がしませんよ!」

 ドタバタと音を立てて家の中でしばらく追いかけっこが続いた。






「やはりこういうのは緊張するな……」
「ウォリーさん、リラックスしてください」

 あの後結局ウォリーは捕まってしまった。
 今はベッドの中央に寝かされ、右にダーシャ、左にリリと川の字状態になっている。

「ねえ、どうしたの2人共。今日は様子が変だよ」

 ウォリーは顔を赤くしながら左右に視線を振った。
 ベッドは3人では狭く、お互いの体温が感じられる程に詰められている。

「ウォリーには早く元気になって欲しいからな」
「私達が側にいるという事、わかって貰いたいんですよ。失恋はショックでしょうけど私達はウォリーさんの魅力はちゃんとわかってますからね」

「し、失恋?」

 訳がわからないといった様子でウォリーが眉をひそめる。

「ウォリーが元気が無いのは、ミリアと何かあったからなのだろう?」
「え?ああ、いや違うよ!確かにミリアとの事で落ち込んでいたけど、失恋とかじゃない!」
「え?」
「え?」

 ウォリーはミリアとの間に起こった事を2人に話し始めた。ミリアに騙され
 ジャックを救えなかった事、ウォリーがパーティを追放されるようにミリアが裏で動いていた事、順を追って全て説明した。

「あ、あわわ……」

 さっきまでグイグイと押してきていたリリは、顔を手で覆ってしまった。

「私ったらとんでもない勘違いを……」

 彼女は恥ずかしそうに身体をプルプルと震わせている。

「まったく!よく確認もせずに突っ走るからだ。ああ、勘違いとはいえあんな大胆な事をしてしまうなんて……」

 ダーシャも頭を抱えながらもじもじと動いている。

「2人共ごめん。僕がちゃんと説明しなかったから……余計な心配をかけちゃったね」

 ウォリーが左右で悶えている2人に申し訳なさそうに声をかける。

「だが、とんでもない奴だな、そのミリアという女は」

 恥じらいから真っ先に立ち直ったのはダーシャだった。今度はミリアに対する怒りの感情が湧き上がって来ている様だった。

「そうですね。良い人だと思っていたのにまさかそんな酷い事するなんて」

 ダーシャに釣られる様にリリも怒りを込めた声を発した。2人の切り替えの速さにウォリーは苦笑いする。

「ウォリーに対してここまでされて黙っている訳にはいかないな、必ず報いを受けさせてやる!」
「な、何をするつもり?」

 どんどんヒートアップしていくダーシャに、ウォリーは不安そうに言った。

「明日レビヤタンの所へ殴り込みに行ってやる!」
「でも、あまり荒々しくするのは……」
「馬鹿!そうやって泣き寝入りしようとするから相手はつけあがるのだ!」
「そうですよ!このままじゃ私達の気が済みません!」

 左右から2人の熱気が伝わる。もう何を言っても無駄だと思ったのか、ウォリーは黙り込んでしまった。

「とりあえずウォリーはゆっくり休む事だ。もう寝よう」

 そう言ってダーシャは目を閉じた。

「え?このまま寝るの!?」

 リリもダーシャもベッドから出る気配は無い。

「こうなってしまった事は仕方ない。たまにはこういうのも悪くないだろう」

 ダーシャとリリが左右からウォリーの手を握った。

「心配するな。明日、私達が全てカタをつけてきてやる」