その笑顔を見た途端…

私の心臓は、自分史上一番と思える位ドキリと跳ねた。

そんな私に気付く筈もない彼は

「ああいうヤツには気をつけて下さいね」

と言ったあと、踵を返して再び歩き出す。

あ…
まだ…行かないで欲しい…

心に芽生えてしまった思いは、今までの私を簡単に変えてしまう。

いつも何かを自ら求めた事などなかった私が、初めて水谷だけは自分から求めた…。

「待って!待って下さい!」

大きな声に呼びかけられ、水谷は再びこちらを振り返る。

そして再び彼のそばまで小走りで近づいた。

「あっ…、あの…、お礼を…させて下さい!」

意を決してそう言いながら頭を下げた。

「そんな事、いいですよ」

と水谷は笑顔で言った。

しかし私は引かずに頭を下げ続ける。

最後には根負けしたのか、「わかりました…」と言ってくれた。

「連絡先を教えて頂いていいですか?」

私がそう言うと、携帯を取り出す。

「僕の方からかけますよ。番号、教えて頂けますか?」

私は慌てた。

「いえっ!わざわざかけて頂くなんて…。私がお願いしたので私からかけます!」