レビヤタンのリーダー、ジャック。魔法使いハナ。魔法剣士ミリア。そしてウォリーの後釜と思われる長髪の男が揃っている。

「ウォリー、彼らは?」

 レビヤタンとは初対面となるダーシャがウォリーに尋ねた。

「僕の前のパーティのメンバーだよ」
「ほう…彼らが」

 彼女は興味深そうにレビヤタンの一人一人に視線を走らせた。

「げ、こんな時にこいつと顔合わせるとか…」

 ハナが嫌そうに顔を歪ませる。

「久しぶりミリア、みんな…」

 ウォリーはハナの態度に一瞬戸惑ったが、すぐに笑顔になって言った。

「何?あんた魔人族なんかと組んでんの?だっさ!まぁ〜ウォリーだからね〜…あんたと組みたがる奴なんて滅多に居ないか」

 ハナがダーシャを一瞥し、鼻で笑った。

「ウォリーは人の上に立てるような男ではないからな。こんな奴には誰もついて行かんだろ」

 ジャックもハナに続いてそう言う。2人のは顔に薄っすらと笑みを浮かべているものの、その表情から感じ取れるのは明らかな軽蔑だった。

「あ、じゃあ僕たちはこれで…」

 2人の態度からここに長居するのはまずいと思ったウォリーは、急いでその場から離れようとする。しかし…

「おい、何だ今の態度は」

 ダーシャがジャック達の前に進み出て怒りの表情をむける。

「ええ?なんか文句でも?」
「かつての仲間に再会したというのにその態度はないだろう」
「仲間ぁ?こんな鬱陶しい奴仲間だなんて思った事ないわよ!」

 ダーシャとハナが睨み合う。

「どーせ今も依頼中に関係無い人見つけては人助けとかしてるんでしょ?そーゆー正義のヒーロー気取りっていうの…ホントうざい」

 ハナのその言葉にダーシャの怒気がどんどん強くなっていく。

「ダーシャ、もういいから、行こ」

 ウォリーは必死で彼女を止めようとするが、彼の言葉はまるで耳に入っていない様子だった。
 困ってリリの方に目をやると、あの温厚なリリでさえ恐ろしい表情でハナ達を睨んでいる。彼女の185cmの高身長も相まって凄い迫力だった。

「はいはい!そこまでぇ〜。それくらいにしなさい!」

 火花が散りそうな雰囲気の中に割って入ったのは、ミリアだった。

「いやごめんねウチの2人が…ああ言ってるけどね、ウォリー君にはパーティのヒーラーとしてそれはそれはすごぉ〜く…活躍して貰ってたのよ。もう今は彼が抜けて寂しくて仕方がないっ!」

 ミリアはダーシャの前でそう熱心に語った。先程まで苛立っていたダーシャも彼女の雰囲気に押されて戸惑っている。

「ここは私に免じておさめて頂戴よ。ね?ほら、ウォリー君も困ってるよ、ささっ。あ、ジャック〜ハナちゃん〜。ちょっと大人しくしててよね〜あんまり余計な事言うと話がややこしくなっちゃうんだからぁ〜」

 ミリアの誘導で、ダーシャ達とハナ達は引き離されて行った。

「ありがとうミリア。また助けられちゃったよ」

 ウォリーが小声でミリアに礼を言った。

「まぁまぁ気にすんな!私達の仲じゃな〜い」
「それにしても何かあったの?ハナ達随分イライラしてるみたいだけど」
「そうそう!そぉ〜なのよ〜。昨日依頼で失敗しちゃってさ〜大した成果あげられなかったんだよね〜」

 ペシっと音を立てて、ミリアは自分のおでこを叩いた。

「え、珍しいね。Aランクのレビヤタンが…一体どんな依頼だったの?」
「森で冒険者が次々と行方不明になっている事件の調査ね。行方不明者の死体どころか荷物すら見つからなかった。こりゃ神隠しって奴だね…」
「ちょっとミリア!いつまでそいつと話してんの!」

 ハナに声をかけられ、ミリアは慌ててハナ達の所へ戻ろうとする。

「じゃ、私達はこれで。応援してるよウォリー。君なら出来るっ!」
「うん。ミリアも元気そうでよかった」

 そう言葉を交わしたのを最後に、2人は別れて行った。






「なんなんださっきの連中は!まるで君を邪魔者扱いじゃないか!」

 ウォリー達がギルドを出てしばらく歩いてから、ダーシャが再び怒りを爆発させた。

「はい!私も流石に頭に来ました!」

 ハナも口調を強めてそう言う。

「まぁまぁ、落ち着いてよ。僕はああいうの慣れっこだから」
「君が良くても私が納得いかん!仲間を馬鹿にされたんだぞ!」

 ウォリーが宥めようとしてもダーシャ達は落ち着く気配が無い。

「なんであの人達はウォリーさんにあんな態度なんですか!」

 2人に問い詰められ、ウォリーは仕方なく説明し始める。

「ダーシャは僕の事お節介だってよく言うよね。レビヤタンに居た時もそんな感じでさ、困っている人に出会うと良く助けてたりしたんだ。それが彼らは気に入らなかったみたいでさ」
「それの何がいけないんだ!人を助けるのだって冒険者の仕事の一部だろ!」
「いや、僕は彼らの考えも間違いじゃないと思ってるよ。ダンジョンは危険な場所だ。ちょっとの油断が命取りになる。そんな所で自分のパーティ以外の人にも気を使っていたら、パーティ全体を危険に晒す事だってあるんだ。ただ、僕はそれでも目の前の人を見殺しにはしたくなかった…だからこれは、方向性の違いなんだよ…」

 すると、ダーシャがウォリーの両肩を掴んで揺さぶった。

「君がそんな自信なさげでどうする!私が盗賊の毒に倒れた時、君が見捨てずに居てくれたからこそ今があるんだ!」
「私だって、ウォリーさんが他の人を見殺しにするような人だったら、今頃ダンジョンでモンスターの餌になってます!」

 面と向かってそう言われ、ウォリーは恥ずかしくなり下を向いた。

「それに価値観が違うにしたってあの態度はないだろう!」
「はい!あの人を見下すような感じ、私も前のパーティで味わっているからこそ許せません!」

 ハナ達の態度を思い返しながら、2人の勢いにはどんどん拍車がかかっているようだった。

「よし!決めたぞ!」

 ダーシャが大きな音を立てて手を叩いた。

「このパーティの名前は『ポセイドン』だ!」
「…え?」

 突然の宣言にウォリーはぽかんと口を開ける。

「レビヤタンとは海の竜の名前だろう?ならばこっちは海の神ポセイドンだ!今日の屈辱を忘れず、私達は必ずレビヤタンを超える!その意味を込めてこの名前にしよう!」
「いや…別に僕はそんな対抗意識でパーティを作った訳じゃ…」
「良いですね!いずれAランクまで上がって、あいつらを見返してやりましょう!」

 ウォリーは不服だったが、結局怒り狂う2人を止める事が出来ず強引にパーティ名が決まる事となってしまった。
 さらにその後も彼女らの機嫌は治る事がなく…

「ウォリー、依頼を見に行こう!」
「え…?」
「さっきあの赤毛の女性が言っていただろう。レビヤタンは依頼で失敗したばかりだと。私達も同じ依頼を受けよう!」
「な、なんで…」
「レビヤタンが達成できなかった依頼をクリアしたとなれば、私達が奴らの一歩先を行った事になるではないか!私達の実力、思い知らせてやろう!」
「なるほど!やりましょう!」

 リリもすっかりダーシャに調子を合わせてしまっている。ウォリーは流されるまま彼女達の後に続いた。

 しかしこの選択が後に、ダーシャ自身に恐ろしい災いを招くことになってしまう…