水谷が連れてきてくれたのは、M市でも予約がとれない事で有名なフレンチレストランだった。
私はマナーなんかよくわかっていないから少し気おくれしてしまう。

相変わらず涼しい顔をした水谷が店の入口をくぐりぬけると、いわゆるギャルソンと呼ばれる人が、

「水谷様、いつも有難うございます」

と言って頭を下げた。

こんなお店に頻繁に来ているのか、と再びひいてしまう自分。

通されたのは普通の席ではなく、ちょっとした仕切りのある個室風の席だった。

「勝手にメニューも決めてしまいましたが、好き嫌いはありますか?」

私の了解も得ず勝手に決めている事にわずかながらショックを受けた。

だがそんな事はおくびにも出さず、「いえ、大丈夫です」と答えた。

次々と運ばれてくる料理たちはまるで絵画のように美しい。
こんな料理を好きな人と一緒に食べるなんて、普通の恋人同士なら至福の時なのだろう。

でも私と水谷は普通の恋人同士ではない。

間違いなくおいしいはずの料理も、私には味気ないものだった。
食事中も相変わらず会話が弾まない。

確かに私の返答にも問題はあったと思う。

ただ水谷が振ってくれる話に、「そうですね」とか、「そうなんですか」程度の事しか言えなかったから…。

一通り料理を食べ終え食後のコーヒーを飲んでいると、水谷が突如話を切り出した。