「ねえ、智子。アンタのため息の原因って、やっぱりあのイケメン格闘家なの?」

沙由美がつけた水谷のニックネームに思わずビールを吹き出しそうになる。

「な、何よ、そのセンスないネーミング……」

私の言葉にウケる沙由美。

「だね!悪い悪い。でもすごかったんでしょ?他にも見に行ってた人から聞いたよ。ちょっとした映画のワンシーンみたいだったって」

私は沙由美の話を聞きながら、あの時の光景を思い出す。
水谷のしなやかな動きや爽やかな笑顔が頭に浮かび、思わず顔が緩んだ。

「ほぉら!また!智子のその顔、恋する乙女~って感じ」

「……だって……」

私がうつむくと、沙由美は「ごめんごめん」と言って頭を撫でてくれた。

「それで、その後は全く進展なし!と」

ビールを飲んでプハーっとオヤジのように漏らしたあと、沙由美が言った。

「え…、なんで…わかるの…?」

私が尋ねると、沙由美は一度大きく息を吐いた後こう言った。

「あのね、智子。それくらいはあたしじゃなくても誰でもわかるの。アンタを見てれば一目瞭然。"お礼をさせてください"って言ったとこまでは、アンタにしては上出来だったんだけどね~。なんでそのまま放置してるかな~」