「あの人」…

水谷賢(みずたにまさる)との出会いは、平凡な人生しか歩んでこなかった私にとってまさに王道の恋愛ドラマのようだった。


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その日私は久しぶりに病院の受付にいた。

院内でインフルエンザが蔓延し、受付事務担当者のほとんどが休むという不測の事態が起きて。
昔受付で仕事をした事のある数名がピンチヒッターとして呼ばれたのだが、その中に私も入っていた。

だが経験があるといっても相当前の事だ。新人の頃何年かいたというだけで白羽の矢を立てられても困る。

クラークの資格を取得して今の部署に異動になってから既に結構な時が経っているのだから、経験者といってもほとんど初心者と変わらないのだ。

しかもちょっと年を重ねただけで、ものすごく物覚えが悪くなっている。

昔はすぐに思い出せた事も、何回も聞いてしまう。

その度に同僚から蔑みのこもった視線を投げかけられる、そんな針の(むしろ)で小さくなっている私に更なる苦難が降りかかった。