病院では変わる事なくいつもの日常が繰り返されている。

たかが事務員一人のプライベートなんて、職員を大勢抱える大病院にとっては些細な事だ。
誰も気にはとめない。

だが、私にとっては知らん顔もしていられない人がいた。

上司の総務部長だ。

媒酌人は水谷の元上司の宮内夫妻がしてくれたのだが、水谷を紹介して結婚を勧めてくれたのだから、離婚したとなれば報告すべきだろう。
風の噂で聞いているとしても、私の口から直接するのが礼儀だ。

私は昼休みを利用して、部長の部屋に内線電話をかけた。

部長は快く私の訪問に応じてくれた。

久しぶりに入った部長室はなんだか懐かしかった。
そういえばここに入ったのは水谷と結婚する前だった。
そして二回目に入るのが離婚した後とは…。

私は部長に水谷と離婚した事を報告した。
理由は世間一般にもよくある”性格の不一致”。

部長はとても残念がっていたが、結婚してすぐに離婚したわけではないし、やはり夫婦の事は夫婦にしかわからないから…と言ってくれた。

私は部長の奥様にくれぐれもよろしく伝えて欲しいとお願いした。

結婚前に奥様が私に言ってくれた言葉がなければ…
私はもっと早く音をあげていただろう。

部長は、きっと奥様もわかってくれると言ってくれ、安堵した私は部長室を後にした。