「ポセイドンのメンバー、ウォリー、ダーシャ、リリ。以上この3名をギルド追放処分とする」

 ベルティーナから尋問を受けた翌日、再びギルドを訪れたウォリー達はそう告げられた。
 3人は黙ったまま俯いている。誰も反論をしようとする者は居ない。昨日の時点で、こうなる事を3人とも腹のどこかで覚悟していた。
 それよりも気になるのは2日前の事。どうして自分達があんな行動を取ってしまったのか、どこでミスをしたのか。
 あの日の事を何度も何度も頭の中で繰り返し考えていた。

「ギルドカードの返却をお願いします」

 ギルド職員に言われ、3人は黙ってギルドカードを取り出した。
 それを職員に差し出す前に、ウォリーは自分のカードをじっと見つめた。
 思えばこのカードを手にしてから色々な事があった。レビヤタンのパーティに入り、難しい依頼をどんどんこなしてついにAランクまで登っていった。Sランク目前という所で、レビヤタンを追放され、新しいスキルと仲間に出会った。
 その新しいパーティでBランクに上がり、次はAランクを目指そうという時に再び追放とは……
 カードを見つめながら色々な思いが巡って来る。
 ウォリーは一度大きく深呼吸をし、職員にカードを差し出した。






 正式にギルド追放となり、そのまま自宅に帰って来た3人はリビングでテーブルを囲んでいた。

「これからどうしましょうか」

 リリが言うと、その場の空気はさらに重くなった。
 ギルドから追放されたからといって、冒険者が出来なくなるわけではない。しかし、追放を機に解散するパーティは少なくなかった。
 追放された後も冒険者を続けていく為には、別の街に移り住み、新しいギルドに登録する必要がある。しかし、パーティメンバーの全員が同じ選択をするとは限らない。
 今の街を離れたがらず、パーティを抜けてその場に留まる者も居る。あるいは追放され自信を無くし冒険者を引退する者も。追放時に組んでいたパーティに縁起の悪さを感じ、冒険者を続けるにしてもパーティは抜けて行く者もいる。

「僕は冒険者を続けて行こうと思う」

 先に自分の答えを述べたのはウォリーだった。

「この街は離れる事になるけどね。せっかく新しい家を借りたのに、すぐ出る事になっちゃったのは寂しいけど……」

 そう言って彼は部屋をぐるっと見回した。

「ウォリー……」

 今度はダーシャが口を開いた。

「私は君とパーティを組む時、こう言った筈だ。君と組むのは本当は嫌だと。君が無理矢理組ませようとしたから仕方なく組んだのだと……」

 ウォリーはそんな事もあったなと、苦笑いをした。だが、ダーシャは真剣な顔で続ける。

「ずっと1人で冒険者をして来た。それで良いと思っていた。差別を受けている私のせいで仲間に迷惑をかけるくらいなら、1人で居る方がずっと楽だ」

 ダーシャが、そっとウォリーの手を握った。彼女の目から涙が筋を作って落ちる。

「だが今は違う。君達とここで一緒に過ごす時間は、とても暖かくて……楽しくて……私はもう、これを失いたくない。1人になりたくない。だから、君について行かせてくれ」

 重ねられた2人の手に、リリも手を伸ばした。

「私も同じです。ダーシャさんと、ウォリーさんと、離れたくない。私が冒険者になって、私の事を受け入れてくれた……初めての仲間なんです。私も2人に、ついていきます」

 2人の言葉を聞いて、ウォリーも泣いた。ギルドを追放されてパーティまで解散するのではないかという思いが、彼の心の隅には有った。また1人に戻るかもしれない事が、怖かった。
 3人はしばらく、手を握り合ったまま泣いていた。



「あ……」

 ふと、リリが部屋の隅に視線をやる。彼女の目が、小さな布のような物を捉えた。
 リリは立ち上がりそれを手に取る。

「これ、私のハンカチ」

 彼女のハンカチは、なぜかリビングの隅の床に放り出されていた。

「ブレイブが勝手に持ち出したんですね。もう、悪戯っ子なんだから……」

 ウォリーは黙って彼女の手の中のハンカチをじっと見つめた。

「リリ、そのハンカチ見せてくれる?」

 言われたリリは不思議そうにしながらもハンカチを彼に手渡した。
 ハンカチを手に取ったウォリーはそれを顔に近づけると、臭いを嗅ぎ始めた。

「な、何をしているんだ?ウォリー……」

 その奇怪な行動に、横でダーシャが顔を引きつらせている。
 しかしウォリーは深刻な表情をしたまま黙り込んでいた。
 妙な物を見るようにダーシャとリリが彼を見つめていると、やがて彼は頭を抱えて呟いた。

「やられた……」

 ウォリーは顔を上げると、ダーシャ達を見た。彼の目からは先程までの弱々しさが消えていた。何かの迷いを断ち切ったような、決意に溢れた意思がその目から感じられた。

「この街を去る前にやるべき事がある。僕達の手で、怪盗キングを捕まえるんだ」






「お前らの顔など見たくは無いわ! とっとと失せろ!」

 ディーノは目の前でひれ伏す3人にそう言い放った。
 それはウォリー達がギルドを追放された翌日の事。彼らは再びディーノの前に出向いて謝罪をしていた。

「ディーノさん。この前の事は本当に申し訳ありませんでした。僕達はギルドを追放されました。しかし、このままでは僕達の気が収まりません。なにか、お詫びをさせてください」

 ウォリーは怒りに震えるディーノの前で頭を下げたまま、言った。

「そんなもんはいらん! 今すぐ俺の前から消えろ!」
「そう言わずに何とかお願いします! 屋敷の掃除でも、仕事の手伝いでも、何でもやります。もちろん賃金はいりません」

 ディーノは何度も3人を怒鳴りつけたが、ウォリーはしつこく食い下がった。

「お前らの手など必要無いわ!今は盗まれた財宝を見つけ出すのでそれどころじゃないというのに……」
「もちろん、それについても僕達も力を尽くすつもりです。怪盗キングは僕達で見つけだします。それまでは、この街を去りません。奴を見つけ次第、真っ先にあなたにご報告致します」

 ディーノはイライラとした様子で顔を歪ませる。さっさと目の前の奴らを追い払いたい。そのような気が伝わってきた。
 その時、ウォリーがポンと手を叩いて顔を上げた。

「そうだ! そういえばこの屋敷の食糧庫にネズミが住み着いて困っていると聞きました。手始めにそのネズミの駆除を、私達にお任せください!」
「今はネズミなんぞどうでもいい。泥棒の事で手一杯なんでな」
「そう言わずにお願いします! 何かしらやらないと僕達の気が済まないのです!」

 ディーノは面倒臭そうに使用人を呼び寄せた。

「こいつらを食糧庫に案内してやれ」

 それだけ命じると、ディーノのはその場を立ち去って行った。