「はい、我々は銀色に輝く魔力を銀の魔力と呼び、その魔力によってのみ使える魔法を銀のチカラと呼んでいます」

「銀のチカラ。お母さんがくれたチカラ…」

「お母さん?」

 あ、まずい。
 お父さんにも言ってなかったんだった。

 きっと、あの時にこのチカラをくれたのはお母さんだ。
 それまでとは違う魔力が湧いてきたのを覚えている。
 確かあの時は、これは一族の希望だと言っていた。

「なるほど…。お母様に会われたのですか?」

「えっと…、オーガ達に押されて死にそうになった時に優しい女性が私にチカラをくれたんです」

「なるほど。あの方は、最期まで慈悲深い人だったのですね…」

「知っているの?」

「はい、今はまだ教えるべきではありませんが、その方が貴女の母親であることは間違いありません。なぜならあなたが使った魔法は、親から引き継がれる魔法だからです。今は余計な混乱を招くだけですので詳しくは教えられないですが、貴女はさるお方の娘なのです」

「じゃあ、やっぱりあれが私のお母さん…」

「クレスは、お母さんを見たのか?」

「うん、実はね…」

 その後、私はあの時に見たものを説明した。
 私に似た女性がとても優しい顔で、自分を娘だと言い、チカラを授けてくれた事を。
 そのあと自然と魔法の名前が浮かび、使う事が出来た事でオーガロードを倒せた事を。

「そんな事が…。でも、良かった」

「え?」

「お前が一人で森を彷徨っていた時から考えていたんだ。なぜ、この子を捨てたんだろうと。でも、そうじゃなかったんだろうな。きっと何者かからお前を守るために、あの森に()()()()んだろう。そうなんだろう?ヴァレス」

「…仰る通りです。我々も必死で探しましたが、まったくと言い程足取りが掴めませんでした。お陰で、魔人の目からも逃れる事が出来たようです」

「なるほど。その魔人ってのが、クレスを独り寂しい思いをさせた元凶なんだな。いつか出来るならとっちめてやらんとな?」

『お前の実力では無理だぞ?返り討ちに遭うのが関の山だ』

「うっさい、今くらいもう少し恰好付けさせろよ!」

「お父さん…。ありがとうね!でもお父さん、私は独りじゃなかったよ。お父さんがずっと愛情をくれていたんだから。だから、全然寂しくなかった。ううん、それどこからずっと幸せだったよ」

 お父さんは、私が捨てられたと思っていたんだね。
 それをずっと怒っていたんだ。
 でも、そうじゃないと知ってホッとしたみたい。

 この人はどこまで心の広い人なんだろう。
 私の事を自分の事以上に考えていてくれる。
 やっぱり、この人の元で育てて貰えて良かったと改めて思ったよ。

「あの…。その蛇の魔物から不思議な魔力を感じるのですが…」

 ぎくっっとした顔をお父さんがしている。
 そういや、山の神様を連れ出しちゃったって周りの人には内緒にしているんだったよね。

「しかも、人語を話す魔物など聞いた事ありません。もしや、その魔物は…」

「いやその、コレデスネ…」

 なぜか片言になるお父さん。
 それだと余計に怪しまれるよ!

『ふむ、お主はマーレと言ったか?お主とそっちのヴァレスからは、クレスと同じ魔力を感じるな。ならば()()()()()()という事か…?まぁ、お互い今は知るべきではないだろうな。我は、智の神の眷属である神獣ヘルメスだ。お主達ならそれだけで分かるな?』

「なんという…。もしや、そちらのウードさんと契約を交わしたのですか?」

『その通りだ。我は正式な契約の元、今はこのウードを主としている。我がいる限り、簡単に感知されることはあるまい』

「なるほど。だからあの山の結界が無くなったんですね…。いえ、結界がなくなったからその場から離れた…?」

 あ、これってバレてるよね。
 最後の方は殆ど独り言のように呟いていたけど、この場にいる全員が分かってしまった。
 この二人にはヘルメスが山の神と言われていた神獣であるという事を。

「ああ、ご心配なさらずに。この事は誰にも言いませんから。まぁ、言っても神獣と契約しただなんて誰も信じないでしょうけど」

「え、そういうもんですか?」

「ええ。神獣と契約する事が出来るのは高位のテイマーか、神の使徒と言われる特殊な者だけです。そのどちらでもないウードさんが神獣と契約しただなんて、誰も信じないと思いますよ」

「はははっ、そりゃあそうか!」

 この歳でやっと冒険者になれたお父さんが、そんな才能があるだなんて誰も思っていない。
 魔獣を連れているというだけでも、周りがビックリしたくらいなんだから。
 それが神獣をテイムしただなんて言ったら、嘘を通り越して珍しく冗談を言ったんだろうくらに捉えられると思うよ。

 お父さんもそれは自覚しているようで、乾いた笑いしか出なかったようね。

「さて、話を戻しますがその銀のチカラですが、一族の者しか使えません。そして貴女のその銀色の髪ですが、そこまで綺麗な銀色の髪は血を濃く受け継ぐ者だけが持つ色なのです」

「それじゃ、初めて会った時から俺の子じゃないと確信していたのか?」

「はい、その通りです。なので失礼ながらしばらくはずっと監視しておりました。しかし、お二人は本当の家族のように仲睦まじい様子でした。だから、影ながら護衛するの留めていたのです」

「そこまでして、クレスを守るのは…」

「はい、魔人に襲われないようにする為です。銀のチカラを持つ者は魔人の天敵となります。まして、一族の血を濃く受け継いでいるクレスさんは、見つかれば間違いなく狙われる事でしょう」

「そうだったのか…」

「はい。不用意に接触してしまうと魔人に気が付かれる恐れもあったため、今までお伝え出来ず申し訳ございません」

「ううん、いいんです。私達の事を考えてくれていたんですよね。それに、こうやって教えてくれたんだし、感謝はしても文句なんてないですよ!」

「そう言って貰えると肩の荷が少し降ります。それならば、もう少し銀のチカラについて説明いたしましょう。マーレ」

「はい、ヴァレス様。では、私の手の平に貴女の手を乗せてください」

「こうですか?」

 私はマーレさんの言われた通りに、彼女の手の平に自分の手の平を重ねた。
 思ったよりも小さな可愛い手の平で、なんだかすこしドキドキした。

 しばらくすると、マーレさんの手の平が温かく感じる。
 これはマーレさんの魔力かな?

「これが通常の魔力を流した時の感じです。次は、銀の魔力を流しますね」

「あれ…、なんだか冷たい?」

「そうです、銀の魔力を感じれる者はこの魔力に触れると冷たいと感じるのです」

 さっきまでは温かく感じた魔力が、今度は冷たいと感じるようになった。
 でも嫌な冷たさではなく、ひんやりとした感じだ。

「そのまま意識を自分の中へ…。自分の中に、冷たい魔力を感じ取ってください…そう、そのまま集中して…」

 マーレさんに言われるままに、自分の中の魔力を感じるように意識をする。
 正直ここまで意識をして自分の魔力を感じるのは初めてかもしれないよ。

 でも、段々とコツを掴んできたかも…。
 自分の中に2つの魔力を感じる。

 熱く滾る血のように巡る魔力と、冷たく水の様に流れる清らかな魔力。
 きっとこれね。

「そうです、その調子です。流石ですねクレスさん。そのまま、手のひらから水が湧き出るイメージをして魔力を放出してください」

「こう、ですかっ!」

 すると、掌からキラキラと銀色に光るものが放出される。

「合格ですクレスさん。それが銀の魔力です。その魔力自体に魔を滅するチカラがあり、低級なアンデットならそれだけでも『浄化』させる事も可能なのですよ」

「ええっ!?それじゃ、クレスは神官並の『浄化』が出来るの?」

 そこで驚いたレイラが声をあげる。
 確かに、手をかざしただけで『浄化』出来るならそうかも知れない。

 ちなみにこの『浄化』というのは、アンデットを消滅させる事を指す。
 汚れを落とす『洗浄』とは別物なので、混同してはいけないのだ。

「借りる神のチカラは違いますが、結果そうなりますね。但し呪いを解いたり、毒を消したりは出来ません。あくまでも魔を滅するだけだと考えてくださいね」

「それだけでも凄いことだけどね。うーん、ますますクレスに置いていかれてる気がするな〜」

 レイラが思わずぼやく。
 折角自分の能力向上の為にウインドへ行くのに、更に差を付けられたと思っているみたいだね。
 レイラは、レイラ自身が思っているより強いんだけどなぁ。

「ですが、このチカラを使えば魔人に勘付かれてしまいます。彼らはこのチカラを恐れている分敏感なのです。それに通常よりも魔力を消費しますので多用は厳禁ですよ?」

「は、はい。分かりました。確かに普通よりも疲れますね」

「使う魔力の根源は一緒ですから、そこは注意してください」

「分かりました、教えてくれて有難うございました!」

 図らずも、銀のチカラの基本的な使い方を教えてもらう事が出来た。
 練習すればもっと自在に使えるようになりそうだよ。
 だから、これから少しづつ練習をしていつでもこのチカラを使えるようにしようと思う私だった。