目がまわる。ぐるぐるまわる。
雨がざーざー降っている。
降る雨は、私の涙。
空の色は、私の心。
今日も良いことなんて一つもなかった。
死ねば楽になれるのに。
死にたい、だけど死にたくない。
痛いのは嫌だ、怖いのも嫌だ。
「はぁ……なにいっているんだろ、私」
今日も仕事場でうまくやれなかった。
うまく立ち回ることができなかった。
なんで私は人とうまくやれないのだろう。
たまに思うのだ私はこの世界の人間ではないのではないかと。
生まれる世界を間違えたのではないかと。
そうでなければ説明がつかない。
そうでなければ救いはない。
「ピピー、がー。ザー。交信――SOS、私を本来居るべき所へ」
分かっている、こんなのは逃避だって。
狂人の真似事をしても何も変わらないと。
ほら、今日も会社の先輩から言われたじゃないか、
『里美さんって、コミュ障だよね。ケアレスミスとかも多いし、
人の話を理解するのも遅い、あんた発達障害なんじゃない?』
私は、会社で先輩に言われた言葉を脳内で繰り返す癖がある。
お風呂の時には浴槽に浸かりながら、
無意識に口ずさんでいる。
呟けば、呟くほどに心が苦しくなるのに何故そうするのか。
まるで、精神の自傷行為だ。
先輩の言っている言葉には一部、誤りがある。
私は発達障害とは診断されていない。
コミュ障は、その通りなのだろう。
私が診断されている名称は『抑うつ症状』
病気認定ではなく、軽症扱いだ。
統合失調症、双極性障害、鬱病といったような
国の定める三大疾病から外れるため、
国の福祉制度の助けも受ける事はできない。
5年前に大恐慌があった時に、
心療内科に行政指導が入り、三大精神疾患と
認定される基準は大幅に引き上げられた。
だから見た目上の数値としては、
重病の精神疾患患者は減っている。
だけど、その改善した数値と矛盾するように、
自殺者や行方不明者の数は増え続けている。
「…………疲れた」
わからない。
どこから道を間違ったのだろうか?
私の母はロシアから語学留学で訪れた
この国で父と出会い、結婚した。
そう聞いている。
両親は地方都市で小さな会社を経営していた。
中学の頃までは学校でもからかい半分に、
ご令嬢なんて呼ばれることはあったし、
恥ずかしいとは思ったが、悪い気はしなかった。
自分の両親が誇らしいと感じられたからだ。
お母さんから受け継いだ、
私の銀色の髪や金色の目も、
嫌いじゃなかった。
ちょうど5年前、大恐慌の煽りをくらい、
高校1年の時に両親の会社は倒産。
大企業の孫請会社だった両親の会社は、
取引先の子会社が倒産するのと同時に、
連鎖倒産することになった。
なんとか持ち直そうと努力していたが、
一社に依存していたため会社を精算する
以外の手は残されていなかった。
元従業員が会社に火をつけたのだ。
発見が早かったため消火活動は間に合ったが、
私の両親は一酸化中毒で死んだ。
寄り添い死んでいたそうだ。
死に顔も火傷のあとはなく綺麗なものだった。
「悲しんでいる余裕も、葬式をする余裕もなかったな」
両親が自分自身にかけていた生命保険も、
倒産した会社の精算のために管財人に没収された。
会社とは関係ない持ち家、
家具も全てを持っていかれた。
お金もなく、住む場所もない私には、
高校は中退せざるおえなかった。
逃げるように地元を離れ東京に上京。
地元の友人の顔は見たくなかったし、
何より管財人を通さずに、
直接怒鳴りたてる債権者が怖かった。
私が上京してまもなく、実家は競売に出された。
詳しいことは知らないが管財人いわく、
二束三文で買い叩かれたそうだ。
東京に上京して身を粉にして働いている。
稼いだ給料の一部は債権者に支払い続けている。
ある日、無理がたたったのか、
勤務中に意識を失い救急車に運ばれた。
私がはじめて心療内科に通うことになったのが、
この出来事がきっかけである。
処方されている薬を飲むと痛みは少し和らいだ。
胸に刺さった痛みは確かに和らいだ。
だけど徐々に感情が薄れていく感じがするのだ。
お母さんの顔も、お父さんの顔も今は、うまく思い出せない。
まるで記憶にすりガラスがかけたような感覚。
集中力が落ちたせいで仕事でのケアレスミスも増え、
結果として上司から怒られる事も多いようになった。
もともと人とうまくやる事のできない私は、
社内イジメの対象となりやすかったのであろう。
銀髪、金眼といった日本人に少ない、
身体的な特徴もターゲットに
される一因となっているようだ。
陰で《《いろいろ》》言われているのは知っている。
そもそも、彼らは隠そうという気すらないのだが。
「あっ…………光……」
――光、強い光だ。
ぼーっと道路を歩いていた私が悪い。
もう、絶対に助からない。
これでやっと終わらせられる。
これで、[[rb:人生 > クソゲー]]からログアウトできる。
私を数秒後に引くはずだったトラックが止まっている。
いや、ゆっくりとではあるが動いてはいる。
私の体は動かない。
これは……走馬灯だろうか、
降り注ぐ雨の雫が、
まるで止まっているように見える。
雨の雫にトラックのヘッドライトが乱反射して、
まるで宝石のようにピカピカと光っている。
死、救いが、間近に迫っている。
苦しみから解放される、やっと。
できれば痛くない方がいいな。
ちょっとくらいなら我慢しなきゃ。
静止した時間のなかで黒い人影。
横断歩道の前方10メートル先、
静止した世界の中で、
空中に止まった雨粒を砕きながら駆ける影。
よく見えない、体格からして男性だろうか。
きっと、この世界から私を救い出してくれる王子様。
まぶたを一回閉じたら目の前に居た。
彼を私を片手に抱き、地面を蹴る。
心地よい浮遊感。
雨粒を砕く感覚を確かに感じる。
これは夢なのだろうか?
私は横断歩道の手前で、
見知らぬ男に抱きかかえられていた。
力強い青い瞳に黒い髪。
全体的に筋肉質の体。
マントを羽織ったファンタジーの勇者のような男。
あまりにも現実感のない格好である。
私はいつの間にか横断歩道を渡る前の場所に戻っていた。
私の横をトラックが遠りすぎた。
まるでさっきまで時間が停止したように
感じたのは錯覚だったのだろうか。
「……あの……すみません、ぼーっとしていて。危うく轢かれるところでした。えっと、私の命を救っていただき、ありがとうございます」
突然に目の前に現れた男性。何者だろうか。
さっきまでの出来事は私の妄想?
そうであれば辻褄が合う。
目の前の男性は何かしらブツブツと呟いている、
だけど、何を言っているのか分からない。
それにしてもなぜ私を助けてくれたのだろうか、
私の知りあい……、なわけはないよね。
雨は勢いを増していた。
雨がざーざー降っている。
降る雨は、私の涙。
空の色は、私の心。
今日も良いことなんて一つもなかった。
死ねば楽になれるのに。
死にたい、だけど死にたくない。
痛いのは嫌だ、怖いのも嫌だ。
「はぁ……なにいっているんだろ、私」
今日も仕事場でうまくやれなかった。
うまく立ち回ることができなかった。
なんで私は人とうまくやれないのだろう。
たまに思うのだ私はこの世界の人間ではないのではないかと。
生まれる世界を間違えたのではないかと。
そうでなければ説明がつかない。
そうでなければ救いはない。
「ピピー、がー。ザー。交信――SOS、私を本来居るべき所へ」
分かっている、こんなのは逃避だって。
狂人の真似事をしても何も変わらないと。
ほら、今日も会社の先輩から言われたじゃないか、
『里美さんって、コミュ障だよね。ケアレスミスとかも多いし、
人の話を理解するのも遅い、あんた発達障害なんじゃない?』
私は、会社で先輩に言われた言葉を脳内で繰り返す癖がある。
お風呂の時には浴槽に浸かりながら、
無意識に口ずさんでいる。
呟けば、呟くほどに心が苦しくなるのに何故そうするのか。
まるで、精神の自傷行為だ。
先輩の言っている言葉には一部、誤りがある。
私は発達障害とは診断されていない。
コミュ障は、その通りなのだろう。
私が診断されている名称は『抑うつ症状』
病気認定ではなく、軽症扱いだ。
統合失調症、双極性障害、鬱病といったような
国の定める三大疾病から外れるため、
国の福祉制度の助けも受ける事はできない。
5年前に大恐慌があった時に、
心療内科に行政指導が入り、三大精神疾患と
認定される基準は大幅に引き上げられた。
だから見た目上の数値としては、
重病の精神疾患患者は減っている。
だけど、その改善した数値と矛盾するように、
自殺者や行方不明者の数は増え続けている。
「…………疲れた」
わからない。
どこから道を間違ったのだろうか?
私の母はロシアから語学留学で訪れた
この国で父と出会い、結婚した。
そう聞いている。
両親は地方都市で小さな会社を経営していた。
中学の頃までは学校でもからかい半分に、
ご令嬢なんて呼ばれることはあったし、
恥ずかしいとは思ったが、悪い気はしなかった。
自分の両親が誇らしいと感じられたからだ。
お母さんから受け継いだ、
私の銀色の髪や金色の目も、
嫌いじゃなかった。
ちょうど5年前、大恐慌の煽りをくらい、
高校1年の時に両親の会社は倒産。
大企業の孫請会社だった両親の会社は、
取引先の子会社が倒産するのと同時に、
連鎖倒産することになった。
なんとか持ち直そうと努力していたが、
一社に依存していたため会社を精算する
以外の手は残されていなかった。
元従業員が会社に火をつけたのだ。
発見が早かったため消火活動は間に合ったが、
私の両親は一酸化中毒で死んだ。
寄り添い死んでいたそうだ。
死に顔も火傷のあとはなく綺麗なものだった。
「悲しんでいる余裕も、葬式をする余裕もなかったな」
両親が自分自身にかけていた生命保険も、
倒産した会社の精算のために管財人に没収された。
会社とは関係ない持ち家、
家具も全てを持っていかれた。
お金もなく、住む場所もない私には、
高校は中退せざるおえなかった。
逃げるように地元を離れ東京に上京。
地元の友人の顔は見たくなかったし、
何より管財人を通さずに、
直接怒鳴りたてる債権者が怖かった。
私が上京してまもなく、実家は競売に出された。
詳しいことは知らないが管財人いわく、
二束三文で買い叩かれたそうだ。
東京に上京して身を粉にして働いている。
稼いだ給料の一部は債権者に支払い続けている。
ある日、無理がたたったのか、
勤務中に意識を失い救急車に運ばれた。
私がはじめて心療内科に通うことになったのが、
この出来事がきっかけである。
処方されている薬を飲むと痛みは少し和らいだ。
胸に刺さった痛みは確かに和らいだ。
だけど徐々に感情が薄れていく感じがするのだ。
お母さんの顔も、お父さんの顔も今は、うまく思い出せない。
まるで記憶にすりガラスがかけたような感覚。
集中力が落ちたせいで仕事でのケアレスミスも増え、
結果として上司から怒られる事も多いようになった。
もともと人とうまくやる事のできない私は、
社内イジメの対象となりやすかったのであろう。
銀髪、金眼といった日本人に少ない、
身体的な特徴もターゲットに
される一因となっているようだ。
陰で《《いろいろ》》言われているのは知っている。
そもそも、彼らは隠そうという気すらないのだが。
「あっ…………光……」
――光、強い光だ。
ぼーっと道路を歩いていた私が悪い。
もう、絶対に助からない。
これでやっと終わらせられる。
これで、[[rb:人生 > クソゲー]]からログアウトできる。
私を数秒後に引くはずだったトラックが止まっている。
いや、ゆっくりとではあるが動いてはいる。
私の体は動かない。
これは……走馬灯だろうか、
降り注ぐ雨の雫が、
まるで止まっているように見える。
雨の雫にトラックのヘッドライトが乱反射して、
まるで宝石のようにピカピカと光っている。
死、救いが、間近に迫っている。
苦しみから解放される、やっと。
できれば痛くない方がいいな。
ちょっとくらいなら我慢しなきゃ。
静止した時間のなかで黒い人影。
横断歩道の前方10メートル先、
静止した世界の中で、
空中に止まった雨粒を砕きながら駆ける影。
よく見えない、体格からして男性だろうか。
きっと、この世界から私を救い出してくれる王子様。
まぶたを一回閉じたら目の前に居た。
彼を私を片手に抱き、地面を蹴る。
心地よい浮遊感。
雨粒を砕く感覚を確かに感じる。
これは夢なのだろうか?
私は横断歩道の手前で、
見知らぬ男に抱きかかえられていた。
力強い青い瞳に黒い髪。
全体的に筋肉質の体。
マントを羽織ったファンタジーの勇者のような男。
あまりにも現実感のない格好である。
私はいつの間にか横断歩道を渡る前の場所に戻っていた。
私の横をトラックが遠りすぎた。
まるでさっきまで時間が停止したように
感じたのは錯覚だったのだろうか。
「……あの……すみません、ぼーっとしていて。危うく轢かれるところでした。えっと、私の命を救っていただき、ありがとうございます」
突然に目の前に現れた男性。何者だろうか。
さっきまでの出来事は私の妄想?
そうであれば辻褄が合う。
目の前の男性は何かしらブツブツと呟いている、
だけど、何を言っているのか分からない。
それにしてもなぜ私を助けてくれたのだろうか、
私の知りあい……、なわけはないよね。
雨は勢いを増していた。