「最後にお願いがあります…」

「何ですか?何でも言って、下さい…」

「いつもあなたの背中ばかり見ていた気がするんです、私…。あなたの背中を追い続けて、振り向いてもらえずに…。だから…最後は、あなたが私を見送って下さい。今まで一度だって言ってもらった事なかったけど…、"行ってらっしゃい”って言ってもらえますか?」

泣き笑いをしながら言った私に、水谷も涙をにじませながら笑顔で言ってくれた。

「わかりました…。…行ってらっしゃい…。…智子……」

昔のように…
一緒にいたあの頃と同じように…

最後に私の名前を呼んでくれた…。

その水谷の優しさに、涙があふれ出す…。

そして本当に水谷とはこれでお別れなのだという思いが募り、込み上げてくる切なさで息ができない…。

どんなに愛しても…
もう、二度と…叶う事のない…

私の最初で最後の本気の恋…。

だけど私は歯を食いしばって笑顔で答えた。

「行ってきます…」

そしてそのまま水谷を振り返る事もなく、私は急いで自分の車に乗り込んだ。
とどまる事なく流れ続ける涙を、この涙をこれ以上水谷に見られてはいけない…。

そう思った私はすぐにエンジンをかけて車を発進させた。