「荷物をまとめて…明日、実家に帰ります…。子供たちも連れて行きます。
残った荷物は、改めて取りに来るので…。それから…、離婚届…置いておきますのでサインしておいて…下さい…」

「…智子…本当に、もう終わりなのか…?もう…どうする事も、償う事も…、俺には許されないのか…?」

償う…。

水谷の言っている「償う」とは、自らの出世の為に身を売るような行為をした、その事に対する、自分の過去に対する償い…。

でもそれは…
直接私に向けられたものではなくて、あくまでも水谷自身の罪悪感を少しでも軽くしたいからじゃないのか。

私が償ってほしいのは、そんな事じゃない。

本当は償いなんて、どうだっていい…。

私が欲しいのは…

本当に欲しいものは、たった一つ…。

それは…あなたの心…
ただ…それだけ…。

決して水谷にはわかるはずのない私の本当の気持ちを胸にしまいこむ。

それはずっと本当の自分を見せずにいた水谷に対する、ささやかな復讐だったのかもしれない。

「…もう、遅いの…。気持ちは変わりません…。わかって下さい…」

私はそれだけ言うとリビングをあとにした。