「羨ましい…。その方が…」

思わず本音が漏れてしまった…。

私が水谷を恐れずに、逃げずに真正面から向き合っていれば…
その女性のように、気後れする事なくはっきりと水谷に進言していれば…
もしかしたら、私たちの未来は別のものになっていたのかもしれない。

でも、それは今さらだ。
本当に今となってはどうする事もできない。

私は不思議と腹も立たず、清々しい気持ちになっていた。

水谷が包み隠さず全てを話してくれたからなのか…。
私自身が全てを話す事ができたからなのか…。

多分、その両方なのだろう。

「智子さん…。俺たちは夫婦としてはうまくいかなかったけど…。恭平と聡介の父と母である事は、これからも一生変わりません。何かあればいつでも言って下さい。できる限りの事をさせて欲しいから…」

水谷はそう言いながら、私に右手を差し出した。

握手して…それでお別れ…という事なのか…。

私は前に向き直り、言った。

「ありがたい申し出ではありますが…お断りします…」

私の一言に水谷は差し出していた手を戻す。
そして明らかに落胆したような声で言った。

「…やっぱり…俺とは二度と関わりたくないですか…。当然といえば当然かもしれない…。それほどの事をあなたにしたという事ですね…」