俺達『ラ・ステラ』は遂に、最初の目標だったDランクパーティーとなったんだ。
 銀色に光るタグを見つめながら、一人思い耽る。

 クレスという可愛い娘を天から授からなかったら、ここまでこれなかっただろうなぁ。
 それどころか、冒険者にすらなれていなかっただろう。

 昔は憧れだけで冒険者になりたいと思っていたが、今は違う。
 クレスに色んなものを見て欲しい。
 そして、いつか故郷と思わしき『フォーレン』という国に連れて行ってあげたい。
 そんな思いの方が強かった。

 ひょんな事からヘルメスに出会い、自分には無いチカラを扱えるようになった。
 キールという、出来のいい息子も出来た。
 そして、昔の夢であった冒険者にもなれた。
 しかも自分もDランクに昇格出来るとか、話が上手くいきすぎていて怖いくらいだ。

 正直、自分のランク上げはある程度諦めていたんだよ。
 なぜなら俺には剣の才能も、魔法の才能もない。
 努力で身に付けた弓矢を扱う能力と、動物や魔獣と仲良くなりやすい能力くらいしかない。
 
 肉体労働もしているので、一般人としては鍛えられている方だと思っているが、それも力が強いというだけでしかないんだ。
 いざ魔物との戦闘になれば、一番弱いのは確実に俺なのだった。

 しかし結果的に、『ラ・ステラ』のリーダーとしてパーティーメンバーを生還させた事で、それが評価されてランクアップ出来たのは嬉しい誤算だった。

 もしかしたら一人で生きていた俺に、亡き妻がプレゼントしてくれたのかもしれないな。
 村に帰ったら、綺麗な花を持って墓に報告しにいこうか。

 なんにせよ、予想の何倍も早く目標を達成したので自然と笑みが零れる。
 資金も思ったよりも調達できたし、マチスさんからの支援も貰える事になった。
 商人が後ろ盾になっている冒険者パーティーは、周りからも期待されている証となるらしい。

 マチスさん曰く、『これから貴方達は一流冒険者となっていくでしょう。今からそういう冒険者に投資を出来るかどうかも、商人の腕の見せ所なんですよ』とだけ教えてくれた。
 なんでも、将来的に商会にとって大きな得になるんだとか。

 最初は二人だけの旅の予定だったが、こうやって『ラ・ステラ』というパーティーを結成出来たおかげでマリアとレイラも旅について来てくれる。
 きっと、俺と二人だけでも文句はなかっただろうが、年頃の娘なわけで仲の良い仲間と一緒の方がより楽しいに決まっている。
 二人がクレスのパーティーに入ってくれて、俺も嬉しいよ。
 それに、パーティーは大体4~6人で組むのが普通なので、余計な奴(主に男)が入り込んで来る口実が無くなったのも嬉しい限りだ。

 何はともあれ、これからクレスと新しい冒険に出る事が出来ると思うと、年甲斐もなく興奮するなぁ。
 きっと何処に行っても、クレス達は目立つだろうから注目されるのは避けれないだろうけど、なるべくトラブルに巻き込まれないように注意を払わないと。

『ニヤニヤしたり、しかめっ面したり忙しい奴だな。さっきから何をしているのだ?』

「ん?ああ、すまない。これからクレス達と旅に出れると思うと嬉しくてね。色々考えていた」

『…なるほど。だが、旅は楽しいだけでは無いぞ?そんな緩んだ気持ちで行くと碌な目に遭わんぞ?』

「はっはっは。大丈夫大丈夫」

 ヘルメスの諫言は軽く流して、これからの事に思いを馳せる。
 
 これで個人でもより難易度が高くて報酬が良いクエストも受けれるようになる。
 そうすれば、より収入も安定するし少しは贅沢出来るようになるだろう。
 クレスにはもう少し美味しいものを食べたり、綺麗な服を着たりして欲しいんだ。

 それはさておいて、Dランクに昇格したおかげで自由に他の町に入る事が出来るようになった。
 これで町の門番の審査で、何日も待たされるとかも無くなったんだ。
 よし、色んな町を目指して出発しようっ!

 ───

 最初に訪れたのは、港町サーランだ。

 馬車を購入し、自分で捕まえた馬を2頭付けて走らせた。
 商売をする訳じゃないから荷台に幌が付いたものでなく、四方がきちんとと囲まれた駅馬車タイプにした。

 ある程度路銀は必要になるが、行く先々でクエストを受けてお金を稼ぐつもりであったのでお金を惜しまず馬車に注ぎ込んだが、結果とても快適になったので良かったと思う。

 御者は主に俺がやっていたけど、たまにクレスとレイラが練習の為に交代してやってもらった。
 この先誰が倒れても問題なく戻って来れるようにと、レイラから提案を受けての話だった。

 因みにマリアも試しにやってみたが、全く馬を制御出来なかったので諦めてもらった。
 誰でも得手不得手はあるものだ。

 サーランには以前マチスさんの依頼で訪れて以来なので、来たのは二度目という事になる。
 久々に来たけど、相変わらず活気にあふれた町だな。
 町の門番をギルドタグを見せてスルーし、入ってすぐ様々な露天が並ぶのが見える。

 丁度小腹も空いたし、宿をとったら露天で買い物でもと思っていた時だった。

「ねぇ、ウードさんちょっと話があるんだけど。みんなもいいかな?」

「なんだいレイラ、そんな改まって。いいよ、宿に馬車を停めたら近くでご飯でも食べながら話をしようか」

「そうだね、お父さん!私も丁度お腹すいたからそうしようよ」

「私も問題ありませんわ」

 すぐにマチスさんに紹介を受けた宿屋に向かい、受付を済ませる。
 馬車と馬達を専門の従業員に預けたあと、近くのレストランに向かった。

 丁度お昼時というのもあり、座って話せる店に入る。
 人気があるのか店は混んでいるように見えたが、丁度4人席が空いたらしくすぐに入ることが出来た。

 魚介類の食べ物が多く、どれも食べた事が無いものばかりだ。
 皆もメニューでどんな料理かを想像し、目を輝かせている。
 お嬢様育ちのマリアですらそうなのだから、レイラが目的を忘れかけても咎めるものはいないだろう。

「それで話ってなんだい?」

 食べ物が来るまでの時間で、先程のはなしを聞くために切り出した。

「あっ、そうだった!」

 エヘッと、軽く舌を出しておどけてみせるレイラ。
 しかし、すぐに真顔に戻って話を始めた。

「えっとね…。この間のオーガ戦のときさ…、わたしあまり役に立たなかったじゃない?」

 皆、心の中でそんな事を無いと思うも、ぐっと堪えて話を聞く。

「だからさ、私はもっと強くなるために魔法を鍛えたいんだ」

「えっ?!レイラが魔法を?」

「うん、マリアみたいにさ上手に扱えないだりうけど、でもね私にも出来そうな魔法があるって教えて貰ったんだ」

 そこでレイラは、旅に出る前に強くなるために色々と調べていた事を明かすのだった。