部長夫妻に案内され、用意された部屋に入る。

ドアが開くと緊張でどうにかなりそうだったが、幸いまだ水谷たちは来ていないようだ。
ホッと一安心する。

「あなた、先様はわたくしの顔しかおわかりにならないでしょうから、わたくしロビーに戻りますわ。智子さん、もう少しここでお待ちになってね。
主人と一緒じゃ、息がつまるでしょうけど、辛抱なさって」

笑いながらそう言って、奥様は部屋を出た。

奥様が出るやいなや、部長が話しかける。

「松島くん、もっと楽にして。今からそんなに緊張してたら、持たないだろう」

「すみません…」

そう言われても私にとってはあの水谷との再会なのだ。

忘れようと思っても忘れられなかった、かの人との再会。
緊張するなと言う方がムリだ。

しばらくするとドアをノックする音が聞こえた。

私は再び緊張で体が硬くなった。

「失礼します…」

そう言って先に入ってきたのは奥様だった。
その後ろに年配の男性が一人、さらに最後尾には水谷がいた…。

私は慌てて椅子から立ち上がった。
慌てすぎて隣に座っている部長に当たりそうになる。

部長に目配せして謝ってから今入ってきた人たちに視線を向けた。

まずは奥様が、「お待たせしましたわね」と言って紹介を始めた。

「こちら、本日の主役のおひとりでもある、D自動車の水谷賢様です。
こちらが水谷様の上司で、同じくD自動車の営業所長の宮内(みやうち)様です」

紹介された宮内という上司が先に頭を下げ挨拶をする。

続いて水谷がきりっとした態度で挨拶をした。