それでもなるべくケンカをしないでいたいと思うのは当然の事だから、そのために色々と策を講じる。

お互いに帰宅する時間を意図的にずらしたり、休みが重ならないようにしたりしてなるべく顔を合わさないようにする。
そんな両親の姿を見て二人の息子たちもきっといろいろ思っているだろうが、私の事も水谷の事も責める事はしなかった。

それだけが、唯一の救いだった。

だがそんな生活は私の心をさらに荒んだものにしていく。

仕事でも私は進んで残業や休日出勤をするようになり、小西と鉢合わせる機会も増えて行った。

休日出勤をしていたある日、私は資料が必要になり一人で資料室へ向かった。

いつものように守衛室で鍵を借りて目的の資料を探していると、コンコンと部屋をノックする音が聞こえた。

「はい」と返事をしてドアを開けると、そこには小西が立っていた。

「…先生…。どうされたんですか…?」

「別に…。資料が必要だったんでね。いけませんか?」

「いえ…。私はそろそろ失礼します…。鍵は先生にお渡ししておきます」

鍵を小西の前に差し出すと、いきなり手首を掴まれた。