「たくさん買ったなぁ。こんなに買ってもらって良かったのか?」

「1万円以内で済んだから大丈夫。やっぱりジマムラは、凄いね」

「シキ、俺のために休日の貴重な時間を使ってくれてありがとうな。いつかこのお返しはするから、大船に乗った気持ちで気長に待っていなさい」

「うん、分かった。たのしみにしているね、とっても」

「おう。任せとけ!」

「ハルトくんがおうちで稼げる仕事がみつかると、いいね」

(うーん。なるほど、ね。シキは俺が外にでない前提で話をしていんのか)

「そうだな。パソコンとか使えれば家でも仕事できんのかもな?」

「パソコンはわたしが教えてあげる」

「ほう、そりゃ助かるぜ。でもよぉ、俺って実は身分証明書すら持ってないんだけど、それでも働けるのかねぇ?」

 俺の居た世界でもギルドカードが無ければ、
 仕事を受注することすら出来なかったからな。

 いろいろと面倒なことが多いこの世界のことだ、
 そのあたりも厳しいんだろうよ。

「ハルトくんって、もしかして、密入国の人、だったり?」

「……あぁ、まっそんな感じだ。シキに秘密にしていて悪かったな」

「ううん。いいの。5年前のあの世界恐慌のあとは、ハルトくんと同じような人は凄く増えているし、そんなに驚かないよ。実際、わたしの勤め先の清掃員さんもそうだし。いまは珍しくないからね」

「そんなもんなのか?」

「うん。日雇い労働の場合は身分証明書を求めないところも増えているの。明らかに見た目が外国籍の人だって分かる場合も、みんな分かっていて黙認しているみたい」

「そう、か。まっ……いろいろあるよな」

「そうだね、いろいろと厳しいよね。でも、そういう仕事は危険な仕事が多いの。だから、ハルトくんにはあんまりして欲しくないな」

「善処する。それにしてもこの国には、いろんな国の人が集まってるんだなぁ」

「そうだね」

 少し間をおいてからシキが俺に質問する。
 勇気の居る質問だったのだろう。

「……そういえば、ハルトくんってどこの国からきたの? あっ……言いにくければ無理に話さなくってもいいから。わたし、本当気にしないから」

「……えっと、そのだなぁ」

「ううん。いいの、言いたくないこともあるよね。わたし、気にしないから。わたしもいろいろあったし、嫌なことことか思い出したくないことってあるよね」

「シキは優しいな」

「わたしは、優しくなんてない、弱いだけ」

「いいや。シキは優しいね」

「なんでそう思うの?」

「なんでっ、てか? そりゃ、決まってんだろ。俺がそう思っているからだ」

「もう。ナニそれ、ハルトくんって全然論理的じゃない。ハルトくんらしい答えね……ふふっ」

「俺が言うんだから間違いねぇ。シキは優しくて、可愛くて、そして良い子だ」

「さすが無職のヒモさんが言うお言葉、説得力がありますねぇ」

 精一杯おどけてシキが答えている。
 それなら、ノッてあげるべきだろうよ。

「わっはっは。いやぁ、手厳しいねぇ。それを言われたら、ヒモの俺には返す言葉がねぇぜ! わぁー耳が痛ぇ!」

「ごめん……いまの冗談だったんだけど、無神経だったよね。言い過ぎたよね。ハルトくん、傷ついたよね?」

「いんや、全然、まったく、傷つかない」

「嘘だよ」

「はっ、嘘なもんか。シキはちょっと優しすぎるし、真面目すぎる。俺はそういうシキが好きなんだがよ。でもまっ、俺に対しては遠慮しなくても良いんだぜ?」

「わたしが、……好き?」

「ああ、俺はシキのことが好きだ。言ってなかったか?」

「――なんで?」

「そりゃ、好きだから、好きなんだろ。それ以外の理由なんて必要か?」

 シキは頬を赤らめてどう答えていいのか思案している。
 冷やかさずに、答えを待とう。

「えっと、もしかして、ハルトくんって……ロリコンの人?」

「はっ! そうそう、そういうのでいいの! それと、シキ20歳だろ。確かに容姿はすこーしばかり幼いとは思うけど、ロリコンにはならないと思うぜ」

「ふふっ、たのしい。ハルトくんと居ると、生きてるって、感じがする」

「欲がないねぇ。世の中にはきっと楽しいことがたくさんあるぜ?」

「そうかな?」

「おう、そうよ。そうに決まってる。だからよ、一緒に楽しいこと探そうぜ」

「うん」

「ほら、下むいていないで、上みろよ。ほら、なかなかいい感じの夕焼けだぞ」

「ほんとう、……綺麗」


 昼と夜の入り混じる瞬間のことを、
 [[rb:黄昏 > たそがれ]]時と言うそうだ。

 空の青い光と、水平線から顔を覗かせる[[rb:昏 > くら]]がり、
 なんだかシキの心を映しているように感じた。

 俺はシキの瞳の奥を見つめる。


「そうだな、たしかに、綺麗だ」

 俺は一緒に夕焼けをみながら、
 シキのあたまを撫でるのあった。