「相変わらず嫌味な連中だ」

 レビヤタンと別れた後もダーシャは不機嫌そうにぼやいていた。

「でも敵はクラーケンドラゴンだ。レビヤタンが戦ってくれるなら僕も心強いよ」
「確かに彼らの実力は高いとよく聞きます。でも性格に難がありますよ」

 リリもダーシャと同じく口を尖らせている。

「ウォリーは元々同じパーティだったから彼らの強さは知っているんだよな?今回の討伐、彼らだけで達成できると思うか?」
「うん、ジャックの剣術もハナの魔法も冒険者の中じゃトップクラスだし、何よりあっちにはミリアが居るからね」

 ウォリーはうっすらと笑みを浮かべて空を見上げた。

「ミリアとは君の幼馴染だったな。彼女はそんなに強いのか?」
「ミリアはユニークスキルという特殊なスキルを持っているんだ。僕は最近手に入れたばかりだけど、彼女は幼い頃からそのスキルを持っていたんだ」
「一体どんなスキルなんだ?」

 ダーシャとハナは興味深そうにウォリーの顔を覗き込んだ。

「『チェス名人』ってスキルで、発動するとチェスが上手くなるんだ」
「うん? そんな能力では、戦闘ではあまり役に立たないのではないか?」
「うん。みんな最初はそう思っていたんだ、当の本人もね。でも後になって、戦闘中にこのスキルを発動するとまた違った効果が出る事がわかったんだ」

 ウォリーは笑顔でそう語る。まるでミリアの能力を自分の事のように誇っているようだった。

「チェスとはそもそも戦争を模したゲームでしょ? チェスが上手い人は100手以上先の局面を読むとも言われている。ミリアはこのスキルで戦闘の先の展開を瞬時に予測し、場を掌握する事が出来るんだ。レビヤタンがあそこまで強いパーティになれたのも、彼女の働きが大きいと僕は思ってる」
「なるほど、だとすればクラーケンドラゴンのように倒し方が特殊なモンスターにはそのスキルは効果的かもしれないな」
「そう聞くとなおさらミリアさんをレビヤタンに入れておくのはもったいない気がしますね。あの人は他の人達みたいにウォリーさんを馬鹿にしたりしませんから……」

 リリがそう言うと、ウォリーは首を振った。

「いや、ミリアにはもっと上に行って欲しいよ。ジャックの話ではもうすぐSランクに挑戦するみたいだし」
「ウォリーさんはミリアさんを本当に尊敬しているんですね」
「うん。幼い時から一緒に冒険者を目指していたからね」
「むぅ……」

 楽しそうに話すウォリーの横でダーシャが眉をひそめている。リリはそれに気づくと、ダーシャの頬を指でつついた。

「あれ? ダーシャさんもしかして嫉妬しています?」
「ばっ……!? ばか! そういう事ではない!」

 大きく体を跳ねさせるダーシャを見てリリはくすくすと笑った。

「ほら、もうすぐ着くよ」

 木々に囲まれた道の先をウォリーが指差した。奥の方に村が小さく見える。
 3人は気を引き締めて、歩みを進めていった。






 樹齢を何千年と重ねた大木のような巨大な脚が地面を踏む。その度に周囲に衝撃が走り地震のように揺れた。
 上位のAランクモンスター、クラーケンドラゴンは地響きと共にその巨体を一歩一歩前に進めていた。
 その足元には6人の冒険者が標的に向けて攻撃を繰り出している。

「駄目! 魔法が全然通じない!」
「角を狙いたいが頭が高すぎる!」
「脚を狙え! 体勢を崩すんだ!」

 髭を蓄えた屈強な身体つきの冒険者がクラーケンドラゴンの前脚めがけて大斧を振り下ろす。
 ガキンと鉄と鉄がぶつかるような音が鳴り、斧が弾かれた。その勢いで斧を持った冒険者は大きく尻餅をついてしまう。

「駄目だ! 硬すぎる……ぐあぁ!」

 尻餅をついた冒険者に触手の先端が突き刺さった。
 冒険者は串刺しにされたまま持ち上げられ、宙に放り投げられる。

「くそ! あいつを回復しろ!」
「たかが触手1本が何て威力だっ……」

 冒険者集団による攻撃に一切怯む事なくクラーケンドラゴンは進行を続ける。
 それでも諦める事なく冒険者達は戦うが、ただただ人員が負傷していくだけだった。
 彼らはレビヤタンが到着するまでの足止め役だが、未だに標的は一歩も足を止める事が無い。

「もう駄目だ! これ以上は死人が出る、撤退だ!」

 冒険者達が一斉にクラーケンドラゴンに背を向けた時、彼らの視線の先に赤髪の女性が映り込んだ。

「どうもご苦労っ。後は私に任せてちょうだい!」

 ミリアは腰に装備した剣をゆっくりと引き抜き、目の前に迫り来る巨体を見上げた。