「…そういえばさ…。智子その人に名刺もらったって言ってなかったっけ？」

名刺？
もちろん、持ってるわよ！あたしのお守りなんだから！

そう心の中でつぶやく。

「うん…。もらったよ…。それがどうかした？」

一体沙由美が何を思いついたのかわからなかった私はおそるおそる聞いた。

私と違ってひらめきで生きているような沙由美は、いつも私が思いもつかない事を言い出すから。

「今持ってる？あるならちょっと見せてよ」

私はいつも大切にケースにしまって持ち歩いている水谷の名刺を沙由美に渡した。
渡し際に思わず「汚さないでよ！」と叫んでしまい、沙由美の冷たい視線が刺さった…。

しばらくジッと名刺をみつめていた沙由美は、おもむろにスマホを取り出して何か画面をいじっている。

いまだにガラケーの私はスマホの操作に詳しくないから、沙由美が何をしてるのかよくわからなかった。

すると沙由美が急によそ行きの声になる。

「あの～Ｍ市立病院の石田と申しますけど…。営業課の水谷さんいらっしゃいますか？」