「ひとまずランチへ向かいましょう。お腹はすいていますか?」

実は緊張しすぎて、昨日の夜から今朝までほとんど食べていない。
だからかなり空腹ではあった。

でも今、隣に水谷がいるという極度の緊張状態では、お腹よりもむしろ心臓の心配の方が先だった。

私はドキドキしながらただ、

「はい…」

とだけ答えた。

水谷は、「じゃあ、お店に向かいますね。予約してあるんです」と言って、そのまま会話は途切れた。

再び沈黙が二人を包む中、私は今から行くのがどんなお店なのか尋ねて話を広げてみようかと考えた。

だが、それも断念した。
どうしても会話が続きそうな気がしなかった。

よくよく考えてみれば水谷は営業なのだから、しゃべりは彼の方がお手の物ではないのだろうか?
それを敢えて口下手な私が話題提供する必要はないはず…。

そう思って私は水谷の方から会話を仕掛けてくれるのを待ったが、一向にその気配はなかった。

しかも運転する水谷は至って普通で、とても気まずさを感じているようには見えない。
私が気にしすぎているのだろうと思い直し、そのまま車に揺られていた。