その日は朝から病院中が色めきたっていた。

看護部はもちろん、調剤室、栄養管理室、はたまた私のいる事務室まで…。
この病院中の女子がそわそわと落着きを失っている。

それもそのはずだ。
今日はうちの病院に、隣県の有名大学病院に勤めていた若い医師がやってくる日だった。
腕もかなりいいはずのその医師が、なぜ技術的にも洗練された隣県の病院を辞めてうちの病院に来るのかは不思議だった。

確かにうちの病院もそれなりの規模ではあるが。
それでも隣県の病院ほど患者の数はいない。

でもそんな事よりみんなの関心は、若くてイケメン、さらに将来を約束された医者という事だけだった。



噂をすれば…

イケメン医師、小西大地(こにしだいち)の登場だ。

女子たちの目はまるでハートのような形になり、みんなうっとりと小西の声に耳を傾けている。

切れ長の目に通った鼻筋。
長身で痩せ型の小西は、確かに間違いなくイケメンの部類に属しているのだろう。

しかし、私はいつも水谷を見ているせいでイケメン慣れしているのか、小西をそこまで崇める気にはなれない。
この男のどこがそんなにいいんだか…。
そう思った私は小西の話などほとんど聞かず、早々に業務に戻った。