「えっと……すごい量の薬だけど、もしかして風邪? 疲れているみたいだし、無理しないで横になりなよ。つーか、体調が悪い時にオレのような得体のしれない男がいたら邪魔でしょ? 好意はありがたいけどさ、迷惑をかけるつもりはないよ」
一連の所作や、テーブルに散らばる薬の山を見る限り、
飲み慣れた薬のようだし、急病という訳ではないのだろう。
それに疲れてはいるが、咳や熱はなく、
風邪といった感じではない。
緊急性があるなら、看病するのもやぶさかでないが、
多分そういうことでは無さそうだ。
こういう時にはオレが居ると逆に負担をかけるだけであろう。
彼女は一旦家を出ようとする、
オレの服の袖を無言で掴んで引き止める。
「うぅん、邪魔じゃないよ。行かない、で。それに体調が悪いのは今日だけじゃない、ずっと……そう、ずっとなの。それに私のは、治らない病気なの」
「不治の病、ってやつか……?」
「ふふっ、違うよ、そんな大げさな病気じゃないって。命の危険はないの。それに、さっきのオクスリ飲むと心が落ち着くの。だいじょーぶ、ハルトくんは何も気にしなくても大丈夫だから」
ハルトくん、か。
酒を飲んでいるわけでもないのに、
目が上ずり瞳孔もさっきよりも開いている。
さっき飲んでいたあの薬の影響だろうか。
彼女の金色の瞳を覗いていると吸い込まされそうになる。
宝石のように綺麗な瞳なのに、
なぜか底のないような深い虚のようにも感じられる。
ステータス・ウィンドウを確認できれば、
自分が[[rb:魅了 > チャーム]]の状態異常になっているかどうか、
確認できるのだが、色々と不便な物だな。
「ふわぁ……。ねみゅい。うん、ねみゅい。……今日はもう、寝ようか。お風呂は……うん明日の朝でいいや。そうしよう。私はちゅかれたにょ」
「おいおい、サトミさん大丈夫かよ」
オレは足元のおぼつかない彼女にオレの肩を貸す。
彼女は、オレによたれかかりながら部屋へと進む。
「ハルトくん、私のことはサトミさんじゃなくて、シキって呼んで、ね」
日本では親しい間柄の人間同士は、
姓ではなく名で呼ぶのが一般的と、
オレにはインプットされている。
姓の方を呼び捨てで呼ばせたいというのは、
心の距離が近づいているのか、
それとも離れているのか測りかねる。
(何事も例外はある。それに単純にサトミより、シキの方が短いから呼びやすい。友人からそう呼ばれていたとか、きっとそんなところだろう)
「ハルトくんも一緒に寝ない?」
「ああ、そろそろ夜も遅いからな。俺は、この広間で寝てもいいか、シキ?」
俺は、床を指差す。多少ゴミが散らかっているが、
モンスターが襲ってくる野営と比べれば100倍マシである。
ベッドがなくてもこの程度の硬さの床であれば余裕で寝られる。
むしろ心地よい程度のものだ。
「うぅん、違うの。ハルトくん、私と一緒の布団で、寝よ」
「おっ、おう。そっち、ね。それじゃ、お言葉に甘えて一緒に寝ようかな」
こっちの世界の女は随分と積極的だな。
いや、オレが知らないだけで皆こんなものか?
うわぁ……特訓と討伐ばっかで、
女性経験を積んでこなかったのが裏目に出たな。
びびってるわけじゃないぞ?
それに女に興味が無いわけじゃない。
むしろ大いに有る。アリよりのアリだ。
魔王退治に必死過ぎてこの年になっても、
女との経験が……無いから扱いが分からん。
師匠から言われた『言い寄ってくる女は全員暗殺者だと思え』
なんて言葉をクソ真面目に信じていた昔のオレをぶん殴りたくなるぜ。
先にベッドに入った彼女が、
俺に向けて小悪魔的に手招きをする。
ここで、動じては勇者としての名折れである。
異世界人代表としてはここで引くわけにはいかない。
ここで引いたら、勇者の名が廃るというものだ。
俺は、彼女の布団の中に入る。
オレの脳にインプットされた言葉を借りるなら、
常に余裕を持って優雅たれという奴だ。
どんな偉人の言葉かは知らないけどな。
「えっと……そんじゃ、おじゃまします」
「はい、どうぞ」
ベッドといっても一人で寝るタイプのベッドだ。
どうしても、体……つーか胸、おっぱいが当たる。
彼女は小柄だが結構胸があるのだ。
というか当ててきている、よね、これ?
お上品な表現を使わせてもらうならば、
下半身の俺のエクスカリバーも、
完全に[[rb:励起 > れいき]]してしまっている。
生理現象だ、仕方あるまい。
というよりも、今の状況は……、
つまりは、そういうこと、だよな?
むしろ、これで間違っていないはずだ。
「ハルトくん、横向いて」
キラキラと煌めく宝石のように澄んだ瞳。
銀色の艷やかなロングヘアーに金色の瞳。
それがとても美しいと感じた。
(不思議なもんだ。世界の命運をかけて殺しあっていた相手と、こうやって床を共にするとはな……。あんときゃ想像もつかなかったぜ)
そんなことを考えていると、
彼女が俺に唇を重ねてきた。
俺の口腔内を彼女の舌先が蹂躙する。
はじめての口づけの味は……少しケミカルな味がした。
俺の口の中で彼女の舌と舌が絡み合う。
脳内に電気が走ったかのように痺れる。
心地のよいゾクゾクする感触だ。
彼女がもぞもぞと下半身をまさぐっている音が聞こえる。
「んっ……あっ……はぁっ」
(くそ……なんでこんな時に[[rb:励起 > れいき]]していたオレのエクスカリバーがしおれやがるんだ。据え膳食わぬは男の恥、絶対に負けられない闘いがそこにはある! 立て、立つんだジョニー!)
俺が心のなかで決意を固めるが、
隣からすーすーと、寝息が聞こえてくる。
「そうだよ。いやそりゃ、そうだよな。……疲れていたんだから、当然のことだ。おやすみ、シキ。ゆっくり寝て、体を休めてくれ」
俺はベッドを抜け出し、
風邪をひかないように布団をかけなおす、
オレは彼女の顔を見おろす。
「シキか、変わった子だったな。さすがは異世界で魔王少女と呼ばれていただけのことはある。はぁ……彼女が転生する直接的な事象"トラック"を阻止する事には成功した。だけど、これから俺は、一体どうしたものか……」
オレは床の上でぼんやり考えるのであった。
いまは、参謀役の大賢者も居ない。
思えば25年の人生でオレの周りには常に仲間が居た。
オレが一人で考えるのは初めてかもしれない、
フローリングの床に横になり、
天井を見つめそんな事を考えるのであった。
一連の所作や、テーブルに散らばる薬の山を見る限り、
飲み慣れた薬のようだし、急病という訳ではないのだろう。
それに疲れてはいるが、咳や熱はなく、
風邪といった感じではない。
緊急性があるなら、看病するのもやぶさかでないが、
多分そういうことでは無さそうだ。
こういう時にはオレが居ると逆に負担をかけるだけであろう。
彼女は一旦家を出ようとする、
オレの服の袖を無言で掴んで引き止める。
「うぅん、邪魔じゃないよ。行かない、で。それに体調が悪いのは今日だけじゃない、ずっと……そう、ずっとなの。それに私のは、治らない病気なの」
「不治の病、ってやつか……?」
「ふふっ、違うよ、そんな大げさな病気じゃないって。命の危険はないの。それに、さっきのオクスリ飲むと心が落ち着くの。だいじょーぶ、ハルトくんは何も気にしなくても大丈夫だから」
ハルトくん、か。
酒を飲んでいるわけでもないのに、
目が上ずり瞳孔もさっきよりも開いている。
さっき飲んでいたあの薬の影響だろうか。
彼女の金色の瞳を覗いていると吸い込まされそうになる。
宝石のように綺麗な瞳なのに、
なぜか底のないような深い虚のようにも感じられる。
ステータス・ウィンドウを確認できれば、
自分が[[rb:魅了 > チャーム]]の状態異常になっているかどうか、
確認できるのだが、色々と不便な物だな。
「ふわぁ……。ねみゅい。うん、ねみゅい。……今日はもう、寝ようか。お風呂は……うん明日の朝でいいや。そうしよう。私はちゅかれたにょ」
「おいおい、サトミさん大丈夫かよ」
オレは足元のおぼつかない彼女にオレの肩を貸す。
彼女は、オレによたれかかりながら部屋へと進む。
「ハルトくん、私のことはサトミさんじゃなくて、シキって呼んで、ね」
日本では親しい間柄の人間同士は、
姓ではなく名で呼ぶのが一般的と、
オレにはインプットされている。
姓の方を呼び捨てで呼ばせたいというのは、
心の距離が近づいているのか、
それとも離れているのか測りかねる。
(何事も例外はある。それに単純にサトミより、シキの方が短いから呼びやすい。友人からそう呼ばれていたとか、きっとそんなところだろう)
「ハルトくんも一緒に寝ない?」
「ああ、そろそろ夜も遅いからな。俺は、この広間で寝てもいいか、シキ?」
俺は、床を指差す。多少ゴミが散らかっているが、
モンスターが襲ってくる野営と比べれば100倍マシである。
ベッドがなくてもこの程度の硬さの床であれば余裕で寝られる。
むしろ心地よい程度のものだ。
「うぅん、違うの。ハルトくん、私と一緒の布団で、寝よ」
「おっ、おう。そっち、ね。それじゃ、お言葉に甘えて一緒に寝ようかな」
こっちの世界の女は随分と積極的だな。
いや、オレが知らないだけで皆こんなものか?
うわぁ……特訓と討伐ばっかで、
女性経験を積んでこなかったのが裏目に出たな。
びびってるわけじゃないぞ?
それに女に興味が無いわけじゃない。
むしろ大いに有る。アリよりのアリだ。
魔王退治に必死過ぎてこの年になっても、
女との経験が……無いから扱いが分からん。
師匠から言われた『言い寄ってくる女は全員暗殺者だと思え』
なんて言葉をクソ真面目に信じていた昔のオレをぶん殴りたくなるぜ。
先にベッドに入った彼女が、
俺に向けて小悪魔的に手招きをする。
ここで、動じては勇者としての名折れである。
異世界人代表としてはここで引くわけにはいかない。
ここで引いたら、勇者の名が廃るというものだ。
俺は、彼女の布団の中に入る。
オレの脳にインプットされた言葉を借りるなら、
常に余裕を持って優雅たれという奴だ。
どんな偉人の言葉かは知らないけどな。
「えっと……そんじゃ、おじゃまします」
「はい、どうぞ」
ベッドといっても一人で寝るタイプのベッドだ。
どうしても、体……つーか胸、おっぱいが当たる。
彼女は小柄だが結構胸があるのだ。
というか当ててきている、よね、これ?
お上品な表現を使わせてもらうならば、
下半身の俺のエクスカリバーも、
完全に[[rb:励起 > れいき]]してしまっている。
生理現象だ、仕方あるまい。
というよりも、今の状況は……、
つまりは、そういうこと、だよな?
むしろ、これで間違っていないはずだ。
「ハルトくん、横向いて」
キラキラと煌めく宝石のように澄んだ瞳。
銀色の艷やかなロングヘアーに金色の瞳。
それがとても美しいと感じた。
(不思議なもんだ。世界の命運をかけて殺しあっていた相手と、こうやって床を共にするとはな……。あんときゃ想像もつかなかったぜ)
そんなことを考えていると、
彼女が俺に唇を重ねてきた。
俺の口腔内を彼女の舌先が蹂躙する。
はじめての口づけの味は……少しケミカルな味がした。
俺の口の中で彼女の舌と舌が絡み合う。
脳内に電気が走ったかのように痺れる。
心地のよいゾクゾクする感触だ。
彼女がもぞもぞと下半身をまさぐっている音が聞こえる。
「んっ……あっ……はぁっ」
(くそ……なんでこんな時に[[rb:励起 > れいき]]していたオレのエクスカリバーがしおれやがるんだ。据え膳食わぬは男の恥、絶対に負けられない闘いがそこにはある! 立て、立つんだジョニー!)
俺が心のなかで決意を固めるが、
隣からすーすーと、寝息が聞こえてくる。
「そうだよ。いやそりゃ、そうだよな。……疲れていたんだから、当然のことだ。おやすみ、シキ。ゆっくり寝て、体を休めてくれ」
俺はベッドを抜け出し、
風邪をひかないように布団をかけなおす、
オレは彼女の顔を見おろす。
「シキか、変わった子だったな。さすがは異世界で魔王少女と呼ばれていただけのことはある。はぁ……彼女が転生する直接的な事象"トラック"を阻止する事には成功した。だけど、これから俺は、一体どうしたものか……」
オレは床の上でぼんやり考えるのであった。
いまは、参謀役の大賢者も居ない。
思えば25年の人生でオレの周りには常に仲間が居た。
オレが一人で考えるのは初めてかもしれない、
フローリングの床に横になり、
天井を見つめそんな事を考えるのであった。