どういうつもりで他人の証券を見せてくれなどと言うのかわからない私は、つい口が滑ってしまった。

「簡単に見せて大丈夫なの?保険の営業してる人なんて、信用できたもんじゃないわよ」

私のその言葉に水谷は怒りを露わにして言った。

「そんな人じゃない!俺のクライアントで信用できる人だから、承知したんだ」

珍しく語気荒く怒鳴る。
私は水谷と出会ってから、ここまで感情を表に出す彼を見たことがなかった。
初めて見る姿に戸惑う。

何より…
私を見る水谷の目は、まさしく憎しみに満ち溢れていた…。

何よ…その目は…
自分がして来た事を棚に上げて、あたしによくそんな目ができるわね…。
そう思った私は一言嫌味を言ってしまった。

「ふーん。それならいいけど。クライアント、クライアントって、そんなに相手の言いなりにならないと仕事とれないわけ?」

そう言った途端、水谷の顔色が明らかに変わる…。
そして、今まで聞いた事がないくらい低い声で絞り出すように言った。

「仕事の事に口出しするのは…やめてくれないか…」

私はそう言った水谷が、今までにないほどの恐ろしいオーラをまとっている事に恐怖をおぼえた…。
そして本能的にこれ以上は言わない方がいいと感じた。

私は無言のまま部屋を出て証券を探し、水谷のいる部屋のテーブルの上に投げるように置いた。

自室に引き返しドアを閉めると同時に、スルスルとドアの表面に背中をこすりつけたままへたり込んだ…。