「取り柄がないなんて、誰が決めたんです?僕はそうは思いませんよ。
この前も言ったように、インスピレーションなんで、うまく説明できませんが…。あなたなら、僕の理想の家庭が築けると思うんです」

水谷の言葉に悲しみが加速していく。

うまく誤魔化したつもりだろうが、表面だけの言葉というものはまったく説得力がない。
それに今の理由では、私じゃなければいけない所までは説明できていない。

誰にでも当てはめる事ができる理由だ。
きっと、私と結婚したい理由は別にあるのだろう…。
でもそれを絶対にこの人は言わない。

今も…
たぶんこれから先も…。

だったらこんな非常識なプロポーズは受けなければいい。
何をそんなに焦っているのかはわからないが、それは水谷サイドの事情だ。
私が気を遣う必要はないのだ。

そう思い、断る事もできたが、はっきりと断る事はせず敢えて気を持たせるような言い方をしてしまう。

「今この場で即答はできかねます…。少し…考えさせて下さい」

私も水谷の事をとやかく言えるような人間ではなかった。
こうやってあざとく自分のエゴを押し付けようとしているのだから…。

結局、私が水谷を失う事が嫌なだけだ。
だから曖昧な返事で誤魔化しているのだ。