驚いた私に彼は言った。

「今日は話だけするつもりでここに来た。離婚したって…本当なの?」

「ええ…。本当よ」

小西は眉間にしわを寄せる。

「それってまさか…俺が原因じゃないよ…な?」

「は?何言ってんの?そんなわけないでしょ。うぬぼれないで」

私がそう言うと、小西は安心したように表情を緩めた。

「もしかして…あなたが原因だったらマズかった?私が結婚を迫るとでも思ったの?」

…図星、だったようだ。

「ご安心を。私は二度と結婚するつもりはありませんから。話はそれだけ?
だったら帰るわ。今実家にいるからあまり遅くなれないの」

私はそれだけ言うと上着をはおる。
帰る準備を始めた途端、いきなり小西が後ろから抱き締めた。
驚いた私が振り向くと、そのまま唇が重なった。
そのまま流れに任せて私は久しぶりの小西のぬくもりに溺れていった…。

水谷と別れて…もっと気が楽に抱かれる事ができるかと思ったが、そうではなかった。
小西の腕の中にいても、目を閉じて浮かんで来るのは水谷の顔ばかりだった。
だから目を閉じる事をやめ、私はずっと目を開けたまま小西との行為に臨んだ。
小西の顔を見ないでいい時だけ、今私を力強く抱いているのは水谷であると、思い込ませて。

もう二度と触れる事のできない水谷への未練はどうやっても断ち切れそうにない。

心に燻り続ける水谷への思いは、別れてからも一層強く、激しく、私を苦しめるのだった…。