ミリアはレビヤタンのメンバーと合流しギルドの会議室に入った。
10人ほどのギルド職員がずらりと並んでいる。その中にはギルド長も居た。
「一体何事ですか」
ジャックが口を開く。彼の視線は真っ直ぐとギルド長を捉えている。
ギルド長は椅子の背もたれに深く寄りかかると、眉に皺を寄せた。彼は元Sランク冒険者である。Aランクでさえ達人と呼ばれるこの世界。彼は冒険者達にとって雲の上の存在だ。
「クラーケンドラゴンがダンジョンから抜け出てきた」
ギルド長の口から低く重々しい声が発せられた。
「このまま放置すれば周囲の村や街に大きな被害が出るだろう。奴は並みの冒険者では討伐出来ん。うちのギルドのAランクパーティの中で今最もSランクに近いとされるパーティ、レビヤタン。君達に奴の討伐を依頼したい」
クラーケンドラゴンはAランクモンスターの中でも上位。強さはほぼSランクと言ってもいい。普段はダンジョンの奥で生活しているが、たまにこうやってダンジョンの外に出ては街々を破壊するから厄介な存在だ。
高難度の討伐依頼。レビヤタンの面々は顔を強張らせたが、その中で真っ先にジャックの表情が笑みに変わる。
「承知しました、その依頼お受けいたします。ただ、この依頼を受けるにあたり我々もギルドにお願いがございます」
「なんだ?」
「この依頼を達成した際には、我々にSランク試験への挑戦資格を与えて頂きたい」
ジャックの申し出を聞き、岩石の様な表情をしていたギルド長が頬を緩ませる。
「ふ……そんな事か。相手はあのクラーケンドラゴンだ。討伐出来るとなれば断る理由はあるまい。よろしい、そちらの要望は聞き入れた。行ってくれるな?」
レビヤタン一同は深々と頭を下げる。
その後、ギルド職員から現在の標的の位置や予想される進行ルート、現在の被害状況など一通りの情報を渡され、彼らは会議室を後にした。
「いやぁ〜これは大変な事になっちゃったねぇ〜」
ミリアがギルドの廊下を歩きながら言った。深刻な事態にもかかわらず彼女の態度はいつもと変わらず軽快だ。
「だが、これで俺達もSランク昇格への足がかりを掴んだ。チャンス到来だ」
ジャックが不敵に笑う。
「しかし、相手はあのクラーケンドラゴンだよぉ? これはかなり苦戦するかもね〜」
クラーケンドラゴンとは体高15メートルもある巨大なモンスターだ。ドラゴンと名がつくが翼は無く飛行は出来ない。歩行用の4本の脚の他に、首の周りに10本の触手が生えている。
このクラーケンドラゴンの厄介な所はその防御力だ。全身が常に防御魔法で覆われていて、Aランク冒険者の攻撃でも殆ど通らない。
防御魔法を解除する為には、頭部にある2本の角を破壊する必要が有る。角さえ破壊すれば防御力は下がり討伐は圧倒的に楽になる。
だが、その角自体が結構な硬度を持っている。魔法などの遠距離攻撃を当てても破壊は難しいので近距離で強力な攻撃を叩き込む必要があるのだが、そこで問題になってくるのが10本の触手だ。
触手の攻撃力はかなり高く、動きも素早い。おまけに切断してもすぐに再生するという能力がある。それが10本もの数、頭を守る様に生えているのだから角の破壊は容易では無い。
「確かに強力な相手だが、俺たちの力を持ってすればきっと勝てる。ミリア、お前のスキルには期待しているからな」
ミリアはジャックに笑みを返した。確かに今回の敵は正面からぶつかっても勝てる相手じゃない。どう立ち回るかが重要になってくる。こういう時、ミリアの持つスキルはかなり便利であった。
「Aランクパーティに加入して早々にSランク昇格か〜。俺はついてるな」
そう言って笑ったのはウォリーの後釜として加入したヒーラーの男、ゲリーだった。
彼のスキルは治癒師ではないので回復力はウォリーに劣るが、その分味方のステータスを上げたり敵を弱らせたりといったいわゆるバフ、デバフと呼ばれる魔法が使える。
パーティのサポート役としてはウォリーに引けを取らない活躍をしていた。
「あんまり浮かれない方がいいわ。今は目の前の敵を倒す事に集中しましょう」
ハナは会議室にいた時からずっと厳しい顔をしたままでいた。
こうしている間にも標的の進行は進んでいる。急いで現場に向かう必要があった。
「よし、ここで待ち伏せしよう」
ミリアが地図を開き標的の進行予想ルートの1箇所を指し示した。周囲を高い崖で覆われた道。戦うには狭い気もするが、ジャック達はミリアの提案に従うことにした。
目的地までは少し距離がある。4人は馬車に乗り、街を出発した。
土埃をあげて馬が駆け出し、ぐんぐんと道を進んでいく。ミリアは馬車の窓から移り変わる景色を眺めていた。
馬車が森に入った時、彼女の視界に3人の男女が入る。
「ちょっと、止めて止めて〜」
ミリアが声を上げ、馬車は3人の前で停止する。
「これはこれは〜、ウォリー君じゃあるませんかぁ」
森で偶然会った3人の男女、ポセイドンのメンバーにミリアが明るい声をかける。
「ミリア、それにみんな……」
ウォリーは目を見開いてレビヤタンのメンバーを見回した。レビヤタンに良い印象を持っていないダーシャとリリは、ジャックとハナの姿を見てムッとした表情になる。
「もしかして君達もクラーケンドラゴンの依頼で来ているのかな?」
ミリアの問いに、ウォリーが頷いた。
「うん、今朝伝書鳩で緊急の依頼が来てね」
ウォリーの言葉を聞きハナが嫌そうに3人を睨んだ。
「はあ? クラーケンドラゴンは私達の獲物なんだけど? まさかあんたらと一緒に討伐するって事じゃないでしょうね?」
「いや、僕たちの役目は進行ルート上の村の安全の確保だよ。でももしレビヤタンが苦戦した場合はすぐに加勢できる様にと言われているんだ。お互いに頑張ろう」
キツくあたるハナの態度も気にせず、ウォリーは笑顔でそう答える。しかし、今度はジャックがウォリーを睨んで来た。
「俺達をなめるなよ、ウォリー。お前らごときの助けなど要らねえ。俺達は奴を討伐しSランクに上がる」
そう吐き捨てるとジャックは馬車の窓をピシャリと閉めた。
「ねえ、早く行きましょう!」
ハナが声を上げると、馬車は再び進行を開始する。
馬が強く地面を蹴り、土埃と共にレビヤタンは3人の元を去って行った。
10人ほどのギルド職員がずらりと並んでいる。その中にはギルド長も居た。
「一体何事ですか」
ジャックが口を開く。彼の視線は真っ直ぐとギルド長を捉えている。
ギルド長は椅子の背もたれに深く寄りかかると、眉に皺を寄せた。彼は元Sランク冒険者である。Aランクでさえ達人と呼ばれるこの世界。彼は冒険者達にとって雲の上の存在だ。
「クラーケンドラゴンがダンジョンから抜け出てきた」
ギルド長の口から低く重々しい声が発せられた。
「このまま放置すれば周囲の村や街に大きな被害が出るだろう。奴は並みの冒険者では討伐出来ん。うちのギルドのAランクパーティの中で今最もSランクに近いとされるパーティ、レビヤタン。君達に奴の討伐を依頼したい」
クラーケンドラゴンはAランクモンスターの中でも上位。強さはほぼSランクと言ってもいい。普段はダンジョンの奥で生活しているが、たまにこうやってダンジョンの外に出ては街々を破壊するから厄介な存在だ。
高難度の討伐依頼。レビヤタンの面々は顔を強張らせたが、その中で真っ先にジャックの表情が笑みに変わる。
「承知しました、その依頼お受けいたします。ただ、この依頼を受けるにあたり我々もギルドにお願いがございます」
「なんだ?」
「この依頼を達成した際には、我々にSランク試験への挑戦資格を与えて頂きたい」
ジャックの申し出を聞き、岩石の様な表情をしていたギルド長が頬を緩ませる。
「ふ……そんな事か。相手はあのクラーケンドラゴンだ。討伐出来るとなれば断る理由はあるまい。よろしい、そちらの要望は聞き入れた。行ってくれるな?」
レビヤタン一同は深々と頭を下げる。
その後、ギルド職員から現在の標的の位置や予想される進行ルート、現在の被害状況など一通りの情報を渡され、彼らは会議室を後にした。
「いやぁ〜これは大変な事になっちゃったねぇ〜」
ミリアがギルドの廊下を歩きながら言った。深刻な事態にもかかわらず彼女の態度はいつもと変わらず軽快だ。
「だが、これで俺達もSランク昇格への足がかりを掴んだ。チャンス到来だ」
ジャックが不敵に笑う。
「しかし、相手はあのクラーケンドラゴンだよぉ? これはかなり苦戦するかもね〜」
クラーケンドラゴンとは体高15メートルもある巨大なモンスターだ。ドラゴンと名がつくが翼は無く飛行は出来ない。歩行用の4本の脚の他に、首の周りに10本の触手が生えている。
このクラーケンドラゴンの厄介な所はその防御力だ。全身が常に防御魔法で覆われていて、Aランク冒険者の攻撃でも殆ど通らない。
防御魔法を解除する為には、頭部にある2本の角を破壊する必要が有る。角さえ破壊すれば防御力は下がり討伐は圧倒的に楽になる。
だが、その角自体が結構な硬度を持っている。魔法などの遠距離攻撃を当てても破壊は難しいので近距離で強力な攻撃を叩き込む必要があるのだが、そこで問題になってくるのが10本の触手だ。
触手の攻撃力はかなり高く、動きも素早い。おまけに切断してもすぐに再生するという能力がある。それが10本もの数、頭を守る様に生えているのだから角の破壊は容易では無い。
「確かに強力な相手だが、俺たちの力を持ってすればきっと勝てる。ミリア、お前のスキルには期待しているからな」
ミリアはジャックに笑みを返した。確かに今回の敵は正面からぶつかっても勝てる相手じゃない。どう立ち回るかが重要になってくる。こういう時、ミリアの持つスキルはかなり便利であった。
「Aランクパーティに加入して早々にSランク昇格か〜。俺はついてるな」
そう言って笑ったのはウォリーの後釜として加入したヒーラーの男、ゲリーだった。
彼のスキルは治癒師ではないので回復力はウォリーに劣るが、その分味方のステータスを上げたり敵を弱らせたりといったいわゆるバフ、デバフと呼ばれる魔法が使える。
パーティのサポート役としてはウォリーに引けを取らない活躍をしていた。
「あんまり浮かれない方がいいわ。今は目の前の敵を倒す事に集中しましょう」
ハナは会議室にいた時からずっと厳しい顔をしたままでいた。
こうしている間にも標的の進行は進んでいる。急いで現場に向かう必要があった。
「よし、ここで待ち伏せしよう」
ミリアが地図を開き標的の進行予想ルートの1箇所を指し示した。周囲を高い崖で覆われた道。戦うには狭い気もするが、ジャック達はミリアの提案に従うことにした。
目的地までは少し距離がある。4人は馬車に乗り、街を出発した。
土埃をあげて馬が駆け出し、ぐんぐんと道を進んでいく。ミリアは馬車の窓から移り変わる景色を眺めていた。
馬車が森に入った時、彼女の視界に3人の男女が入る。
「ちょっと、止めて止めて〜」
ミリアが声を上げ、馬車は3人の前で停止する。
「これはこれは〜、ウォリー君じゃあるませんかぁ」
森で偶然会った3人の男女、ポセイドンのメンバーにミリアが明るい声をかける。
「ミリア、それにみんな……」
ウォリーは目を見開いてレビヤタンのメンバーを見回した。レビヤタンに良い印象を持っていないダーシャとリリは、ジャックとハナの姿を見てムッとした表情になる。
「もしかして君達もクラーケンドラゴンの依頼で来ているのかな?」
ミリアの問いに、ウォリーが頷いた。
「うん、今朝伝書鳩で緊急の依頼が来てね」
ウォリーの言葉を聞きハナが嫌そうに3人を睨んだ。
「はあ? クラーケンドラゴンは私達の獲物なんだけど? まさかあんたらと一緒に討伐するって事じゃないでしょうね?」
「いや、僕たちの役目は進行ルート上の村の安全の確保だよ。でももしレビヤタンが苦戦した場合はすぐに加勢できる様にと言われているんだ。お互いに頑張ろう」
キツくあたるハナの態度も気にせず、ウォリーは笑顔でそう答える。しかし、今度はジャックがウォリーを睨んで来た。
「俺達をなめるなよ、ウォリー。お前らごときの助けなど要らねえ。俺達は奴を討伐しSランクに上がる」
そう吐き捨てるとジャックは馬車の窓をピシャリと閉めた。
「ねえ、早く行きましょう!」
ハナが声を上げると、馬車は再び進行を開始する。
馬が強く地面を蹴り、土埃と共にレビヤタンは3人の元を去って行った。