「あっ、……あれ? わたし、さっきまで、ハルトくんのごはん食べていたはずなのに、いつのまにかお布団の中にいる。どうして?」

「ははっ。食べ終わったあと、テーブルの上でパタリと倒れて、寝ちまったんだよ。よっぽど疲れがたまっていたんだろうよ。いいから、今日はゆっくり休め」

「ごめん。本当にごめんね。今日は……ハルトくんの服をジマムラに一緒に見に行く約束していたのに。もう、今からじゃ間に合わない。ごめんね、ハルトくん」

「おいおい。謝りすぎ。いま、シキが何回 "ごめん" って言ったか分かるか?」

「えっと……、分かんない」

「だろ? まっ、俺もそんな細かいこと覚えていないだけどなっ。シキがいろいろ大変なのは分かる、だけど、少なくとも俺相手にはそんなに気を使うな」

「分かった。私、頑張ってみるよっ!」


 俺はベッドの布団で寝ているシキの頭を、
 わしゃわしゃと撫でる。


「まあ……変わるっ、つーのもなかなか難儀な話だよなぁ。ゆっくりで良い、無理して俺みたいな雑な人間になれっていっているわけじゃぁねぇからな」

「うんっ!」

「はは。まだ、肩に力が入っているな。どれ、俺がその凝り固まった肩をマッサージで柔らかくしてやろう。布団の上にお邪魔してもいいか?」

「うん。いいよ」

「それじゃ。お邪魔させてもらうぜ」


 俺は手に微弱な治癒魔法を[[rb:付与 > エンチャント]]し、
 シキの肩をゆっくりと揉む。


「おお。シキ、結構凝ってんなぁ」

「私の仕事は座り仕事だから」

「座り仕事も大変だな。どうだ、痛くないか?」

「痛くないよ。手があったかくて、体がぽかぽかする」

「そうか。俺、これで食っていけると思うか?」

「うーん。マッサージ師は、いまは結構倍率高いそうだよ?」

「冗談だ。俺にゃあ向かねぇだろ。疲れたおっさんのマッサージをするとか、めっちゃ雑になりそうだもんな」

「ふふっ。確かに、ハルトくんなら、そうね」


 やっと笑ってくれたな。
 可愛い顔してんじゃねーか。

 それにしてもこの世界の連中は、
 揃いも揃って見る目がねぇな。

 俺だったらとっくにアプローチしていたぜ。


「そんじゃ、次は背中のマッサージをするからうつ伏せになってくれ」

「はぁい」


 俺は極力体重をかけないように、
 シキの背中の上にまたがる。


「重くないか?」

「大丈夫。むしろほどよい重さが気持ちいいくらい」

「そうか。そんじゃ、鎖骨のあたりから指圧していくからな」

 俺は少し強めに指圧していく。

「ふわぁ…しょこ…ひもち……いぃ」


 どうやら気持ち良いらしい。
 俺は重点的に刺激していく。


「……はぅ……ふわぁっ……はぁっ……」

(やべぇな。妙に色っぽい声聞いていたら、俺のエクスカリバーの制御が……)

「はぅ……ハルトくん。お尻のあたりは指圧しなくていいよ」

「すまねぇ、シキ。そいつは俺の3本目の足だ」

「ふふ。知ってる。さっきの仕返し。ちょっとハルトくんからかったの」

「へへっ、良いねぇ。シキもなかなか調子が出てきたじゃねぇか」

「…………すぅ……すぅ……」

「ふむ。マッサージが気持ち良すぎて寝ちまったか」


 俺はシキを仰向けの体勢に直し、
 布団を上から掛ける。

 いまやシキは小さな寝息を立てて夢の中。
 表情はさっきより穏やかなように見える。


「おやすみ、シキ。ゆっくり休めよ」