「あぁ、イラッとするぜ」


 電車での一件のあとに会社に付いていったが、
 シキの会社の連中はシキの挨拶は無視するくせに、
 面倒な仕事を一方的にシキに押し付けるはで、
何度も、『殺そうかな』とか思ってしまった。

 あいつら正社員の私達には働き方改革で、
 残業できないとか言って、
 面倒くせぇ仕事全部押し付けて帰っちまった。

 職場で動けばとばっちりがシキに行く可能性もある。
 ヤるなら、社外で各個撃破だな。

 もちろん殺しはしねぇぜ?
 ちょーっとだけお灸をすえるだけだ。


(あー。七面倒臭ぇ、世界の矯正力とやらが働かなきゃ、ボコらせて分からせられんだけどなぁ。あんな会社辞めさせて、オレが力仕事とか始めた方がラクなんじゃねぇか? 勇者パワーで小さな山程度ならパンチで破壊できるしな)


「……まぁ、それやったら一発でこの世界の矯正力に排除されちまうんだけどな」


 オレは、『節電』とやらのせいで、
 シキは一人暗いオフィスの中で仕事を
 11時過ぎるまで黙々としていた。

 オレは、何度か[[rb:フルヒール > 完全治癒]]と、
 [[rb:オールキュア > 完全状態異常回復]]で、
 シキの体力の消耗を抑えるようにサポートした。


 オレはシキが電車に乗ったのを見送ってから、
 [[rb:転移 > ワープ]]の魔法で家に戻ってきた。

 家の片付けについては、勇者パワーと
 魔法を使えば数十分で終えることができた。

 ゴミはほとんどが土日だけしか捨てられない、
 空き缶、缶詰、ペットボトルだったから、
 量の割にはわりとあっさり片付いた。


「ふぅ、ゴミは完了。次は風呂場だ」


 風呂場は天井やゴムパッキンの間に根を生やした
 カビを全殺しにした。大量虐殺だ。


 つっても、シキは普段はシャワーしか、
 使ってないみたいだけどな


「明日は休みの日らしいから風呂をあたためといてやるか」


 オレの回復魔法は自然治癒能力を超強化するものだ。
 切断した腕も一瞬で回復するほどの魔法ではあるが、
 それだけで癒せない、疲れもある。


「そういう時は、風呂に肩まで浸かるのが最高なんだよ」


 浴槽は[[rb:水生成魔法 > クリエイトウオーター]]で満たした。
 最も簡単な基礎魔法と呼ばれている魔法だが、

 勇者クラスが行使するとただの水ではなく、
 美味しく、肌にも良い水となるのだ。


「夕メシはマシヤの牛丼を食ってくるらしいから、今日はいらんだろ」


 それにしても20歳になったばかりの女の子が、
 こんな夜遅くまで仕事させるなんて、
 あまりにも可哀想だ。


「オレも仕事すっかなぁ。身分証どーすっかとか問題はあるけどよ」


 玄関のほうでガチャリと扉が開かれる音がした。
 シキが帰ってきたっつーことだ。

 オレは玄関のドアノブを掴みシキを家に入れる。


「おう、おかえり!」

「……ただ、いま」

「シキ、一日頑張ったな。偉いぞ」


 ウソではない、本音だ。
 透明化して一日のシキの様子を見て分かった。
 シキが赴いているのは、戦場だった。

 体から血は流れないかもしれないが、
 心から血は流れている。

 そして、真っ当な魔法で心を癒やすのは不可能。
 洗脳系の外法なら可能かもしれんが、
 そういうことではないだろう。


「どーしたの。ハルトくん、大袈裟だよ」


 少し頬を赤らめているようだ。
 なかなか可愛らしい反応するじゃねぇか。


「大袈裟なものかよ。シキは、偉い。オレが言うんだから間違いねぇ」

「うーん。よくわからないけど、ありがとう」

「風呂あたためておいたけど、一緒に入るか?」

「えっ……一緒に? 私が、ハルトくんと?」


 シキは、目をパチクリして驚いている。

 なんだよ、昨日キスした間柄じゃないか。
 今更、恥ずかしがることなんてないだろうによ。


「おぅ、もしかしてシキ恥ずかしかったか?」

「はっ、……恥ずかしくなんてないわ。女の子は準備があるの! ハルトくんが先にお風呂入っていて、私は後で入るから」

「はいはい。そんじゃ、一番風呂はオレがいただきます」


 昨日はシキに押されていたが、
 今日はどうやらオレに部があるらしい。

 日本のコトワザにも『押して駄目なら押し倒せ』
 っつー言葉があるもんな。要するに男は度胸だ。


「ふぅ。やっぱ、あったかい風呂は最高だぜ!」


 すりガラス越しの扉の向こうから、
 ノックの音が聞こえる。


「シキ入ってこいよ。いい湯加減だぞ~」

「……う、うん」

「って、おい。タオルグルグル巻きじゃねーか」

「私は、こうやっていつもお風呂入っているの!」


 明らかにウソだ。
 普段から風呂の中にタオル巻いて、
 入るヤツが居たら変人だ。


「んじゃ、オレもタオル取ってこようかな。さすがにオレだけ裸っつーのも、逆になんか変な感じするしな」

「いいの! ハルトくんは裸で。それとも、もしかしてハルトくんも私に見られるのが恥ずかしいの?」

「ばっ……バカ言えよ。男が、んな、ちみっちぇえこと気にするかよ」

「あら、本当かしら?」


 蠱惑的な表情で浴槽に使っているオレの膝の上に乗ってくる。
 タオル越しとは言え、エロい。
 オレの選定の剣、エクスカリバーの硬度が増している。


「ハルトくん、当たっているんですけど?」

「バカ、当たっているんじゃねーよ。当てているんだよ」


 オレなりの精一杯の強がりだ。
 別に当てているわけではなく、
 上から乗られりゃそりゃ、当たるだろよ。


「んっ……はっ……あぅ……」


 オレはシキの顔を掴んで風呂のなかでキスをする。
 形勢逆転だ。勝利の神はオレに微笑んだ。

 オレは、シキの口腔内を蹂躙する。

 ……おい……やめろっ、鎮まれ、オレのエクスカリバー!
 主の……オレの命もなく、この戦場で秘奥義を放つとは、
 おい……マジ……やめっ……やめろぉおおおっ!! 


 ――チーン


「いや、マジごめん。シキさん、そのですね。出発……進行、してしまいました」

「うわ。なんか、白いふわふわが、お風呂に浮かんでる……」

「すみません。あとで、風呂洗いますので、許してください」

「私も、からかい過ぎてごめんね、ハルトくん。その、つい楽しくってつ……」

「ははっ。まず、浴槽からあがろうか」

「そだね」


 クソッ。

 拷問、四肢切断、服毒に耐えるオレが、
 股間をまさぐられる程度で屈するとは……。
 パーティーの連中には死んでも言えねぇ。

 まだまだ、オレも修行不足ということだ。


「シキの髪ってめっちゃ柔らかくて綺麗だな。それにいい匂いがする」

 オレとシキは浴槽からあがって、
 オレはシキの頭をシャンプーで洗う事にした。

「母がロシア人だったの。銀色の髪は、ママ……うぅん、母の影響なの」

 シキはオレの頭皮マッサージが気持ちいいのか、
 微妙に眠そうな感じになっている。

「オレは、シキの銀色の髪も金色の目も好きだ。美人なかーちゃんだったんだな」

「……そんな……照れる。お世辞でも嬉しすぎるよ」

「だからさ、おっぱいも見たら、きっとおっぱいも好きになる。だから見せて?」

「みーせーまーせん!」


 そんなくだらないやり取りをしながら、
 オレはシキの髪の感触を堪能しながら楽しむのであった。