「ほんとに…あなたは初めて…自分以外の誰かのために何かをしようとしたんですね…」

私の言葉に、水谷は驚きの表情を見せる。
その水谷の表情が、私を更なる絶望の底へと突き落とす。

無意識に彼女の事だけを想った水谷の言動は、本人が気づかない所でなされていたという事実。

そこまで…

あんなに冷徹だった水谷が、そこまで心を奪われたなんて…。

「自分でもわかっていないんですね、あなたは…。
いつだって、あなたは自分のためだけに生きてきたじゃないですか…。
相手の気持ちを思いやる事なんか、してこなかったあなたが…。
初めて人の事を考えて行動したんですよ…。それが…私じゃなく、その人だったのは…本当に…悔しいですけど…」

もしあの時…
水谷が私とやり直したいと言ってくれた時。

私がイエスと言っていたとしても、結果は変わらなかった気がする…。

なぜならそれは…
彼を変えたのが私ではなくその人だったから…。

その人の存在、その人の言葉で、水谷の頑なだった心は溶ける事ができたのだから…。