私がそう言うと水谷は、「当然です。じっくり考えて下さい」と言った。

再び水谷の車に乗り込む。

「今日は…このまま帰りましょう、か？」

水谷はおそらく気を遣ってくれているのだろう、そう聞いてきた。

「そう…ですね…」

私はまったく気持ちの入っていないような返事をした。

「わかりました」

水谷はそれだけ言うと、車を来た方向へと走らせた。

車窓に流れる景色を見つめていると、悲しみで胸が押しつぶされそうになる。
このまま別れてしまえば、楽になるのだろうか…。
まだ何も始まっていない今なら、充分引き返せるはず。

見合い後に断りを入れたとして、一番の問題は…
上司である部長と顔を合わせにくくなる事くらいだろうか。

でもその程度の事なら時が解決してくれる。

何より自分の一生を左右しかねない重要な事なのだから、部長の事を気にして決めるなんて絶対におかしい。

それならばこの話は、少しでも早く断った方がいい。

そう思うのに…
絶対にこの人はダメだと、もう一人の自分が言っているのに…

私の口から出た言葉は、全く別のものだった…。