「君の返事を先方にしたところ、いたく喜ばれてね。少しでも早く、結婚に向けて準備をしたいと、それはもうノリノリなんだよ。
あの短い時間で、相当気が合ったようだね」

部長にそんな風に言われて私は耳が痛かった。

だって事実は部長の言葉とは違っているから。
部長の言う通りならどれほどよかったか。

でも私はまだあきらめてはいない。
水谷とは始まったばかりだ。

これからは自分次第でいくらでも変われる、愚かな私はそう信じて疑わなかった。

「ありがとうございます…。でも、とりあえず、お付き合いしてみてから…と思っております」

私の答えに、部長がいぶかしげな表情になった。

「松島くん…。君の気持ちはわからくはないが…。一体彼のどこが不満なんだね?
仕事もできて、随分男気がありそうな感じだったが…。それに…こんな事言うのはなんだが…。彼のご両親は既に他界されている。将来、親の面倒を見る事もないんだ。
こんなにいい話はなかなかないと思うんだがね…」

部長の問いに答える事ができずに、黙ってしまう。
少しの沈黙が続いたが、その沈黙を奥様が破った。

でも機関銃のようにまくしたてるいつもの奥様とは違い、まるで子供を諭すように話し始める。