水谷は結婚してからも私に対して特別何かひどい事をするわけではなかった。
よくも悪くも、結婚前とさして変わっていなかった。

平日が休みの彼は、休みの日には家事も育児も文句ひとつ言わずに自ら進んでやってくれた。
私が忙しい月末月初は、自分の仕事が忙しくない限り夕食の用意もしてくれた。

もちろん、女性の影も見えなかった。

私との夜の生活は…なんというか、義務とでもいうのだろうか。
まるで自分の仕事のひとつでもあるかのように、定期的に行われてはいた。

ただ…

彼の心が伴っていると感じた事は、初めて抱かれたあの日から今まで、一度たりとも…

なかった。それだけは変わらない…。


そんな水谷が珍しく私に相談を持ちかけた事が一度だけあった。
その内容は、転職だった。

今まで勤めていた自動車ディーラーを辞めて、住宅の営業として引き抜かれる事になったのだ。
いくら営業としてバツグンの成績を誇っているとはいえ、業界が変われば新たな知識も人脈も必要になってくる。

これまでの安定した生活を失うかもしれないと思ったのだろう。
妻の私に相談なしには決められなかったのだ。

私は水谷のやりたいようにして欲しい、と言った。
私の仕事は安定しているし、長年勤めているからそれなりの収入もある。
もしうまくいかなくてもなんとでもなるから大丈夫だ…と。

そして水谷は建設会社の営業の仕事を新たに始めたのだった。