「ははは! そんな能力があるのか! さすがあの魔人族とプリンセスクラブを掛け合わせただけはある!」
男の笑い声が響いた。
プリンセスクラブ。海の近くに出現するモンスターで、全身ピンク色の巨大な蟹である。人間を襲い、宝石などの光り物を奪っては自分の甲羅に埋め込んでいくという習性があり、身体に宝石を散りばめたその姿が名前の由来だ。華やかな見た目とは裏腹に性格は非常に凶暴で、巨大なハサミで手や足を切断された冒険者も少なくはない。
「ダーシャさん! 剣が……」
「くっ……」
剣を失い、防御手段を失ったウォリーは兎に角逃げ回るしかなかった。
プリンセス・ダーシャ……男がそう名付けた怪物は8本の脚をカサカサと動かして高速で追いかけてくる。
リリは咄嗟に防壁を作り出し敵の行く手を阻んだ。だが、巨大なハサミで3発ほど殴られると、防壁は砕けてしまった。
それでも5秒ほどは足止めが出来る。リリは防壁を作り続けた。
(このままじゃ私の魔力も、ウォリーさんの体力もいつか尽きてしまう……!)
リリは焦っていた。自分達が怪物の餌食になるのは時間の問題だ。
巨大なハサミが再び大きく開かれ、中から炎が吹き上がる。先程の強力なレーザーを再び
放つつもりのようだ。
その時、ウォリーの目の色が変わった。
(あのレーザー、とんでもない破壊力だ。恐らくあの白衣の男も、あれ程の威力は想定外だろう)
今まで走り続けて来たウォリーが急に足を止めた。開いたハサミがウォリーに向かって伸ばされる。ハサミの炎が最高潮に達し、直後にレーザーが発射された。
(だからこの扉の強度も……!)
レーザーが直撃するギリギリでウォリーは横に跳んで躱した。
「リリ! 脱出しよう!」
ウォリーの言葉に、リリは驚いて目を丸くした。よく見れば、先程までウォリーが立っていた場所、その奥には鉄格子の扉が有った。
ウォリーが躱した事でレーザーは扉に直撃。ウォリーの剣を高熱で溶かしたように、鉄格子も溶けて大きな穴が空いていた。
2人は空いた穴へ向かって走った。逃すまいと怪物も高速で追いかけるが、リリは防壁でそれを妨害した。
穴をくぐり通路に出ると、走り去っていく白衣の男が見えた。
(ダーシャを元に戻すには、彼女を操っているあの男を何とかしないと!)
ウォリーは全力で走った。リリも後に続く。一瞬振り返ると、自分達が通ってきた穴から蟹の脚がとび出ていた。あの巨体が引っかかって穴から上手く抜けられないでいるようだ。
ひたすらに走り続けていると、白衣の男が1つの部屋に入っていくのが見えた。ウォリー達もそこへ飛び込んでいく。
男は部屋の端で立ち尽くしたまま、荒い息で呼吸をしていた。部屋には大量の本や何なのかよくわからない器具が置かれていて、まるで研究所のような内装だった。
「ははは、まさか……部屋から逃げ出すとは……ぶっ!!!」
男が喋り始めた直後、ウォリーは彼を殴りつけた。
「ダーシャを元に戻せ!」
ウォリーは男の胸ぐらを掴み、怒鳴る。しかし男は不気味な笑みを浮かべたままだった。
「嫌だと言ったらどうする? 私を殺すか? 私を殺したら彼女は元に戻せなくなるぞ」
ヘラヘラと笑いながら男は余裕の態度を見せている。
「私が融合した生物は、私のスキル『キメラ』を使わなければ戻せない。これはユニークスキルだ。世界中探しても同じスキルを持つ者が居るかどうか……」
「だったらお前が戻せ!!」
ウォリーは目を充血させ、身を震わせている。仲間を怪物に変えられた事への怒りが止めどなく湧き上がってきていた。
「嫌だね。あれは私が創り出した。私の子供だ。たとえ死んでも元には戻さん」
男が言った瞬間再びウォリーの拳が飛んだ。
男のメガネが吹っ飛び、音を立てて割れる。
「戻せよ!」
「嫌……だ」
ウォリーの拳が男の顔面に振り下ろされる。鈍い音が部屋に何度も響いた。
「戻せ! 戻せ! 戻せえええ!!!」
ウォリーは何度も男を殴りつける。こぶしが振るわれる度に周囲に血が飛び散った。普段の温厚な彼からは想像も出来ない姿だった。
リリは不安そうにそれを眺めているが、止めはしなかった。何が何でもダーシャを助けたい。目の前の男を痛めつけてでも。その気持ちは彼と一緒だった。
「ふふ……ははは……はははは!!!」
顔中から血を流しながら、それでも男は不気味に笑っていた。
「頼むよ……ダーシャを……助けてくれ……頼む……」
ウォリーは殴るのをやめ、男の胸に額を擦り付けながら絞り出すように言った。
その時、ウォリーの頭の中で音が鳴った。
彼は少しの間その場で固まると、やがてリリの方を見た。
「リリ……僕にバリアスーツをかけてくれ」
「え?」
ウォリーは白衣の男を掴んだまま、リリの元に歩み寄っていった。
見れば、ウォリーの目には先程までの絶望感は無かった。その目を信じて、リリは彼に触れてバリアスーツをかけた。これにより次に受ける攻撃を1回まで無効化できる。
直後、部屋の外の通路から大きな音が響いた。
怪物と化したダーシャがすぐそこまで追いついて来たようだ。
「行ってくる」
ウォリーは殴られてフラフラになった男を引っ張ったまま、部屋を出ていった。
通路に出ると、奥から今まさに怪物がこちらへ向かって来ている瞬間だった。怪物はウォリーを確認すると立ち止まり、ハサミからレーザーを撃とうとする。
ここは通路。一直線にレーザーを撃たれれば横に避けることは出来ない。しかしウォリーは引き返す事なく前に進んでいった。
すると、突然怪物はハサミを下ろしてレーザーを撃つのを中断した。
(思った通り。今彼女を操っているのはこの男。こいつを一緒に連れていれば、巻き込んで一緒に殺してしまう可能性のあるレーザーを撃っては来ない)
レーザーを諦めた怪物はウォリーに向かって接近する。彼女はハサミを振り、ウォリーの身体を攻撃した。
その時、リリのバリアスーツが発動する。ウォリーは無傷のままハサミを受け、すかさず片腕でハサミをがっちりと押さえ込んだ。
掴んだハサミに向かって、ウォリーは全力で魔力を注ぎ込む。すると、怪物の身体のあちこちから煙が吹き出し始めた。
「な……どうなってる……これは」
ウォリーの横でその光景を見た白衣の男は驚きの声をあげた。
怪物の身体から吹き出す煙はだんだんと激しくなり、やがて大きな破裂音と共に彼女の身体が煙をあげて破裂した。
周囲を包んでいた煙が少しずつ薄くなり、視界が開けていく。
見れば、ウォリーの目の前には元の姿のダーシャとプリンセスクラブが気を失って横たわっていた。
「何だこれは!? なぜ、元の姿に……貴様何をしたあああ!?」
白衣の男は青ざめたまま絶叫する。
「キメラのスキルを持つ者でないとダーシャは元には戻せない。だから、僕がキメラのスキルを使って戻したんだ」
あの時、頭の中に鳴り響いた音声。そこでウォリーは新しいお助けスキルを取得していた。
≪物真似マン≫
≪対象に触れている間のみ、対象のスキルをコピーして使用する事が出来る。取得の為に必要なお助けポイント:60000ポイント≫
男の笑い声が響いた。
プリンセスクラブ。海の近くに出現するモンスターで、全身ピンク色の巨大な蟹である。人間を襲い、宝石などの光り物を奪っては自分の甲羅に埋め込んでいくという習性があり、身体に宝石を散りばめたその姿が名前の由来だ。華やかな見た目とは裏腹に性格は非常に凶暴で、巨大なハサミで手や足を切断された冒険者も少なくはない。
「ダーシャさん! 剣が……」
「くっ……」
剣を失い、防御手段を失ったウォリーは兎に角逃げ回るしかなかった。
プリンセス・ダーシャ……男がそう名付けた怪物は8本の脚をカサカサと動かして高速で追いかけてくる。
リリは咄嗟に防壁を作り出し敵の行く手を阻んだ。だが、巨大なハサミで3発ほど殴られると、防壁は砕けてしまった。
それでも5秒ほどは足止めが出来る。リリは防壁を作り続けた。
(このままじゃ私の魔力も、ウォリーさんの体力もいつか尽きてしまう……!)
リリは焦っていた。自分達が怪物の餌食になるのは時間の問題だ。
巨大なハサミが再び大きく開かれ、中から炎が吹き上がる。先程の強力なレーザーを再び
放つつもりのようだ。
その時、ウォリーの目の色が変わった。
(あのレーザー、とんでもない破壊力だ。恐らくあの白衣の男も、あれ程の威力は想定外だろう)
今まで走り続けて来たウォリーが急に足を止めた。開いたハサミがウォリーに向かって伸ばされる。ハサミの炎が最高潮に達し、直後にレーザーが発射された。
(だからこの扉の強度も……!)
レーザーが直撃するギリギリでウォリーは横に跳んで躱した。
「リリ! 脱出しよう!」
ウォリーの言葉に、リリは驚いて目を丸くした。よく見れば、先程までウォリーが立っていた場所、その奥には鉄格子の扉が有った。
ウォリーが躱した事でレーザーは扉に直撃。ウォリーの剣を高熱で溶かしたように、鉄格子も溶けて大きな穴が空いていた。
2人は空いた穴へ向かって走った。逃すまいと怪物も高速で追いかけるが、リリは防壁でそれを妨害した。
穴をくぐり通路に出ると、走り去っていく白衣の男が見えた。
(ダーシャを元に戻すには、彼女を操っているあの男を何とかしないと!)
ウォリーは全力で走った。リリも後に続く。一瞬振り返ると、自分達が通ってきた穴から蟹の脚がとび出ていた。あの巨体が引っかかって穴から上手く抜けられないでいるようだ。
ひたすらに走り続けていると、白衣の男が1つの部屋に入っていくのが見えた。ウォリー達もそこへ飛び込んでいく。
男は部屋の端で立ち尽くしたまま、荒い息で呼吸をしていた。部屋には大量の本や何なのかよくわからない器具が置かれていて、まるで研究所のような内装だった。
「ははは、まさか……部屋から逃げ出すとは……ぶっ!!!」
男が喋り始めた直後、ウォリーは彼を殴りつけた。
「ダーシャを元に戻せ!」
ウォリーは男の胸ぐらを掴み、怒鳴る。しかし男は不気味な笑みを浮かべたままだった。
「嫌だと言ったらどうする? 私を殺すか? 私を殺したら彼女は元に戻せなくなるぞ」
ヘラヘラと笑いながら男は余裕の態度を見せている。
「私が融合した生物は、私のスキル『キメラ』を使わなければ戻せない。これはユニークスキルだ。世界中探しても同じスキルを持つ者が居るかどうか……」
「だったらお前が戻せ!!」
ウォリーは目を充血させ、身を震わせている。仲間を怪物に変えられた事への怒りが止めどなく湧き上がってきていた。
「嫌だね。あれは私が創り出した。私の子供だ。たとえ死んでも元には戻さん」
男が言った瞬間再びウォリーの拳が飛んだ。
男のメガネが吹っ飛び、音を立てて割れる。
「戻せよ!」
「嫌……だ」
ウォリーの拳が男の顔面に振り下ろされる。鈍い音が部屋に何度も響いた。
「戻せ! 戻せ! 戻せえええ!!!」
ウォリーは何度も男を殴りつける。こぶしが振るわれる度に周囲に血が飛び散った。普段の温厚な彼からは想像も出来ない姿だった。
リリは不安そうにそれを眺めているが、止めはしなかった。何が何でもダーシャを助けたい。目の前の男を痛めつけてでも。その気持ちは彼と一緒だった。
「ふふ……ははは……はははは!!!」
顔中から血を流しながら、それでも男は不気味に笑っていた。
「頼むよ……ダーシャを……助けてくれ……頼む……」
ウォリーは殴るのをやめ、男の胸に額を擦り付けながら絞り出すように言った。
その時、ウォリーの頭の中で音が鳴った。
彼は少しの間その場で固まると、やがてリリの方を見た。
「リリ……僕にバリアスーツをかけてくれ」
「え?」
ウォリーは白衣の男を掴んだまま、リリの元に歩み寄っていった。
見れば、ウォリーの目には先程までの絶望感は無かった。その目を信じて、リリは彼に触れてバリアスーツをかけた。これにより次に受ける攻撃を1回まで無効化できる。
直後、部屋の外の通路から大きな音が響いた。
怪物と化したダーシャがすぐそこまで追いついて来たようだ。
「行ってくる」
ウォリーは殴られてフラフラになった男を引っ張ったまま、部屋を出ていった。
通路に出ると、奥から今まさに怪物がこちらへ向かって来ている瞬間だった。怪物はウォリーを確認すると立ち止まり、ハサミからレーザーを撃とうとする。
ここは通路。一直線にレーザーを撃たれれば横に避けることは出来ない。しかしウォリーは引き返す事なく前に進んでいった。
すると、突然怪物はハサミを下ろしてレーザーを撃つのを中断した。
(思った通り。今彼女を操っているのはこの男。こいつを一緒に連れていれば、巻き込んで一緒に殺してしまう可能性のあるレーザーを撃っては来ない)
レーザーを諦めた怪物はウォリーに向かって接近する。彼女はハサミを振り、ウォリーの身体を攻撃した。
その時、リリのバリアスーツが発動する。ウォリーは無傷のままハサミを受け、すかさず片腕でハサミをがっちりと押さえ込んだ。
掴んだハサミに向かって、ウォリーは全力で魔力を注ぎ込む。すると、怪物の身体のあちこちから煙が吹き出し始めた。
「な……どうなってる……これは」
ウォリーの横でその光景を見た白衣の男は驚きの声をあげた。
怪物の身体から吹き出す煙はだんだんと激しくなり、やがて大きな破裂音と共に彼女の身体が煙をあげて破裂した。
周囲を包んでいた煙が少しずつ薄くなり、視界が開けていく。
見れば、ウォリーの目の前には元の姿のダーシャとプリンセスクラブが気を失って横たわっていた。
「何だこれは!? なぜ、元の姿に……貴様何をしたあああ!?」
白衣の男は青ざめたまま絶叫する。
「キメラのスキルを持つ者でないとダーシャは元には戻せない。だから、僕がキメラのスキルを使って戻したんだ」
あの時、頭の中に鳴り響いた音声。そこでウォリーは新しいお助けスキルを取得していた。
≪物真似マン≫
≪対象に触れている間のみ、対象のスキルをコピーして使用する事が出来る。取得の為に必要なお助けポイント:60000ポイント≫