「いえ…やはり、結婚してほしいという僕の気持ちは変わりません…。ただ、あなたはまだ決心がついていないはずです。そんな状態で、本当に後悔はしませんか?」

後悔するのが嫌だと思うなら…、今この瞬間ですら、あなたと一緒にはいないだろう。

「私にこれ以上恥をかかせないで…」

この一言で水谷は黙ったまま、静かに車を発進させた。

M市の郊外にある湖沿いのそこは、昼間だというのにどこも満室だった。
やっとのことで空室をみつけ、車を入れる。

水谷が連れてきたのは、いわゆるラブホだった。

「すみません…。こういう所で…」

うつむきながら言う水谷に、「いえ、大丈夫です」と答える。

今日…
いや、今まで私が水谷に発した言葉はほとんどが「大丈夫です」だったな…と、どうでもいい事を思い出す。

これは私にとって最後の賭けのような気がしていた。
はたして水谷はここで私をどう扱うのだろう?
いつかは私も女になるための洗礼を受けるのだが、少なくとも今の私は、その相手が水谷であって欲しいと思っていた。

これから先、自分がどうなるのか…
うっすらと靄がかかったように見えない自分の未来に、目を背ける。

そして私はさらなる不幸の渦の中に自分の身を投じたのだった…。