本来ならそういう情報を他の冒険者に教えるのはマナー違反なのだが、勢いに負けて教えてしまう受付嬢。
クレスが倒したオーガロードの素材を見せて、『ほら、これですよ』と見せてしまう。
そして、それを見た冒険者の中で上級ランクにあたる冒険者が驚きの声を上げた。
「うおおおおおっ!マジかよ!本物じゃねーか!一体どんな手を使ったんだ??これだけで金貨20枚にはなるぜ?ウードのおっさん。やりやがったなー!」
と、なぜか俺の背中をバンバン叩きながら喜んでいる。
いや、痛いからっ!って、また君かよ。
その後、わいわいと歓喜や驚愕で湧く冒険者達であったが、俺の本題がまだ終わっていない。
もうちょっと静かにして欲しいのだが。
「あー、こほん。すみません、勝手に言ってしまって。ついつい、興奮してしまって…」
たまに思うんだが、この子の暴走はわざとなのではないか?
でなければ、かなりの天然か。
「それでですが…。、今回の場合はですね、クエストは失敗になりません」
「え、本当?本当にそうなの!?」
ここで、受付嬢の言葉にレイラが食いつく。
俺と同じく、クエスト自体は失敗になると思っていた様だ。
「はい。このクエスト書に書いている通り、集落を殲滅出来れば完全達成。想定より、脅威度が高かった場合には、より詳しい情報を持ち帰る事により偵察任務としてクエスト達成扱いになります」
「ほうほう」
「へ~、そうだったんだね」
「で、ここからが本題になりますが。今回、想定の難易度はDでした。それが実際は単体で脅威度がBランクのオーガロードが現れ、無事に帰還した時点で偵察任務としてクエストを達成しています。さらに、それを討伐したと認定されれば臨時クエスト達成扱いになり、その討伐対象の脅威度に釣り合った報酬が発生いたします」
「と、という事は!?」
「え、それどういう意味!?」
「つまりウードさんのパーティー『ラ・ステラ』は、偵察クエスト達成に加えて緊急討伐クエスト『難易度A』を見事クリアしたという事になります!あはっ、おめでとうございます!!」
おおおおおおおおおおおおおお!!!
とギルド内が歓声で湧いた。
あたりが野太い声により、地響きのように揺れている。
冒険者は、声も規格外だな。
「やったね!ウードさん、これすっごい事だよ!」
「ああ、何か凄すぎてわけがわからないぞ」
ギルド何に併設されている酒場では、勝手に『ウード達にカンパーイ』とか始まった。
人の事を酒の肴にして、呑みたい奴らがとっても多い。
しかし、浮かれてばかりはいられない。
今回は、緊急時なのだから。
「それは分かったけど、そんなのが居たんだ。かなりマズイ事なんだろう?すぐに調査を向かわせないと、近隣で被害が出るかもじゃいか?」
「ロードが倒されたとなれば、ひとまずは大丈夫かと思いますが、偵察隊は出すことになるでしょうね」
そして、説明を続けようとした受付嬢の後ろから、一人の男が現れた。
なんか見たことある顔だ。
「ここから先は、ギルドマスターの俺が話そう。まず、今回の任務ご苦労であった。…他の二人はどうした?」
ああ、クレスの卒業式にギルドタグを授与した人だな。
ギルド内では滅多に見ないから、一瞬分からなかった。
「クレスとマリアなら疲労困憊の為、馬車で待機していますよ」
「…そうか。相手が相手だけに、まさかと思って心配したぞ。無事なら良かったよ。さて話を戻すが、これからA級ランク以上のパーティーを派遣する事になるだろう。しかし、うちの町には最高でもBランクパーティーしかいないので、他の町のギルドから派遣する事になる。それまでは、外から監視をする事になるだろう」
「そうなのか。それまで何も無いといいけどな」
「ああ、そうだな。だが、ここに居ない以上他を頼るしかない。ましてA級以上になれば、引く手数多だからな。なかなか空いている奴はいないんだ。だから、それまで外に被害が出ないように見張っておくしか出来ないのさ」
適任の人が居なければ、派遣出来ないのは仕方ないか。
下手に低いランクの人を潜らせて失敗すれば、そのままその冒険者達が被害者に早変わりしてしまう。
そうならないように、無理はさせないようだな。
「後の事はこっちに任せてくれていい。…しかし、よく無事に帰って来てくれた。おかげで大きな被害が出るまえに抑える事が出来たよ。ギルドを代表して感謝する!」
「いえいえ、お役に立てたなら良かったですよ。ちなみに、今回の討伐でランク上げを狙っていたんですが、どうでしょうか?」
「はっはっは、もちろん、文句なしの合格だ!正式なランク昇格認定は後日にするが、確実だと思ってくれていい。あと、追加報酬も期待しておけよ?」
ギルドマスターが直々にランクアップを約束してくれた。
さらに、追加報酬はさっき難易度Aランク相当だと言ってたから相当期待出来そうだ。
それらを聞いていた、まわりの冒険者達が湧きたった。
「おおおおっマジかよ!」
「ギルマスがランクアップを認めたぞ!というか、もうDランクかよ?!」
「まさか、あのウードさんにあっさり並ばれるなんて、思ってもみなかったよ…」
「Aランク報酬だろ?金貨がたんまり貰えそうだな~。くそう、羨ましいぜ!」
みんな口々に驚きと羨望の声を上げた。
こうして、俺らはギルドマスターに昇格を約束されて、冒険者ギルドを立ち去るのだった。
ギルドを後にし、皆でマチスさんが用意してくれた家に戻った。
クレスはまだ目を覚まさないが、ヘルメス曰く魔力が枯渇している以外に問題はないという事だったので着替えさせてからベッドに寝かせた。
『心配しなくても明日には目を覚ますだろうよ』
「そうか、お前がそう言うなら問題ないんだろうな」
マリアとレイラは、マチスの本邸に風呂に入りに行った。
ゴブリン達の洞窟だったので、体についた臭いを落としたいのだろう。
マリアは行く前に『せめて汚れだけでも…』と言って、クレスに生活魔法『洗浄』で汚れを落としてくれた。
さすが女子同士は、気の使う所が違うな。
二人は、そのままマチス邸の方に泊まると言っていた。
見送った後、寝ているクレスを見ながら少し考え込む。
『どうした、浮かない顔をして?』
「ああ、ちょっとな。少し夜風に当たろうか」
そう言って、ヘルメスを連れて外に出た。
外は既に涼しくなっており、少し冷たい夜風が疲れた体に心地よい。
しばらく夜空を眺めながら、今日の出来事を考える。
決して油断をしていたわけでは無かった筈だ。
よく観察し、慎重に中に入った。
想定通りのゴブリンしかいなかったが、それでも決して気を緩めなかった。
──だが、あのオーガが急に現れた事で事態が急変してしまったのだ。
誰があんなところでオーガに出くわすと思うだろうか?
しかも、さらに上位のオーガロードが居るなど…。
アレは、もはや天災に近いと言ってもいいだろう。
だが、この先も同じような事が起きないと言えるだろうか?
その時、俺はクレスを守ってやれるのか?
まさか、その度にクレスに頼りあの子を傷つく姿を眺めているだけなのか?
そんな事を、俺は・・・!
「ヘルメス。俺が凡人であるのは一生変わらないだろう。だが、今回のように恐ろしい敵に遭遇してしまった時に、クレスの足手纏いになるだけじゃ意味がないんだ」
『…なるほど。考えている事は分かるが、凡人が大きな力を手に入れるのには想像も付かない大きな代償を伴うのだぞ?』
ヘルメスは、俺の目をジッと見てその覚悟をお前は持っているのかと問いただしてくる。
『分かりやすく言えば、きっとお主の寿命を削る事になる。それでもやるか?』
俺はその目を逸らすことなく見つめ返し、頷く。
そして、道を示してくれるヘルメスに感謝しながらも、苦笑いして答えた。
「それ、聞く必要あるのか?寿命が尽きる前に、死んでしまったら終わりだ。それを回避出来るなら、クレスを守れるなら俺はやるぞ!」
『そうか…、ならばもう問うまい。では、お主には我の新しく解放されたスキルについて教えてやろう』
こうして俺は、神獣ヘルメスより新しいスキルの使い方を伝授されるのであった。