「…あの…、やっぱり帰るのはもう少し後にしてもいいでしょうか…?」

「え…?」

水谷はただならぬ雰囲気の私に驚いたまま、車を路肩へ寄せ、とめた。

「どうか…しましたか…?」

私は今までの人生で一度も経験したことがないほどの、緊張と不安が入り混じった感情を必死に隠し水谷に告げた。

「結婚するかどうかは…まだご返事できません…。でも…あの…今から…どこか、二人きりになれる所へ連れて行って頂けませんか?」

隣で水谷が息をのむのがわかった。

「あの…それは、いったい?」

「…女の私の口から言わせるんですか…?」

あまりにも流暢に言えた事に自分でも驚いた。

「いいんですか…?あなたはまだ…僕との結婚を決めたわけではないのではありませんか?そんな相手に…その…」

そこからは口ごもり、水谷は黙った。

「結婚しないのなら、深入りしない方がいい、という事ですか?」

逆に私の方から水谷に切り返す。
今までどちらかというと受け身だった私とは全く違う態度に、水谷は戸惑っているように見えた。

しかし、それを振り切るように水谷は口を開いた。