「おはよう……」
窓から差し込む朝日に目を細めながら、ウォリーはキッチンに立つダーシャに挨拶をした。
テーブルには既にいくつかの料理が並べられている。
「おはようウォリー。昨日は大変だったな、体調はどうだ?」
「うん、寝たら十分回復したよ……」
そう言ってウォリーは薄っすらと笑う。
だが、それが無理矢理作った笑顔だとダーシャは気付いていた。
彼の目は腫れ、隈も出来ている。ろくに睡眠も取れていないのだろう。
「皆さん、おはようございます!」
リリがブレイブを連れて現れた。
「うわぁ! 今日の朝食は豪華ですね!」
リリは並べられた朝食を見て目を輝かせる。
「そうだね……」
そう言って頷いたウォリーを見て、リリは表情を曇らせた。
テーブルに並べられているのはどれもウォリーの好物だ。今日の献立はダーシャが彼の為に作ったであろう事が一目でわかる。
本当なら1番喜ぶべきなのはウォリーのはずなのだが、本人は明らかに落ち込んでいる。
その異変を察知したリリは黙り込んでしまった。
「いただきます」
3人はテーブルにつき、食事を始める。
1番食べっぷりが良いのはブレイブだ。リリの足元で皿に顔を突っ込みドックフードをガツガツと食べている。
逆にウォリーの食べる勢いは目に見えて落ちている。
ゆっくりと食べ物を口に運んではしばらく手を止め、ため息をつく。そしてまたゆっくりと食べ始める……それを繰り返していた。
「今日は仕事はやめた方がいいな」
ダーシャが険しい顔で言った。
「え、どこか調子が悪いの?」
そう言うウォリーにダーシャが苛ついた表情を見せた。
「調子が悪いのは君だ、ウォリー」
「え? 僕は別に……」
「誤魔化せているとでも思っているのか? 今にも死にそうな顔をしているじゃないか」
ダーシャがキツい口調で言うと、ウォリーは俯いてしまった。
「すまない、怒っている訳じゃないんだ。ただ体調が良くないなら良くないと言って欲しい。どうして空元気を出そうとするんだ」
「私もそう思います。ウォリーさんはよく休んだ方がいいです」
「何があったのか無理に聞くつもりは無いがな、そんな状態ではまともにダンジョンを攻略出来ないだろう。君にもしもの事があったら……」
悲しそうな表情を向けるダーシャを見て、ウォリーは軽く頭を下げた。
「ごめん、心配かけて。じゃあ今日は休みにしよう……」
その後、食事を済ませたウォリーは自分の部屋に戻って行った。
彼の居なくなったテーブルで、リリとダーシャは深刻な表情で向き合う。
「ウォリーは明らかにおかしい。昨日、クラーケンドラゴンを撃退した後からだ」
「はい。あの時私達だけ先に帰るように言って、ウォリーさんはどこかに走って行ってしまいましたよね? あの後何かあったんじゃ……」
2人は昨夜の事を思い出す。
あの後ダーシャ達が家に着いてからかなり時間が経って、ウォリーが帰って来た。
彼の顔は真っ青になり、明らかに様子がおかしかった。目に残った涙の跡から、彼が泣いていた事が推察出来た。
2人は何度か彼に声をかけたが、力無い返事をされるだけでとても会話ができる状態では無かった。
「実は昨日、聞いてしまったんです」
リリがテーブルに身を乗り出して言った。
「本当に小さな声でしたけど、ぼそっと、『ミリア』って呟いていました」
それを聞きダーシャは目を丸くした。
「ミリアとはウォリーの幼馴染だったな。彼女が何か関係しているのか?」
「あの時ウォリーさんが走って行ったのは、ミリアさんを追いかけていたのではないでしょうか」
「ミリアと言えば、ジャックをポーションで助けるとか言ってなかったか? だが結果的にジャックは死んでしまった」
「ええ、あれは私も不思議に思いましたが……もしかしてジャックさんの死にショックを受けて落ち込んでいるのでしょうか」
ダーシャは腕を組んでうーんと声をあげた。
「しかしあの男、さんざんウォリーの悪口を言っていたではないか。ウォリーを追放したのも彼なのだろう? あそこまで落ち込むような事だろうか?」
「ほら、ウォリーさんって優しいですから。例え酷い事をした相手でもかつて同じパーティを組んでいた人が亡くなってしまったらそれなりにショックを受けるのでは」
「しかしな……どうもあの落ち込みようはそれだけでは無いような気がするんだ。これは私の勘に過ぎないが……」
それから、長い沈黙が続いた。
2人は首をひねりながらテーブルを見つめ、深く考え込んでいる。
そんな中、突然リリが「あっ」と声をあげた。
「もしかして……失恋?」
リリの言葉にダーシャもハッとした表情になる。
「あの後ウォリーさんはミリアさんに会いに行き、そこで彼女に振られたとか」
「そう言えばウォリーは随分彼女を慕っていた様子だったな。もしそういう事なら、あれだけ落ち込むのも解らないではない」
「でもどうします? 何とかしてウォリーさんを元気付けないと」
「こういう事は時間が解決してくれると聞いた事があるが」
「でも、流石にあのまま放っておくというのも……」
「そうは言ってもな……」
ダーシャは眉間に皺を寄せて唸る。
リリは身体を前のめりにして、ダーシャに顔を近づけた。
「2人でウォリーさんを励ましましょう!」
「そんなの、一体どうやって」
「ちょうどここに女性が2人居ます。私達でミリアさんの事を忘れさせてやりましょう! 名付けて、ウォリーさんハーレム作戦!」
窓から差し込む朝日に目を細めながら、ウォリーはキッチンに立つダーシャに挨拶をした。
テーブルには既にいくつかの料理が並べられている。
「おはようウォリー。昨日は大変だったな、体調はどうだ?」
「うん、寝たら十分回復したよ……」
そう言ってウォリーは薄っすらと笑う。
だが、それが無理矢理作った笑顔だとダーシャは気付いていた。
彼の目は腫れ、隈も出来ている。ろくに睡眠も取れていないのだろう。
「皆さん、おはようございます!」
リリがブレイブを連れて現れた。
「うわぁ! 今日の朝食は豪華ですね!」
リリは並べられた朝食を見て目を輝かせる。
「そうだね……」
そう言って頷いたウォリーを見て、リリは表情を曇らせた。
テーブルに並べられているのはどれもウォリーの好物だ。今日の献立はダーシャが彼の為に作ったであろう事が一目でわかる。
本当なら1番喜ぶべきなのはウォリーのはずなのだが、本人は明らかに落ち込んでいる。
その異変を察知したリリは黙り込んでしまった。
「いただきます」
3人はテーブルにつき、食事を始める。
1番食べっぷりが良いのはブレイブだ。リリの足元で皿に顔を突っ込みドックフードをガツガツと食べている。
逆にウォリーの食べる勢いは目に見えて落ちている。
ゆっくりと食べ物を口に運んではしばらく手を止め、ため息をつく。そしてまたゆっくりと食べ始める……それを繰り返していた。
「今日は仕事はやめた方がいいな」
ダーシャが険しい顔で言った。
「え、どこか調子が悪いの?」
そう言うウォリーにダーシャが苛ついた表情を見せた。
「調子が悪いのは君だ、ウォリー」
「え? 僕は別に……」
「誤魔化せているとでも思っているのか? 今にも死にそうな顔をしているじゃないか」
ダーシャがキツい口調で言うと、ウォリーは俯いてしまった。
「すまない、怒っている訳じゃないんだ。ただ体調が良くないなら良くないと言って欲しい。どうして空元気を出そうとするんだ」
「私もそう思います。ウォリーさんはよく休んだ方がいいです」
「何があったのか無理に聞くつもりは無いがな、そんな状態ではまともにダンジョンを攻略出来ないだろう。君にもしもの事があったら……」
悲しそうな表情を向けるダーシャを見て、ウォリーは軽く頭を下げた。
「ごめん、心配かけて。じゃあ今日は休みにしよう……」
その後、食事を済ませたウォリーは自分の部屋に戻って行った。
彼の居なくなったテーブルで、リリとダーシャは深刻な表情で向き合う。
「ウォリーは明らかにおかしい。昨日、クラーケンドラゴンを撃退した後からだ」
「はい。あの時私達だけ先に帰るように言って、ウォリーさんはどこかに走って行ってしまいましたよね? あの後何かあったんじゃ……」
2人は昨夜の事を思い出す。
あの後ダーシャ達が家に着いてからかなり時間が経って、ウォリーが帰って来た。
彼の顔は真っ青になり、明らかに様子がおかしかった。目に残った涙の跡から、彼が泣いていた事が推察出来た。
2人は何度か彼に声をかけたが、力無い返事をされるだけでとても会話ができる状態では無かった。
「実は昨日、聞いてしまったんです」
リリがテーブルに身を乗り出して言った。
「本当に小さな声でしたけど、ぼそっと、『ミリア』って呟いていました」
それを聞きダーシャは目を丸くした。
「ミリアとはウォリーの幼馴染だったな。彼女が何か関係しているのか?」
「あの時ウォリーさんが走って行ったのは、ミリアさんを追いかけていたのではないでしょうか」
「ミリアと言えば、ジャックをポーションで助けるとか言ってなかったか? だが結果的にジャックは死んでしまった」
「ええ、あれは私も不思議に思いましたが……もしかしてジャックさんの死にショックを受けて落ち込んでいるのでしょうか」
ダーシャは腕を組んでうーんと声をあげた。
「しかしあの男、さんざんウォリーの悪口を言っていたではないか。ウォリーを追放したのも彼なのだろう? あそこまで落ち込むような事だろうか?」
「ほら、ウォリーさんって優しいですから。例え酷い事をした相手でもかつて同じパーティを組んでいた人が亡くなってしまったらそれなりにショックを受けるのでは」
「しかしな……どうもあの落ち込みようはそれだけでは無いような気がするんだ。これは私の勘に過ぎないが……」
それから、長い沈黙が続いた。
2人は首をひねりながらテーブルを見つめ、深く考え込んでいる。
そんな中、突然リリが「あっ」と声をあげた。
「もしかして……失恋?」
リリの言葉にダーシャもハッとした表情になる。
「あの後ウォリーさんはミリアさんに会いに行き、そこで彼女に振られたとか」
「そう言えばウォリーは随分彼女を慕っていた様子だったな。もしそういう事なら、あれだけ落ち込むのも解らないではない」
「でもどうします? 何とかしてウォリーさんを元気付けないと」
「こういう事は時間が解決してくれると聞いた事があるが」
「でも、流石にあのまま放っておくというのも……」
「そうは言ってもな……」
ダーシャは眉間に皺を寄せて唸る。
リリは身体を前のめりにして、ダーシャに顔を近づけた。
「2人でウォリーさんを励ましましょう!」
「そんなの、一体どうやって」
「ちょうどここに女性が2人居ます。私達でミリアさんの事を忘れさせてやりましょう! 名付けて、ウォリーさんハーレム作戦!」