「よーし。いい感じの味付けになったぞ」

シキは死んだように寝ている。
マジで死んでいるんじゃないかと思って、
鼻先に指を当てたら息をしていたから生きてはいるらしい。

[[rb:鑑定 > アプレイズ]]、ステータスウインドウ、この2つが
使えないのはワリと面倒ではある。


「まっ。文句言っても仕方ねぇ。慣れるしかねーやなぁ」

もう昼の12時か。

「シキ、疲れているんだな。毛布かけなおしてやるか」

俺が、シキのベッドに向かい毛布をかけ直そうとすると、
シキが目を覚ます。

「わりぃな。目覚ましちまったか?」

シキは首をフルフルと振る。

「うぅん。起こしてくれてありがとう。今何時?」

「今か。ちょうど12時だな、疲れているんなら寝ていていいんだぞ?」

「大丈夫……」


シキはちょっと考えたような表情になった後に、
俺に向かって言う。


「おはよう、ハルトくん」

「あいよ。おはようさん、シキ」

シキは体を起こして、ベッドから降りようとするも、
ベッドから転がり落ちそうになったので、
とっさに、俺が手を出して受け止める。


「おいおい。マジで大丈夫かよ? 一緒に病院行くか?」

「うぅん。ちょっと……立ちくらみ。ありがとう、ハルトくん」


俺はシキを担ぎながら、食卓へと向かう。
体が驚くほどほど軽い。
額を触り体温の確認をするも、熱はないようだ。


(なんだか分からねぇが……胸のあたりがチクチクしやがる。クソッ。俺は何に苛ついているんだ。シキを苦しめるこの世界にか――いや、ここは俺の世界じゃねぇ。それは出過ぎた感傷だ。俺はこの世界にとってイレギュラーな異物だ)


シキを食卓の椅子に座らせる。


「どーだ。今日は、元気になりそうな料理を作ったんだ。豚キムチだ」

「嬉しい。好き」


好き……俺じゃなくて、豚キムチのことだよな。
ははっ。ドキッとするじゃねぇか。

まぁ、メシは冷蔵庫のなかのありあわせだ。

レシピはシキの部屋の中の『簡単一人暮らし料理』
という本を参考にさせてもらった。

局所的時間制御魔法の行使により、
鮮度は食材として最高の状態にしている。


(つか、まぁ……じゃがいもとか目が出ているし、肉は賞味期限内ではあるが、ラップかけてないせいで石のように硬いし、ニラとか半分溶けかけていたからな。そのまま食材として使えるわけがないっつー感じだったな)


「かわいい音が鳴っているぞ」

シキのおなかからくぅ~っという音が聞こえてくる。

「もー。からかわないで」


赤面しているシキ、クソ……かわいい。


「ほらよ。たまご入りわかめスープも作った。ごはんもホカホカだぞ~」

「わー嬉しいよぉ。朝からこんなに食べられるなんて、本当に幸せ」

「おしっ。食卓にはメシは並んだし、それじゃ、食おうぜ!」

「うん」

「「いただきます」」」


俺とシキは手をあわせる。


シキは俺の朝食……つーか、時間帯的には昼食だが、
気に入ってくれたようだ。

冷蔵庫の生鮮食品が無くなりそうだから、
そろっと、何らかの方法で補充しなきゃいかんなー。

俺はそんなことを考えていた。