「ハルトくん、昨日はわたし寝ているだけでごめんね」

「気にすんなよ。よっぽど疲れがたまっていたんだろうさっ」

「ごめんね」


 俺はシキの頭を、無言でワシワシと撫でる。


「おー。あれが、噂のパッションセンタージマムラか。でっけぇ服屋だなぁ!」

「ふふっ。おおげさ。ハルトくん、面白いね」


 俺の暮らしていた世界の基準で考えると、
 服屋にしてはかなり大きい。
 貴族向けの服屋もここまで大きくねぇ。

 どんな服が売っているのか楽しみだ。
 そんなことを考え、自動扉をまたぐ。


「おー。すっげぇなぁ、男用も女用もいろんな服が売っているぜ」

「ジマムラはね、服だけじゃないの。お人形さんとかも売っているの」

「おおっ、ほんとだ。このクマの人形とか、シキに似合いそうだけどな。首にリボンが付いていてかわいいじゃん」

「もうわたしはお人形っていう歳ではないわ」

「そうか? 俺は人形が似合うと思うけどね」

「うー……。そう言われちゃうと、クマの人形が欲しくなってきたよー」


 あー、ここで、俺に金がありゃあ、
 クマの人形を買ってやることもできたんだがなぁ。

 あいにく今の俺は、無一文だ……。

 今日の服だって、シキが出してくれるって話になっている。
 うーん。こりゃ、反論の余地のない、ヒモだ。


「どうしたの、ハルトくん?」

「いやな、俺もそろっと、稼ぐ手段考えないとなぁとか思ってよ。俺でも、力仕事の日雇い労働とかでなら金稼ぐことできるかなーっとか、思ってよ」

「いいの、ハルトくんは、働かなくて。おうちに居て」

「……っと、ずっとそうしている訳にもいかねぇだろ。でっけぇ男が一人家に居れば、食費も倍かかるし、服代だってそうだ。もちろん、絶対にシキに借りた分は返すけどよぉ……それにしてもよ」

「ハルトくんは、おうちに居て――っね?」

「…………」


 なぜだかこの話はあまり長引かせない方が良いと感じた。
 シキの目と言葉に、有無を言わさない強い意志を感じたからだ。


「――そんなことより、ハルトくん、服探そっ」

「そうだな。それにしても、いろんな服があるもんだ」

「ハルトくん、この服とか似合いそう」

「この銀のドクロがついたパーカーかぁ? ちょっと子供っぽくねぇか」

「そうかな? わたしは格好いいと思うよ、ハルトくん強そうだし」

「シキがそこまで言うならこれにするか」

「うん」


 灰色のフード付きのパーカーだ。

 パーカーを調整するためのヒモの先端に、
 銀色のプラスチック製のドクロが付いている。

 俺の世界では比較的子供向けの服だったんだが、
 この世界だと違うのかもしれないな。


「おーい。試着おわったぞー」

「開けていい?」

「どうぞ」

「うん。やっぱり、似合ってるっ。ハルトくん、とってもかっこいい」

「ははっ、そんなにかっこいいって言われると、照れるぜ」

「ハルトくんじゃないです。服のことです」

「おっと、そりゃぁ残念」

「……ハルトくんも格好いい、けど」


 小声でシキが呟いていた言葉は、聞かなかった事にする。
 からかうと、すげー恥ずかしがりそうだからな。
 まぁ、褒められるのは嬉しいものだ。


「ハルトくんが試着している間に、ジーパンとか靴も探しておいたよ。ためしに、試着してみてくれる、かな?」

「おお。それじゃ、せっかく持ってきてくれたもんだし着てみるかね」


 その後、シキのファッションショーに、
 マネキン役として数時間付き合うことになるのだった。

 まぁ、俺もなんだかんだでけっこー楽しかった。
 いろんな服を試すのはなかなか楽しいもんだ。

 どこの世界でも女という物は服が好きなのだぁと、
 そう、しみじみとそんなことを考えるのであった。