さすがにたくさんの部下を束ねている部長だけに、私の気持ちなんて簡単に見透かされている気がした。

「会って…みるだけなら…」

気が付くと私は部長にそう返事をしてしまっていた。

詳しい日取りと場所はまた連絡すると部長に言われ部屋をあとにする。
当日は私一人だけで、両親は来なくてもいいと言われた。
いきなり両家の両親も同席するとお互いに断りにくくなるからという配慮かと思いきや、そうではなかった…。

その理由は、水谷の両親がもう既に二人とも他界していたからだった。

私は今まで知らなかった彼の情報をひとつ手に入れた。
これからもっと彼の事を知る事ができるのだろうか…。

それとも…

私はふと、最後に水谷と話した時のあの冷たい声を思い出していた。

そして面倒くさいものをさっさと切り捨てたいのがありありとわかるような物言い。

会うと決めたものの、あの時の水谷の事を思うと気持ちが沈む。
それなのにもう一度彼に会いたいという気持ちも捨てきれない。

この時、私がもう少し冷静になって考えていれば…

わずかによぎった自分の直感の方を信じていれば…

後々あんなに傷つく事はなかったかもしれない。